『アイリの卒業と、ディアの求婚』(2)

アイリはディアを見上げて、その言葉の続きを待つ。


「今日をもって、私たちの『教師と生徒』という関係も卒業となります」

「え?う、うん……そうだね」


アイリは相槌を打つが、ディアが何を言おうとしているのか分からない。


「これからは、未来の伴侶としてお守りすることをお誓い致します」


そこでようやく、アイリはハッとして口元を両手で覆った。

心が、鼓動が震えて、言葉が返せない。

ディアは片膝を突いて跪くと、内ポケットから細い鎖を取り出した。

銀色の細い金属のチェーンに、小さな赤い宝石のついたペンダント。

ディアは、それを両手に乗せてアイリの目の前に差し出して見せる。


「お受け取り頂けますか?」


アイリは涙を浮かべて、ただ必死に頷いた。


「う……ん。嬉しい。ディア、大好き……」


ようやくディアは微笑んで、正面からアイリの首の後ろに両手を回して、ペンダントをつける。

アイリの胸元で輝く、小さな赤い宝石。


それは、婚約指輪ならぬ、婚約ペンダント。

このペンダントが指輪に変わる、その日までの約束であり、誓いであり、愛の証。

奥手なディアから贈られた卒業記念のプレゼントは、アイリにとって一生の宝物となった。


それからしばらく、校庭で二人だけの世界に浸っていた。

ようやく気が済むと、アイリは頬を赤くして上目遣いでディアに言う。


「じゃあ、そろそろ帰ろう。ディア、お願い」

「承知致しました」


ディアはアイリから離れて一礼すると、数歩下がる。

するとディアの体が発光すると共に、巨大に膨れ上がっていく。

光が収まると、そこには5メートルほどの巨大な犬の魔獣が佇んでいた。

見た目は黒い犬だが、その背にはコウモリのような羽根を生やしている。

この魔獣こそが、ディアの本当の姿なのだ。

アイリは慣れた動作で、その魔獣の背に飛び乗る。


「いいよ、ディア」


背中から聞こえるアイリの声を合図に、魔獣は羽根を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。

こうやって、いつもアイリは魔獣の姿のディアの背に乗って、魔界の王宮の城へと帰る。





悪魔と人間との間に生まれた王女、アイリ。

そんな彼女が恋をした相手は、魔王の側近。

しかし彼は、悪魔でも人間でもなく……

『魔獣』だったのだ。



王女アイリと、魔獣ディアの、禁断の恋。

全ては、この『婚約』から始まった。

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