何か強いですね

「何を見とれていた」

「いや何、きれいだなって」



 俺はこれまで、こんなきれいな女の人を見た事がなかった。


 ずっとギビキが一番だった。

 いや、ギビキとミナレさんではかなり違う。


「それにしても、ずいぶんとすごい力だな」

「そうでもないですよ」

「さっきも言っただろう、私の頭痛は医者でも僧侶でも治らなかったのだ。それを治してくれただけでもノージは見事な男だ」



 本当に素直にほめてくれている。

 これもまた、今まで生きてきて初めての体験だ。

「どうした?そんなに泣く事はないだろう」

 ……で、なぜか泣いていたらしい。俺ってそんなに涙もろいんだろうか。


「しかしノージ、そなたの名前をなぜか私は聞いた事がなかった。それほどの力の持ち主がどうしてここにいるのだ」

「実は俺、ついさっきパーティを放り出されたんです」

「ハア……」

 で、あるがままを語ったらまたミナレさんの頭痛が再発してかのように右手を頭に当ててしまった。俺があわてたように頭を下げると、ミナレさんは右手を激しく横に振った。

「いや何、そなたほどの力の持ち主を放り出すとはな、とんだ馬鹿がいた物だと呆れてしまってな、そなたのせいではないぞ」

「そうでもないですよ、さっきのを除けばほとんど役に立ってないですから」

「さっきのだけでも十分なんだが……」


 で、最後には腰を下ろしながら笑い出した。本当、楽しそうな人だ。

「それで正直当てもないと」

「ええ」

「良かったら私と同じ方向に行くか?」

「そうさせてください!」

 そのミナレさんからの誘いに乗る形で、俺は付いて行く事になった。




 草原の草が、俺の足をくすぐる。けもの道ってほどじゃないけど少し道は荒いけど、こちとら慣れっこだった。


「この道の先には何があるんですか?」

「二つ、いや三つだな。

 一つ目は魔物の巣、二つ目はは目的地の村。

 そして三つ目が、今回の目的である山賊団だな」

「山賊団……」

 山賊とか盗賊とか、そんな連中もたくさん捕まえたり殺したりして来た。その度に適当に達成感得たりとか罪悪感得たりして来たけど、アックーはまったく平気だった。実際報酬をたんと受け取ってたのはアックーだったし、おこぼれを拾って来た俺にはおこぼれしかもらえなかった。

 それでも必死に狩りまくってたから、あっという間にAランクパーティになれたんだろう。出会ってからたった二年で。やっぱり「勇者」ってのは優秀なんだろうなって……

「来たぞ」


 ああ、声でわかる。コボルトの群れだ。

 コボルトを倒せないならば冒険者なんかやめちまえと言うのが冒険者仲間での定番文句であり、さっきもそうだったように俺だって狩れる。

 ただコボルトが弱いのは性格的な面であり、もし純粋に戦いに集中できていたら危ないとも言われている。まともに挑みかかればこっちも危ない。



 そして何より、数が半端ない。

「これ、100以上いますよ」

「大丈夫だ」

 でもミナレさんは自信満々だ。

「でもさっきまで頭痛」

「なんだかそなたのおかげで頭だけでなく体が軽くなってな、これぐらいならば何とかなる」


 何とかなるって、閃光の英傑でも100匹以上のコボルトを倒すのに三十分はかかったってのに。

「さっきは恩人に刃を突き付けた事も良くないし、それに刃の切れそのものも最悪だった。いや逆に良かったのだがな、本来のそれだったらそなたを殺していたかもしれない」

「あはは…」

 笑う事しかできない。あれで本来のそれじゃないのか。



 まあとにかくやるっきゃないと思っていると、いきなり風が吹いた。

「ア」

 コボルトのうめき声、のはずだ。それなのに、一文字しか聞こえない。さっきの俺とはえらい違いだ。


「テキ、ツヨイ!」

「オチツケ、サッキノオンナ!ヨワッテイル、ムリヲシテイル!タタク、タタク、タタク……!」


 赤いコボルトの声と共に、コボルトたちが一斉にミナレさんに襲い掛かる。確かこれはコボルトの中ではちょっと強いハイコボルトって種類で、小さな群れとかだとリーダー格になる事もある。

 と言う事はこいつがここのリーダーか。って言うか棍棒じゃなくて剣持ってるし、なかなか強そうだし頭も良さそうだ。


「ジャマヲスルナ!」

 そして俺も狙って来た!確かに、ミナレさんの味方ならばコボルトの敵だよな!

 しかも三匹。


 戦いに集中されると怖い。実際、最初の頃、「閃光の英傑」とか言う二つ名をアックーが使い出した時は三匹でもかなり震えていた。

 そして気が付けばほっとかれて俺一人でコボルトの三匹や四匹いっぺんに相手させられる事も少なくなかったけど、それでもかなり厄介だ。


 —————だから。



「うわ、わわわ、うわー!」



 俺はわざとらしいほどに脅えた声を出した。

「アハハ、ハハハ……!」

「ザコ、ザコ…!」

「タオス、アノオンナ、タオス!」


 ……とかやってる間に、俺は後方に回り、剣で一匹のコボルトの背中を突いた。

 そして何が起こったのか悟られない間にもう一匹の背中を刺し、振りむこうとした最後の一匹の胸を突く。


 一人で多数のコボルトを相手にする場合はこうして油断させ、隙を作った所に一撃を加える。そうするのが基本だった。でもハイコボルトには通じないからそういう時は逃げるか、部下のコボルトがいればそいつらを一体一体片して行く。そうすればほどなくして逃れて行く。

 その事は教わったのではなく、勝手に身に付けてしまった。




 で、次は……




「ふぅ、ありがとうノージ……」


 あれ?コボルトがいなくなっている。


 いや、百匹はいたはずなのに。


「あのチーズは本当にすごいな」




 あ、ありがとうございます…………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る