第2話
20XX年、4月。人々の新しい生活が幕をあげようとした頃。それ────THINGは現れた。都心上空、宙と空の狭間で一つの立方体が現れたのだ。THINGは地上にいる我々人間から──いや、視覚というものがどんな微笑生物に存在したとしたら、その生物でさえも──肉眼で確認できるほどに巨大であった。THINGが出現すると、その直下約100km^2に位置した人間に錯乱状態が訪れた。その後、彼らは48時間以内に死亡したという。
THINGが現れてから50年。THINGは未だにその動きを見せず、都内上空に静止したままである。
ここで物語の主人公は若き少女に移る。
──都立○○西高校にて。
甲高い音が教室に響き渡る。その音はある終着点を目指すかのように教室から出ていった。音は上下左右に動き回るが、確実に一つの意志を持っていた。音は急にぴたりと鳴り止んだ。少女の息遣いが聴こえる。目の前にある木製の扉が、バタン!と大きな音を立てて開いた。
「おい!ケイはいるか!?」
怒号にも似たその芯から響く音が部屋中にこだました。だが、その疑問、はたまた怒りは直ぐに環境に呑まれてしまった。
「あぁ!?ケイ?そんなやつはここにいねぇよ!!今日は帰っちまったんじゃねえか!?あンの野郎……次来た時は絞めてやる……。」
「ケイなんてどうでもいいからさ!シキ早くこっちに来て!!明日締切の原稿がまだ終わらないの!!!」
2人の人間が慌ただしくキーボードを打ちながら、大声で私に「原稿を手伝え!」と怒鳴り散らかしてくる。周りには無数に登る書類の数々、それにほんの少し、私たちの趣味の本が並べられてある。私の声はこの部室の声と書物に掻き消されてしまったのだ。
私の名前はシキ。今年から高校3年生になった女。言葉遣いから女と扱いはされないけれども。とまぁ、自己紹介はこんな感じで。
「原稿!?そんなもん捨てちまえ!んなことよりケイだ!あいつ、世界を変えるような大発見をした、って言うからわざわざこんなクソみてぇなとこに来たのに居ねえじゃねぇか!」
「そんなこと言われても私たちには分からないって!ねぇマサル。シキをどうにか説得して原稿手伝わせてよ!」
「んなことできねぇってミユ。今この状況を鑑みてどうやって説得しろって言うんだ!手を離すことさえままならない文量なんだぞ!」
3人の大声が部室中に響き渡る。話は堂々巡りだ。
「もういい!てめえらに何聞いても無駄だ!私1人でケイを探してくる!」
シキが大声でそう言い放った瞬間、えもいわれぬ寒気がシキを襲った。音がした。微小な音が。上からしたんだ。その音は私たち目掛けてやって来る。音がどんどん大きくなる。これは何の音だ?風、風を切る音がする。そう頭に浮かんだ瞬間、シキの目の前にあるモノが映りこんだ。次の瞬間、鈍い音が地上から、この校舎3階にある部室にまで響いた。
シキは静止した。生命活動を停止したかのように、微動だにせず、音さえ発さずに、ただそこにあった。
「ん?どうしたのシキ?ケイくん探しに行かないの?行かないなら早く手伝って。」
「おいシキ!早く手伝え!これ明日までに納めないと俺たちの仕事が無くなるぞ!」
「ケイだ。」
「「ん?」」
ほんの瞬きの金縛りから解け、少女は窓に駆け寄った。指紋をべたべたと貼り付けて窓から体を投げ出し、真下を見ると、ケイは────居ない。
「は?」
THING 久居 薙 @Qu1NAGi
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