『アイリの卒業と、ディアの求婚』(4)

アイリは慌てて話を変えようとする。


「そ、そういう真菜ちゃんは、どうなの!?お兄ちゃんとは……」

「え?コランくん?相変わらずだけど」


『コラン』とはアイリの兄で、魔界の王子。未来の魔王である。

そして真菜は、高校の時からコランと付き合っていて、すでに将来を約束している。

甘々なアイリとディアとは逆に、真菜とコランの関係はピュアでサッパリとしている。


「コランくんが魔王になってから結婚する約束だから、何百年先だか分からないわ」

「じゃあ、真菜ちゃんは、これからどうするの?」

「コランくんを支えるには、まだまだ勉強が必要だし、魔界の専門学校に通おうかなって」


真菜は、コランの妃になる以前に、彼の側近を目指しているのだ。

アイリは、真直ぐ夢に向かって進む真菜を見て感心した。

同級生だったのに、すごく大人っぽく見えるのだ。

……その時。


バァン!!


アイリの部屋の扉が乱暴に開かれた。


「アイリ、真菜!!入るぞ〜〜!!」


許可の返事も待たずに、一人の少年が部屋に入ってきた。

悪魔特有の褐色肌に、紫の髪、赤の瞳。

見た目はアイリ、真菜と同年代で、高校生ほどの少年。

彼こそが、アイリの兄であり、未来の魔王『コラン』である。

コランとアイリは400くらい歳が離れているが、見た目年齢は同じくらいなのだ。

アイリは扉の方を見て叫んだ。


「お兄ちゃん、女子の部屋に勝手に入ってきちゃダメ〜!!」

「え?なんだよ、いいじゃん!アイリはオレの妹だし、真菜はオレの嫁だし!」


コランはイケメンではあるが、底抜けに明るく無邪気で、言動が子供っぽい。

そんなコランを見て、スッと真菜が立ち上がった。どこか冷ややかな目線だ。


「ちょっと、コランくん。私、まだ嫁じゃないけど」

「あ、そっか!じゃあ、オレの『カノジョ』だな!」

「そうだっけ?」

「そうだろ!?オレ達、毎日ラブラブじゃん!!ラブラブファイヤーじゃん!!」

「ちょっと意味分かんない」

「そんな、真菜ぁ〜!!今日も冷めてるな、でも大好きだ!!」

「もう……分かったから」


このカップルの会話は漫才のようになるが、結局はノロケで終わる。

コランの愛情表現はストレートだが、真菜は照れ隠しなのか、いつも冷めた態度で返すのだ。

そんな二人を見て微笑ましくなったアイリは、クスリと笑った。


「それで、お兄ちゃん。何か用なの?」

「ん?あ〜〜そうだ!父ちゃんが大事な話があるから、オレと一緒に部屋まで来いって」

「大事な話?」


アイリは思い当たる節がなくて、首を傾げた。

父ちゃん……つまり『魔王』が、息子と娘に『大事な話』とは、何だろうか。

真菜はアイリとコランの会話から、何か緊迫した空気を感じ取った。


「アイリちゃん、行ってきて。私、ここで待ってるから」

「うん。ごめんね、真菜ちゃん。少し待っててね」


真菜を部屋に残して、アイリとコランは魔王の部屋へと向かった。

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