第23話 新たなる災いの影?

 診察が終わり患者たちが寝ている部屋を後にしてロビーに戻ってきた。


 ロビーに戻ってくると、サブマスターのシェリーがユキを可愛がっていた。


「シェリー……」


 ッハ!っとした感じでこっちを見るシェリーと、自分の姿に気づいて足元まで駆けよってくるユキ。


「違うの!その子が遊んでほしそうだったから構っていただけなの!」


 まぁ確かに、ユキの場合は診察中とかは暇そうにしているのは知っているけど、遊んでほしそうにしてたのかな?


 とか思っていると、シェリーの反応に対して、ユキが首を横に振っていた。


「ユキは違うと言ってるけど……」

「魔物が人の言葉なんてわかるわけないでしょ!いい加減なこと言わないでよ!」


 お怒りモードのシェリーの言葉に対してユキは自分の後ろに移動し隠れた。


「シェリー、この子言語理解もってるから私達の言葉ちゃんと理解してますよ……」

「ぇっ?」

 

 どうやら、ルーシェルは鑑定持ちらしかった。


「まぁそうですね」


 自分はそう言いながら、後ろに隠れたユキを抱き上げた。


「……、ふん!で何かわかったの!?」


 あぁ、話題を逸らした。


「そうですね、寝込んでいる人達の頭の中に菌が居てそれが悪さをしていました。あとは傷口が開いた子は傷口にも菌がいましたね」

「ふ~ん、で菌ってなに?」

「目に見えない位の小さな生き物と言えばいいですか?それらが体内に入り込んで悪さをしてるんですよ」

「目に見えない生き物ね、そんなのいるのかしら?」


 実際に視ないと信じない人か、ちょうどいい、ザックにいつか見せようとしていた菌がシャーレの中で繁殖しているし見てもらうか。


 ロビーの端に置いてあるテーブルに移動し、顕微鏡と菌を繁殖させたシャーレを取り出し設置した。


 顕微鏡をのぞいてみるとちょうど動いている菌がいたのでこれを見てもらおう。


「これ、覗いてもらって良いですか?」

「ん?」


 ルーシェルとシェリーが顔を見合わせていた。


「先に私から見てきましょうか?」

「ルーちゃんお願い」


 ルーシェルは、恐る恐ると言った様子でこちらに寄って来て顕微鏡を覗いた。


「これは……?」

「肌に住んでいる表皮ブドウ球菌って呼ばれる菌の1種ですね、皮脂や汗をえさとして、肌をしっとりとさせてくれるんですよ」

「って事は良い菌なのか?」

「まぁそういう認識で大丈夫ですよ、たまに悪さをする側にもなりえますが……」


 いわゆる日和見菌と呼ばれるやつだ。

 場合によってブドウ球菌が原因のブドウ球菌感染症なんてのもある。


 シェリーの方を見ると興味ありそうにしていた。


「シェリーさんも覗いてみてください」

「何で私の名前を知ってるのよ!」

「まぁまぁ……」


 こいつは好きになれないタイプだな、とか思いつつ顕微鏡へ誘導する。


 ルーシェル同様に恐る恐ると覗いていたが、魅入っているようだった。


「その動いているやつは、そこの丸っこいガラスの中にいるんですよ。わかってもらえました?」


 2人がシャーレを取り出してジーっと見ていたが確認できずにいたが信じてもらえたようだった。


「そう言った小さい生き物が人の身体に入って悪さをしているんですが、問題は菌がどこで体内に入ったかなんですよ」

「なるほどね、それで私達無事な人と寝込んでる人達の違いを探してると」

「そうですね、あとはローズバジルって知りませんか?今回の菌に対して有効らしいんですが」


 このままでは頭痛や吐き気なんかはなんとかなるだろうが、体内に残っている原因となるプリムト脳炎菌をどうにかしないとだ。


「あっ」


 自分の質問に対してルーシェルが何か思い当たる節があるのか声を上げた。


「ん?持ってるんですか?」


 そう聞くと、ルーシェルがマジックバッグなのかな?

 腰につけた小さなカバンから何かを取り出した。


「ダンジョンの近くの村で分けてもらったんだが、これがローズバジルの茶葉です。今回寝込んでるメンツはこれを飲んでないのですが、シェリーや私達無事なメンツはローズバジルの茶を飲んでます」


 もしかして、ダンジョン近くの村でもプリムト脳炎が存在するんじゃなかろうか?彼らは普段からローズバジルの茶を飲む事で病気にかからないだけなのか?


「今からそのお茶をつくって全員に飲ませてもらっても良いですか?」

「あぁ」


 それだけ言うとルーシェルはどこかに行ってしまった。

 シェリーとユキと自分、2人と1匹だけになった。好きになれない人と一緒にするのは止めてほしいんだが……、気まずいな思いつつテーブルに出していた顕微鏡やらを片付けていった。


 顕微鏡を片付けた後はテーブルの横にあるソファーに座り、ユキを撫でたり抱っこしたりしてルーシェルの戻りを待っていた。そんな様子をジーっとシェリーがこっちを見ていた。


 もう対処法は伝えているし帰っていいかな?明日来る事だけ告げて帰ろうかな?


 その直後何かを抱えてルーシェルと2人の女性がロビーを横切り寝込んでいる人達がいる部屋に向かっていった。


「自分そろそろ帰りますね……」

「ちょっと待ちなさいよ!」

「まだ何か……?」


 正直ちょっと面倒だなとか思いつつも聞いた。


「あんたの言う菌ってどんな悪さをするの?」


 思わぬ返しだった。


「どんなか、今回みたいに同じような症状を出す人が複数出たりしますね、今回はヒトからヒトへの感染はなさそうですが、菌によってはヒトからヒト、動物から人など様々な感染経路がありますね。症状に関しては菌によってさまざまなので一概に言えませんが、発熱や頭痛、筋肉痛にのどの痛みとか、嘔吐や下痢等々ですかね」

「ふ~ん、死ぬ直前に皮膚が黒くなるのは?」


 ぇ?敗血症型ペスト?確か突然ショック状態になって全身に皮下出血が生じるって何かで読んだ記憶がある。


「ペスト?」

「何か知ってるのね?」

「自分の知っている病気かは知りませんが、自分の知っている病気にも皮下出血により皮膚が黒くなったように見える感染症がありますね、過去にそのような病気が?」

「ん~過去というよりも少し離れた大陸のとある国の話ね」


 過去というよりも……?現在進行形ってことか?


「過去じゃなく今って事ですか?」

「そうよ、何か問題でも?」


 問題なら大ありだと思うが……。


「その国との交易は……?」

「無いわね、その大陸は全土で戦争しているからね、件の大陸からこの大陸各地への直行便はないけど、別の大陸を経由して冒険者の往来はあるわね」


 確か地球でも交易や戦争をきっかけに大流行したと聞いた事があるが、あまりうれしくない話だ。


 自分が想定しているペストなら合成抗菌薬が使えるはず、これまでのように即効性があるなら何とかなるだろう……、というか今回のプリムト脳炎菌にも使えるかな?実験的に使うのははばかれるから使用していないけども……。


「あなた明日暇かしら?対処法を知っているなら、明日私と一緒に王城へ行きましょう」

「いやいやいやいや、何言ってるんですか、何故王城に行くんですか……」

「なぜって、あなたの知っている対処方を王国中に広めるためよ、それに姫様の病気もしってそうだしね」


 ん……病人がいるのか、王城ね大事になるのは避けたいのだがしかたない、これで教会に目を付けられたりしなよね?


「分かりました。明日の午前中の診療終えてからで良いですか?」

「えぇ、それで十分よ、明日昼前に私があなたの所にいくから」

「はぁ……、わかりました」

「そう、わかってくれたのなら帰っていいわ」


 追い出されるようにクラウンハウスを出て、面倒な事になったなぁとか思いながら自宅へ戻った。


 明日の準備しないとか。

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