『アイリの異変と、ディアの苦悩』(2)

ディアは、一瞬にして野生を宿した金色の瞳を鈍く光らせて、相手を睨んだ。


「森を荒らし、魔獣を狩る行為……断じて許しません」


ディアは静かに怒りを込めると、懐から小型の拳銃を取り出した。

これは弾丸の代わりに、魔力そのものを込めて撃つ武器。

しばらく銃撃戦を続けるが、拳銃では猟銃に太刀打ちできない。

男の一人が、仲間に向かって叫ぶ。


「ヤツの魔力が落ちてきたぞ、一気に狙え!!」


ディアは拳銃を撃てば撃つほど、魔力を消耗していく。

弾丸ではなく、魔力そのものを放出しているからだ。

長期戦になれば、確実にディアの方が撃たれてしまう。


(くっ……魔獣の姿になれば……!!)


ディアは歯噛みする。魔獣の姿に戻れば、簡単に勝てるからだ。

しかし密猟者を前にして感情が昂り、魔力が尽きかけている今、魔獣の姿に戻ったら……

魔獣の本能を制御できずに自我を失って、この密猟者たちを喰い殺してしまうかもしれない。

魔獣となったディアを制御できるのは、彼が『契約』によって忠誠を誓った、魔界の王族のみ。


(アイリ……様……)


すでに何発かの銃弾がディアに命中し、致命傷には至らないものの、かなり負傷していた。

考えている余裕など、ない。

だが先に、ディアの魔力に限界がきていた。


「うぁぁぁああ!!」


ディアが咆哮とも言える叫び声を上げると同時に、彼の体が発光する。

その光が膨張し収まると、そこにはコウモリの羽根を持つ、巨大な魔犬が佇んでいた。

ディアの、本当の姿である。


魔獣であるディアは変身魔法によって、人の姿を留めているに過ぎない。

いや正確には、凶暴な魔獣の姿と本性を、魔法によって『封印』しているのだ。

当然、魔力が尽きれば、魔法も封印も解けてしまう。


3人の男たちは戦慄した。初めて見る、『最強の魔獣』の姿に。


「コ、コイツが、『バードッグ』……」

「初めて、見た……」

「や、やべえ……」


5メートルはある巨体、黒い毛並み、鋭い牙、鋭利な爪、理性を感じさせない、魔性の眼。

自我を失った魔獣・ディアの眼は、本能のまま、男たちに狙いを定めた。

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