第21話 往診

 スマホのカレンダーが6月23日を表示し、新居での生活も大分なれて浄化実験をした際のネズミの死体が保ウィルスしていた未知のウィルスの事なんて忘れていたころ。


 紅の羽のメンバーや、ザック等から診療所の噂を聞きつけて様々な患者がやって来るようになっていた。


 冒険者達に多いのはポーションでは追いつかない深い傷の治療や、傷跡を残したくないという女性冒険者、毒消しポーションで効果がでない、どこぞの魔物にやられた毒の治療などが多くみられた。


 そんな中、ある冒険者が診療所に来た事から事態は大きく動くこととなった。


 とある日の昼前、午前中に来ていた患者がいなくなり、診察室でほっと一息ついていると。


「すいません~だれかいますか~?」


 入口の方から若い女性の声が聞こえた。


 診察室から顔を出し、入口の方をみてみると、耳の尖ったすらっとした金髪の若い女性がいた。


 身体の起伏が少ないし、ザックから聞いていたエルフ族かな?


「いますよ~、どうかしました~?」


 と、言いつつ入口の方へ行くと。


「すいません、私たちのクランハウスまで来てもらう事とかって出来ますか?」


 重傷者かな?

 患者もいないし、良いかなと思った。


「いいですよ、今から行きましょうか」

「お願いします」

「ユキでかけるよ~」


 受付カウンターの中にある椅子の上で寝ているユキに声をかけた。


「キュ!」


 と鳴くと、カウンターの上に飛び乗りこちら側に来た。


「ホワイトフォックスですか」

「ですね」

「キュッキュ!」


 そう鳴くと同時に自分の胸に飛び込んできたので受け止め、その後、2人と1匹で診療所を出て休診中の札をかけて宿に向かった。


「そういえば、名乗っていませんでしたね、私は、クラン、アイアンフォースに所属しているルーシェルと言います」

「丁寧にすいません、自分は伊東誠明です。こっちは相棒のユキです」

「あなたは貴族なんですか?」

「違いますよ、自分の居た国では皆苗字もってるんですよ」

「そうでしたか、するとこのあたりの大陸の人ではないんですね」


 このあたりの大陸どころか、この星の人でもない気がするとか思いながら聞いていた。


「まぁそうなります。クランハウスとやらに着くまでに症状を聞いていいですか?」

「はい、私たちのクランは先日までプリムト共和国まで遠征をしていたのですが、どうもそこで毒を貰っちゃったみたいで」


 クランとパーティの違いってなんだろ?と、プリムト共和国とは?と疑問が浮かんだ。


「はぁ、どんな症状が?」

「そうですね、ほとんどの者は、熱があって凄い量の汗をかいています、それに古傷から出血している者もいます」


 ほとんど?


 1や2人じゃなくて複数という事か?


 古傷から出血ね、炎症が続いてたのか?


 現時点だと何とも言えないな。


「何人位が症状出てるんですか?」

「16人です」

「遠征に行ったのは?」

「私を含めて22人です」

「ルーシェルさん、少し手を借りて良いです?」

「はい?」


 ルーシェルさんの頭の上には明らかに“?”が浮いていた。


「あぁ、いえ、手を出してもらっててもいいですか?」

「はい、何かするんですか?」

「あなたが同じような毒を持ってないかの確認ですよ」

「なるほど?」


 釈然としない様子だったが、手を差し出してくれた。彼女の手に触れると自分が知らぬウィルスを持っていなかった。


 となると感染症の疑いは低いのかな?


「症状が出ている人達で共通している事はありますか?」

「ん~」


 ルーシェルさんは少し考えた後。


「エルフとリンクル族以外の者、後はほとんど男達ですかね」


 種族で何か変わるのかな?


「他には?」

「そうですね……、分からないです……」


 結構大事な部分なんだがなと思いつつ、彼らのクラウンハウスとやらに着いた。


 結構大きな洋風の屋敷だった。ルーシェルさんの後について屋敷の中に入った。


「遅くなってごめん、医者を連れてきた」


 屋敷の中に入ると、リンクル族に、エルフ族に人族の女性陣が動き回っていた。


「ルーちゃんお帰り、そちらの人が?」

「冒険者ギルドから紹介された医者の人です」


 冒険者ギルドが紹介するような医者になってたのか。今まで何人かの冒険者を診てきたけど紹介されるようなことはした記憶がない。


「どう見ても子どもじゃない、大丈夫なの?」


 自分の中では、“あんたも子どもじゃん”と内心思った。おそらく彼女はリンクル族なんだろうけど。


「ギルドの受付がどんな毒にも対応してくれると言っていた」


 その紹介は止めてほしい!対処が分かる毒とかウィルスだけだし!


「そう、まぁいいわ、早くクルツ達の所に連れて言ってちょうだい」


 何あの小娘、子どものくせに上から目線とか。


「うん、こっちついてきて」


 廊下を歩いていると。


「気分を悪くしたのなら、ごめんね、彼女はこのクランのサブマスターのシェリーなんです」


 ん~性格悪いサブマスターか、ルーシェルさんは良い感じの人なんだけどな、とか思いつつ。


「まぁ気にしてないので大丈夫です」

「そっか、それならよかった」


 ルーシェルさんの後について行くと、そこは大きな部屋で、皆床に布団が敷かれてその上で寝込んでいた。

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