俺のディナー
「本当にすごいですね」
「だから言ってるだろう、そなたのおかげだと。ああ私が持つぞ」
本当にきれいな顔で笑っている。
俺がコボルトたちの遺品とでも言うべき棍棒と剣を集めて抱えようとしていると、ミナレさんは持とうとしてくれた。
ミナレさんのが強いから手を自由にしなきゃいけないって事であきらめてくれたけど、俺はどうしてこんなに好かれてるんだろう。
「どうした?」
「いえ、こんなに素直にほめてくれたことなんかなくて、何につけても孤児が孤児がって」
「氏より育ちだ、どんなにいい家柄に生まれようとも卑しい人間はいるし逆もまたしかりだ」
アックーもルワーダもギビキも、親もいたしきょうだいもいたらしい。それがいいのか悪いのか今はわからないけど、その時はすごく悲しかった、悔しかった。
俺らが見捨てたらお前は本当の一人ぼっちになるぞ、そう何べんも言われた。
「そなたを見捨てたパーティと言うのは相当に頭が悪いな」
「そこまで言わなくても」
「本当に優しいのだな」
ミナレさんは、本当にいい笑顔をしている。どうしてこんな笑顔ができるんだろう。
「これを、二人が?」
「いや、こちらのミナレさんがほとんど」
「いやそれはこのノージのおかげだ」
そんな調子で俺らがたどり着いたファイチ村って村で、俺達は収穫を換金した。棍棒とか売れるのかよって話だけど自衛用の道具になるし、普段そういう道具作ってる人が他の仕事ができるようになるからってその分の手間賃も取れるって。
そういう訳で俺たちは、銀貨十枚をもらった。
「なかなかの大金だな」
「へえ、むしろ安いぐらいで。本当はもっと出したいんですけどね」
「ありがとうございます」
俺は頭を深く下げる。当然の礼儀だ。
「どこで教わったんだ」
「いや特に、いつもやってましたから」
「大変だな」
こういう交渉とかはいつも俺かルワーダの役目だった。幾度も丁寧に頭を下げ、必死こいて向こうから条件を引き出そうとする。アックーは全くやらないし、ギビキは今思うと俺に丸投げしてた。それでうまく行ってたからいいけど、今思うと少しばかり無責任な話だったと思う。
「とにかく余分なお金ができたからな、今日はディナーでも取るか」
「いいんですか!」
「たまにはそういうのも必要だ。だいたい冒険者と言うのは体が資本だからな、美食を楽しむのは悪い事ではない」
「それでどこで」
「とりあえずあそこだろう」
ミナレさんは村の中央にある建物を指差した。
そこには多くの歓声が鳴り響き、ナイフとフォークの看板がかかっている。
「でも俺はいつも」
「チーズばかり食べていたのか?」
「いやそんな事は、でも」
「私が出すと言っているのだ、何をためらう事がある」
毎日食事をお金にすれば、銅貨五枚を超える事はなかった。もちろん朝夕の二食だけで、三食だなんてごくまれだ。元から昼食なんて年に数度のごちそうであり、パンのひとかけらでもありがたかった。
「この店で一番いい料理を頼む」
だと言うのにミナレさんはそう言いながら銀貨一枚をその店のテーブルに置いた。店員のお姉さんが目を剥き、あわてて銅貨八十枚を差し出す。
「銀貨だなんて、そんな……お連れ様との二人分でも銅貨十枚だよ」
「それで構わぬ」
銅貨十枚でも十分に大金だ。その銅貨十枚をはたいて何が出て来るか、不安でもあり楽しみでもあった。
そして、そんなのはみんな同じだった。
「オイオイオイオイ~」
どこか耳慣れた口調。
その時よりちょっと太いがどっちにせよ体をすくませるには十分な破壊力を持っている。
「どうした」
「どうしたじゃねえよ、頭痛女」
頭痛女とか言いながらミナレさんを指差した男。
髪の毛は激しく跳ね回り、口がどこにあるのかわからないほどにひげを生やし、ひげのない部分には傷が見える。
そして首から下は、単純に大きい。俺の倍とまでは行かないにしても1.5倍ぐらいの大きさはありそうだ。
「なんだなんだ、こんな坊やなんか連れてディナーか~ずいぶんと奇妙なご趣味をお持ちのようだな」
「どこの誰だか知らないがそんな物言いをされる覚えはない」
「俺はトウミヤからやって来たマセケってもんだ。この辺りじゃ一番の冒険者だ」
トウミヤと言う単語も、俺にとっては頭痛の種だった。
ほんの少し前まで、大金を払って泊まっていた宿のある町。ぜいたくをいとわないアックーたちのせいで俺がいくら悩んでも、その度に孤児が孤児がってちっとも耳を貸そうとしない。
「そのこの辺りで一番の冒険者が何の用だ?」
「頭痛のための治療費で財布が空なんだろ、そんなディナーなんかもったいないだろ、俺様がもらってやるよ」
「バカも休み休み言え」
「お?バカ?俺様をバカ?……信じられねえ、まじ信じられねえ……!」
で、いきなり泣き出した。
本当に分かりやすく目に涙を浮かべて泣き出した。
……これもアックーの、そしてギビキの得意技だったな……。
ああ、ミナレさんじゃなくて俺の頭が痛え。
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