『アイリの異変と、ディアの苦悩』(3)

アイリは、ディアのベッドで目を覚ました。

朝になっていて、カーテンの外は明るい。

いつの間に眠ってしまったのか、今日も記憶が曖昧だ。

隣には誰もいない。そのせいか、少し肌寒さを感じる。

ディアが帰ってくるまで起きていたかったのに……と思いながら、ベッドから降りる。

すると、


バァン!!


ノックもなしに突然、乱暴に出入り口の扉が開かれる。


「アイリ、起きたか!?大変だぞ!!」


入って来たのは、兄であり、代理魔王のコランだ。

アイリは驚いて思わず叫ぶ。


「お兄ちゃん、女の子の部屋なんだから、ノックくらいして〜!!」

「え?なんだよ、ここ、ディアの部屋だろ?」

「あ……」


アイリは笑いながら恥ずかしそうに舌を出した。

だが、コランは深刻な顔をしていて、いつもの明るさがない。


「それで、何が大変なの?」

「あぁ……ディアが……」

「え?」


ディアが、昨日の夜から帰ってきていない。

それを聞いたアイリは昨日の胸騒ぎもあって、不安に体を震わせた。


「ど、どうしよう、お兄ちゃん……ディア、何かあったんじゃ……」


コランは、今にも泣きそうなアイリの両肩を掴んで言い聞かせる。


「きっと大丈夫だ。念の為、捜索隊を出すから、アイリは大人しく待ってろ」

「や、やだ……私も探しに行く……」

「森は危険な状況かもしれないだろ。任せておけば大丈夫だって、な?」


いつものように明るく振る舞うコランだが、心配な気持ちはアイリと同じ。

だが、仮にも今は魔王なのだ。その意識がコランを強く気丈にさせる。

その時、アイリの意識の中で、再び『あの声』が聞こえる。


『だ〜か〜ら、心配なら、行けばいいのに』


見下すような少女の声、口調。それが誰なのかは、分からない。


(誰?この声、誰なの……?……ディア……帰ってきて、ディア……)


視界がグルグルと回り出し、変な不快感に襲われる。

急に目眩を起こしたアイリは、フラフラと身体を揺らし、そのまま床に倒れてしまった。


「おい!!アイリ!?大丈夫か!?誰か!!医者を呼んでくれ!!」


アイリの薄れていく視界と意識の中で……

廊下に飛び出して叫ぶコランの大声だけが微かに響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る