第22話 謎の病
ルーシェルの後について行くと、そこは大きな部屋で、皆床に布団が敷かれてその上で寝込んでいた。
「ここです」
言われんでも目の前の惨状を見たら分かる。
「それじゃあ失礼をば」
1人目は獣人の男性、年齢は人族感覚なら40位かな?
手に触れ触診発動させる。体の隅々までチェックすると、脳の部分に未知のウィルスが居た。
これはなんだ?以前ネズミの死体の体内に居たウィルスと似ている気がした。あの時はネズミの腸内に居た気がしたが、今は脳に居る。
発熱の原因は脳が炎症を起こしているからだ、発汗は発熱に伴う反応、獣人男を見ていると吐き気があるようにも見える。
「嘔吐とかはありました?」
「はい、ここに居る者達は戻ってきたときに吐いていましたが、何も口にしていないので吐くものがないんだと思います」
食道、胃、腸にウィルスが居ない辺り吐しゃ物で感染することはなさそうだが、脳に集中しているウィルスを何とかしないと、ウィルスをやっつけるために必要な薬は~と思っていると、ローズバジルの葉を乾燥させ煎じたものを飲むというイメージが頭の中に沸いたが、そんなものは持ってないし、とりあえず鎮痛効果、解熱効果のある薬なら日本から持ち込んでるのがある。
アイテムボックスから、薬と、暇な時に作っておいた経口補水液を取り出し、男に飲ませた。
飲ませてから1分ほどすると脳の炎症が止まり熱が収まってきた。未知のウィルスに関してはいまだ脳内にいるが、とりあえずは大丈夫だろう。
獣人男が最初は苦しそうにしていたのが、今では穏やかな寝息を立てていた。
「これで大丈夫ですが、原因と思しきウィルスはまだ体内に居るので油断しないでください、後は水分はちゃんと取らせてください、じゃないと脱水症で命を落とします」
「はい、わかりました。しかし凄いですね、どんな毒消しも効かなかったのに……」
そりゃウィルスだからかな?
ウィルスも細菌毒として毒の1部だった気がするが、もしかしたら動物毒・植物毒なんかで有効なものが変わってくるんだろうな。
とりあえず16人中の13人に関しては薬を飲ませて水分をちゃんと取るように依頼した。
仮にこの未知の病とウィルスに名前を付けるとしたら、プリムト脳炎とプリムト脳炎菌と言ったところだろうか?
まだ13人しか見ていないはずなのに、残りの3人が見当たらなかった。
「あれ?これで全員です?」
「いえいえ、残り3人は女なので別の部屋です。案内します」
ルーシェルがそう言うと、隣の部屋に案内してくれた。
1人は人族の女性、自分よりは少し年上位の20歳前後の子だった。
「この子が太ももの古傷から出血したんです」
「そうなんですね、その傷跡も見ても良いです?」
さすがに布団をいきなり捲るのもどうかと思ったので一言尋ねた。
「うん」
ルーシェルがバサッと乱暴に布団を剥ぎ取った。いきなりの事で少し焦ったが、大きな傷が右太ももの外側にあった。その傷跡は、腫れてかすかだが血が滲んでいた。
「この傷はいつくらいに?」
「いつだったけ、ダンジョンに着く前だったから1か月以上前だと思うんだけど……」
ずいぶん古い傷だな。
「原因は?」
「キラーマンティスというでっかい虫の魔物の攻撃でですね」
マンティスって、カマキリじゃなかったっけ?
と思いつつ傷口に触れると、傷口付近も炎症を起こしている。そして仮称プリムト脳炎菌が、彼女の脳以外に傷口付近にいた。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)の初期段階みたいな状態だな。
「この人以外は怪我とかしなかったんです?」
「ん~した者はいたけど、他の人は古傷から出血なんかしてないかな」
彼女だけが古傷から出血か、なにか理由があるのだろうか?
とりあえず彼女にも鎮痛効果・解熱効果のある薬と水分を取らせた。問題は傷口だ、強制的に菌を取り除いた方がいいのかが不明だ、とりあえず経過観察と判断し、翌日以降様子を見る必要があるだろう、とりあえず抗生物質入りの軟膏を塗り、ガーゼ、包帯を巻いた。
「傷口の方は判断しかねるので、明日も来ます」
「すいません助かります」
2人目の女性は何というか、ゴールデンレトリバーの獣人かなと思える位に垂れた耳と毛色をしていた。掛け布団の上からでも解る。出る所は出ていて引っ込むところを引っ込むというスタイルが抜群なのが、腕に触れて触診した瞬間にも分った。
いかんいかん、患者のスタイルじゃなくて病気を診ないと。
プリムト脳炎菌以外には、ごくわずかだったが腸炎ビブリオを保菌していた。
腸炎ビブリオは、食中毒でたまに聞く名称だったが、この世界にもあるんだなぁとか思いつつ、これまでネズミがサルモネラ菌保菌していたし地球に存在する菌+今回のプリムト脳炎菌みたいにこの世界特有の菌が存在するといったところか。
となるとエボラ出血熱やペストが存在する可能性もあると……、早めに手をうっておこうかな、と思いながら。
「あ~彼女だけ食べたものとかってあります?」
「プリムだけ食べたものですか?」
このゴールデンレトリバーの獣人みたいなお姉さんはプリムというのか。
「えぇこの方、他の人は持っていない菌を持ってるので、お腹も下していたのでは?」
「そうですね~帰りの船からずっとお腹痛いって言ってましたし、ん~プリムだけかペペキスで色々買い食いしてましたから、多分そこじゃないかなと……」
こっちも原因が特定できそうにないな……。
「この方も他の皆さんと同様の対応で」
「わかりました。ところで、さっきから話の中にでてくる菌とかウィルスってなんですか?」
特に何も突っ込まれなかったから知っているものとして話してた。
「そうですね、目に見えない小さな生き物と言えばいいですかね?それらが体内に入り込んで悪さをしているんですよ」
「は~毒とは違うんですかね?」
ん~ここはなんて答えるべきか?動くか動かないか?増殖するかしないか?
毒の一部であることには変わりないが。
「似て非なる物と思っていただければ……」
「そっか」
「違う点というと、菌は増殖したり、人から人とか動物や魔物から人へと感染する事があります」
「カンセン?するとどうなるの?」
まぁ菌という言葉を知らなければ感染という言葉も頭にないか。
「ここの皆さんと同じような状態になりますね、同じような症状を出す人が複数現れるとかそんな感じです」
「あぁ冬の咳病みたいなやつか~」
冬の咳病ってインフルエンザが存在するのかな?
「このあたりも咳したり熱を出したりする方が多く出るんですか?」
「うん、皆かかるね~」
皆かかるか、死者が一定数は出てそうだなとか思いつつ、子どもやお年寄り向けに予防接種とかできないかな?
とりあえずは咳病の菌がどのような者か分からないと対応しようがないが……。
「まぁうがい手洗いをちゃんとして感染防止すればならなくなりますよ」
と伝えつつ、最後の1人を診た。
最後の女性はプリムト脳炎菌だけ保菌していたので最初の男達と同様に鎮痛効果解熱効果の薬と経口補水液を与えて、16人の患者の診察は終わった。
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