『アイリの卒業と、ディアの求婚』(7)

朝になって、アイリは目を覚ました。

一緒に寝ていたはずのディアは、隣にいない。

ディアは早起きなので、それは当然の事だとアイリは理解している。

しかし徐々に意識が覚醒するにつれて、今になって恥ずかしさを呼び起こす。

布団の中でパジャマの胸元に触れてみると、いくつかボタンが外れている。


(昨日、私……ディアと……)


アイリは真っ赤になっていく顔を布団の中に埋めた。

昨晩の事は、途中から記憶がハッキリしない。いつ眠ってしまったのかも。

ようやく上半身を起こすと、何故か少しの疲労を感じたが、それが心地よくも思えた。

すると、部屋の扉が数回ノックされ、ディアが入ってきた。


「おはようございます、アイリ様」


ディアはいつものように礼儀正しく一礼をする。

昨晩の彼が、嘘のような……夢だったかのように、いつものクールな彼だ。

ディアは、ベッドに座ったままのアイリの前まで静かに歩み寄った。


「おはよう、ディア。あのね、昨日の事、その、あんまり、覚えてなくて……」


アイリは、胸元のパジャマの隙間から覗くペンダントを指先で撫でながら、言葉を繋げる。

すると、ディアは片手の指先を口元に添えると、僅かに頬を赤くして視線を逸らした。


「はい。実は私もです」

「そうなんだ、一緒だね……」

「申し訳ありません。お恥ずかしいです」


アイリは、ディアの言葉を逆に嬉しいと思った。

理性や記憶まで飛んでしまうほどに、愛してくれたんだと思うと。

今は曖昧な記憶でも、これからの日々の積み重ねで、少しずつ確かなものにすればいい。

……と、そんな甘い夢ばかりを見ている場合でもない。


「ディア、仕事は?ここに居て大丈夫?」

「私は今日から、アイリ様の側近ですよ」

「え?あっ……!!そうだった!」


アイリは慌ててベッドから降りて、着替えを始める。

魔王オランと王妃アヤメは、1年間の異世界巡りへと旅立った。

今日からは、代理で魔王となった兄・コランと一緒に魔界を治めるのだ。

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