悪魔の王女と、魔獣の側近

桜咲かな

第1話『アイリの卒業と、ディアの求婚』

『アイリの卒業と、ディアの求婚』(1)

ここは、悪魔が生きる世界、『魔界』。

普段は魔法で隠しているが、悪魔にはコウモリのような羽根がある。

そして魔界には『魔獣』という生物も生息している。

人間界との違いはそのくらいで、日常は変わらない。


その魔界を統べる悪魔『魔王』と、人間である王妃との間に生まれた、王女アイリ。



季節は春。アイリは魔界の高校を卒業した。

とは言っても、アイリの見た目は入学時と変わらない。

混血とはいえ、数万年も生きる、寿命の長い悪魔の血筋。

人間と違って、見た目と実年齢は一致しない。


卒業式を終えた後、アイリは昇降口を出て、校庭の真ん中に立つ。


「わぁ……桜吹雪……」


栗色のボブヘアを春の風に靡かせながら、アイリは両手を広げて空を仰いだ。

濃紺のブレザー、胸元に赤いリボン、同色のスカート。

制服姿でここに立つのも、今日で最後だ。

広い校庭の真ん中ではあるが、風に乗った花びらが、ピンク色の雪となって降り注ぐ。

そんなアイリのすぐ隣で、優しい笑顔で彼女を見守る若い青年がいた。


「アイリ様。ご卒業、おめでとうございます」


彼は、魔王の側近『ディア』。

淡いブルーグリーンの髪、金色の瞳、色白の肌。

見た目は20歳手前くらい、中性的な美しさを持つ爽やかなイケメン。

濃いグレーの、スーツと軍服を合わせたような独特な服装をしている。

クールで大人しい性格だが、魔王にも臆せず意見するほどの怖いもの知らずな男だ。


魔王の娘でありながら気弱な性格のアイリは、ディアの方を向くと恥ずかしそうに笑った。


「ディアと一緒だから頑張れたんだよ……ありがとう」

「恐れ入ります」


ディアは魔王の側近でありながら、この学校の教師も兼任していた。

そしてアイリは、そんなディアに、ずっと恋をしている。

アイリの世話役でもあるディアは、アイリが生まれた時から城で一緒に過ごしてきた。

家族愛であったものが、いつの頃からか特別な愛情に変わっていたのだ。


「アイリ様がご卒業を迎えられた今日、お伝えしたい事があります」

「……え?」


ディアからは急に笑顔が消えて真剣な面持ちとなり、アイリと向かい合う。

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