第4話 【ASMR】カワイイわんちゃん

   #通常(前から)。


日由美

「ふふ……気持ちよさそうに横になってるね、湯者くん。」

「嬉しいなぁ。わんちゃんにとってはね、ごろーんって転がってお腹を見せるのは信頼のサインなんだよ。」

「んー……。」


「湯者くんってさあ、なーんか、わんちゃんみたいでかわいいんだよねぇ。」

「よしよーしってしたくなっちゃうっていうか……構ってあげたくなっちゃうっていうか……。」


「そういえば、わたしが犬好きなのは知ってると思うけど、理由までは話してなかったよね?」

「せっかくだし、ちょっとだけその話しちゃおっかな。」

「湯者くんはゆったりできてるみたいだし、目は瞑ったまま、のんびり聞き流してくれれば大丈夫だからさ。」


「わたしが住んでるここ、南房総って、かの有名な『南総里見八犬伝』っていう物語の舞台なの。」

「どんな物語かっていうと、お姫様と彼女に従う八人の青年ーー。」

「〝8人の〟〝犬の〟〝もののふ〟と書いて、〝八犬士〟の青年たちの冒険活劇なんだよ!」


「〝けんし〟って言われたら、〝つるぎ〟の方の〝剣士〟を思い浮かべると思うけど……。」

「八犬伝では犬の漢字を当ててるんだよね。」

「だからかな、八犬伝には色んなパロディ小説が出てるんだけど、八犬士を犬のキャラクターに置き換えた作品も多いの。」


「わたしもさー、子供の頃、そういう作品のひとつにハマってたってわけ。擬人化ならぬ擬犬化って言えばいいのかな?」

「挿絵もいっぱいでさ、わんちゃんたちが所狭しと大活躍してて、すっごく可愛いくてカッコよかったんだ~。」


「むしろ、そっちを先に読んだせいで、原作の八犬伝を読ん時はびっくりしたけどね~。犬じゃないじゃん! って。」

「でも、お話が面白くて、そんな事すぐに気にならなくなったけど。」

「小説を書きたいなって思ったのも、八犬伝が切っ掛けなの。」


「面白かったのはもちろんだけど、なによりも八犬伝が多くの人に、ずーっと長い間親しまれてるのが、すごいな、って思ったからなんだ。」

「末永く、いろんな人に愛される……そんなものをわたしも残せしたいな、って思って筆を執ったの。」


「そうそう、知ってた? うちで飼ってる村雨丸もね、名前の由来は八犬伝なんだよ?」

「犬に八犬士の名前をそのままつけるのは芸がないなーって思って考えた結果、八犬士のひとりが持ってる名刀の名前にしたの! イカすでしょ~!」


「……ま、まあ、湯者くんも見たことあると思うけど、村雨丸はポメラニアンだから、カッコいいっていうより……。」

「うん、ブサかわいいんだけど……。」

「まあ、オッケーオッケー♪」


   #近づいて。


日由美

「くふふ……♪ いつもね、村雨丸とじゃれるときは、こうやって顔の高さを合わせるんだ。」

「よしよし……ってしてあげると村雨丸、尻尾振って喜ぶんだよー…………。」

「ね。湯者くん。わたしたち、今、恋人だよねぇ?」


「恋人なんだからさぁ。彼女のためには何でもしてくれるよねぇ……?」

「実はぁ……前からやりたかったことがあるんだけどぉ……フフフ……。」

「わたしね……ずっとね……君を! 犬可愛がりしたかったのーーっ!」


「あーー! 言っちゃった! もう我慢できない! 湯者くんは今からわたしのわんちゃんね!」

「わはははは! 逃がさないよ~! じっとしてて! じっとしててくれれば終わるから! わたしが全力でかわいいかわいい~ってするだけなだから!」

「覚悟はいいかね? じゃあ、いくよ~~。」


   #以降、耳元で愛情たっぷりに。


日由美

「よしよーし、よしよーし……いいこいいこだよー。」

「もー、ほんと食べちゃいたいくらいかわいいなぁ。」

「んー? どうしたの? そんな尻尾振っちゃって~。」


「頭なでなでが気持ちいいね~。」

「お腹なでなでも気持ちいいね~。」

「なーでなーで……なーでなーで……からの、ほっぺたむにむに~!」


「ふふ! ほっぺた、ふわふわ、やわやわだねぇ。」

「わたしが毎日こねこねしてるもんね~。」

「君はほんとにかわいー、かわいーだねぇ~!」


「うちの子になってくれて、ほんとに嬉しい!」

「もー、ぎゅーってしちゃうよ! ぎゅ~~~~~~~!」

「……くんくん。君のにおいもぉ、やっぱり落ち着くよ……。」


   #右から、日由美の犬吸いが聞こえる。


日由美

「すーーー……はーーー……すーーー……はーーー……あったかくて、ふわふわで、いい心地…………そ・れ・に~。」


   #意表を突くように右耳を軽く吹く。


日由美

「ふーー。えっへっへ~! びっくりした?」

「ごめんごめん! 途中まではわんちゃんだと思って可愛がってたんだけど、なんかスイッチ入っちゃって……。」

「もちろんわんちゃんにはやんないよ! 犬の耳は敏感だからねー。」


「で・も……♪ どうやら、君の耳も敏感なようですな~?」

「そっかー。ふーん……だったら、もうやめた方がいいかなー……?」

「ダメって言われても……やるけどね!」


「ふーーー。」

「ふーーー。」

「あはは! かーわいー♪くすぐったい? くすぐったいかな?」


「んー? もう一度してほしそうだな~? しょうがない子めぇ~。」

「よしよし。ほーら。」

「ふ~~~~~。」


   #通常戻る。

   #距離も接近状態から戻る。


日由美

「あははっ! 湯者くんはほんとにかわいいねぇ。」

「もうさ、村雨丸みたいに君もうちの子になる?」

「そうすれば、もっと一緒にいれるし……人間を飼うって、作家的に有意義な体験になりそうだだしねぇ……。」


「うぇへっへっへ! かわいい子は逃がさないぞ~~~!」

「あはは! うそうそ! 冗談だよ!」

「……まあ、もっと一緒にいられたらいいな、ってのはほんとだけどね。」


「おっとぉ! 流れで恥ずかしいこと言っちゃったかなぁ~~。」

「でも、今日だけははまだ一緒にいてくれるよね、湯者くん? 一応、今は恋人的な感じなわけだし……ね?」


   #無言(日由美の息遣いのみ)。


日由美

「ちょ、なんか喋ってよ! 照れちゃうから。」

「も~、わざと? わざとなの!? わたしの台詞スカすのやめて~! いじわるな湯者くんにはお仕置きしちゃうぞ!」


「せーの……よーしよしよしよし!」

「ふふふ! 村雨丸と同じくらい激しくわしゃわしゃしてやる~!」


「よーしよしよし! よーしよしよし~~~~!」

「お? おっ? こっち? よしよーし! よーしよしよしよしよし~~~~!」

「あはは! いやー楽しかった!」



《第5話へ続く》


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『ASMRボイスドラマ 温泉むすめ 南房総日由美とあなたのあまあま小説』(CV・徳井青空)

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