第10話 ネズミ
ドワーフ達と騒いだ翌日
「誠明起きろ、いつまで寝てるんだ」
朝方までドワーフたちと飲んだり騒いだりしていたせいで正直眠い、そのまま宿に戻らず鍜治場で雑魚寝していたようだ。眠い目をこすりながら睡魔は状態異常扱いじゃないのか?と思いつつ体を起こした。
体を起こそうと手を置いたところにユキの尻尾があり体重をかけてしまった。
「キューーーーーッ!」
ベシッっと、手を引っ搔かれた。
「ごめんごめん、ってかお前そんなとこで寝てると、自分寝がえりしたときに潰しちゃうぞ……」
「キュッー!」
なんて言っているのか良く分からないが不機嫌モードなのは分かる。
身支度を済ませ鍜治場をでて船着き場へと急いでいると。
「もうじき船が出るから急げ」
個人的には結構頑張って走っているんだけどな、と思いっていた。
「キュッキュ!」
“そうだそうだ”とかそういう意味か、お前は人の肩に乗ってって走ってないのに!
楽しているユキに対してちょっとムカつきながら港へ急いだ。
港まで来るとまだ2隻の船があり、どうやら間に合ったようだ。
「間に合ったな」
「ならよかったです」
「おまえさん今ので息切れしないならもっと全力で走れ」
確かに息切れはしてないけども、自分としてはあれが全力なんだが?
「自分としては、全力だったんだけども……」
「なら少しは体を鍛えろ、そんなんじゃ魔物から逃げることが出来んぞ」
それは重要かな、魔物から逃げれらないとか死ぬだけじゃん、運命の相手を見つけて結婚して幸せな家庭を築くまではイヤダ!
でも、絶対健康あるし死ぬのかな?延々と、いたぶられるだけだったり?
それはそれで嫌だな……。
「前向きに検討します……」
「そうしろ」
2隻の内30人程が乗れる船にのり甲板まで行くと、生まれて初めての船旅にワクワクした。
もう片方の船は早々に出航した。
「あっちはどこに行くんですか?」
「あれは対岸の街道までだな、1日に3~4往復しとる」
そりゃそうか、二つの川の交流地点にある町だ、橋がなければ船しか選択肢はないか。
「橋はかけないのです?」
「何度かチャレンジしてるんだがな、雨季になり増水するたびに流木とかで流されちまうのさ」
時代が時代なら、橋の建築技術もまだまだなんかな?建築技術だけではなく素材もこれからなんだろうと思いながら話を聞いていた。
「そうなんですね」
そんな話をしているうちに、船がマバダザに向けて出港した。
最初のうちは良かったが、しばらくすると少し気持ち悪くなってきた。
酒を飲んだ時はどれだけ飲んでも酔わなかったのに、船で酔うとは……、これこそ状態異常な気がするのに!
「キュッキュッキュ♪」
そんな自分の様子をみて、ユキが楽しそうに笑っていた。
こいつ他人の不幸を笑うやつか!心配位しろよ!と内心思いながら、アイテムボックスから酔い止め薬を取り出し飲んだ。するとすぐに酔いが回復した。
ん~、即効性のある薬じゃないはずなのになぁ、傷薬と言い、火傷用の薬といい効果が出るのが早いな。
というかこの世界の人達は船酔い対策ってどうしていたんだろうか?
「ザックさん、船酔いする人達ってどうしてるんですか?」
「下で横になってるぞ」
「下?」
「あぁ、そこの床をあけるとだな下に降りる梯子がついている、そこから降りるんだ、何だ酔ったのか?」
「いや、もう大丈夫なんですけどね」
「そうか、何にせよ船倉はネズミがいっぱい居るからな、油断して寝てると耳とかをかじられるぞ」
うわ……、それはやだな、というかネズミに齧られるって感染症の方が心配になる。
「駆除しないんですか?」
「そんなもん無駄だと思うぞ、奴らは停泊中に町から泳いで入り込んだり、積み荷に紛れて侵入してくるからな、きりがない」
ん~もうちょっと衛生面しっかりしてほしいな……。
船は川を下っていく途中で、なかなか村や町が見当たらないなとか思っていると、いつの間にかユキの姿が消えていた。
「あれ?ザックさんユキ見かけませんでした?」
「ユキなら、あそこに居るぞ」
ザックが教えてくれた方を見ると、ネズミを咥えてこっちに向かって走ってくるユキがいた。
「おまえそれ食べんの?」
「フュ?」
「ネズミは止めよう?病気になるよ?」
「フュ……」
がっかりしている感じかな?
「ほらビーフジャーキーあげるからさ」
「キュ♪」
咥えていたネズミを落としビーフジャーキーに飛びついた。
ユキが咥えていたネズミを掴み、体内をチェックしてみた、案の定サルモネラ菌を保菌していた。保菌している菌も分かるんだと思いながら、ネズミを川に投げ捨てた。
「キュー!」
「今後ネズミを食べるの禁止ね……、どんな病気になるかわかったもんじゃない……」
「なんだ?ネズミになんかあったのか?」
「ユキが咥えていたネズミが病原菌を持ってたんですよ」
「ビョウゲンキンとはなんだ?」
そこからか……。
「病気になると熱を出したりお腹痛くなったりしますよね?」
「そうだな」
「病気の中には、目に見えない小さな生物が原因になることがあるんですよ」
「目に見えない小さな生物……?」
顕微鏡やシャーレなんかも持ち込んでいるし、見せる機会はあるだろう。
「そうです、機会あれば見せますよ、んでそいつらが人間の体内に入り込んで悪さをすると症状がでてくるんですよ」
「ほう、んでさっきお前さんがいっていたサルなんちゃらは、どんな病気なんだ?」
「そうですね~、腹痛、発熱、下痢なんかをしますね」
「それはなかなか……、王都にはそのような症状の者が多くいるが……」
だろうね、サルモネラ菌を保菌する生物なんてたくさんいるからな、衛生面がしっかりしてないとそうなるだろうね……。
ってか、ユキお前は何も保菌してないよな……?
ビーフジャーキーカジカジ中のユキを抱きかかえチェックしたが、エキノコックスやサルモネラなんかの菌を保菌していなかった。
「大丈夫か」
「キュ~?」
「今後自分があげたものしか口にしないでね、変な病気になったらお前を捨てるからね……」
「キュッ!キュッ!」
首を左右に振ってるあたり、イヤダ!という事だろう。
「んじゃ、約束だよ」
「キュッキュ!」
そんなやり取りをしていると、アイロスとはけた違いに高い城壁が見えてきた。
「あれが?」
「あぁ、プロズ王国王都マバダザだ」
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