第9話 急患と持ち込んだ薬

 部屋に入り寝る前に、部屋全体を浄化し、すり鉢でロナン草をすりつぶし持ち込んだ天然水を使い麻酔を作り、空き瓶に入れたり、セラミックス粘土でザック用の人工骨を成形しておいた。


 軽く1杯と思い、ビールと酒のつまみに出したビーフジャーキーをだした。3枚ほどユキにあげると嬉しそうに食いついていた。


 ユキの仕草を見ていてほんとに可愛い、癒されるわ~なんて思いつつ、この世界に来て3日目か、仕事をしないでいると不思議な感覚になる。このままでいいのかな?とか思いながら、布団の中に入った。


 どれだけ寝ていただろうか?

 突如ドアをドンドンと力強く叩く音で目が覚めた。


「誠明起きてくれ!」


 ドアの外からザックの声が聞こえたのでドアを開けに行った。


「はい、今開けます~」


 ドアを開けた瞬間、ザックに腕を掴まれ引きずり出されるように部屋を出た。


 ユキも何事かと思い自分の後についてきた。

 

「細かい話は後だ、とりあえず今は来てくれ」


 それだけ言うと、宿屋を後にし、走ってとある建物まで案内された。


「ここだ、ザックだ!はいるぞ!」


 そう言って中に入ると、ザックと同じ種族の人達が10人程いた。


 複数の炉が有ったり金敷や槌があちらこちらにあったのでここは鍜治場かな?と思いながら辺りを見ていると。


「医者を連れてきた。ミルはどこだ」

「奥に居る!」

「誠明こっちだ」


 連れてこられた場所には若い女の子が横たわり痛いと言いながら泣いていた。

 水魔法か?近くに居るドワーフが常に女の子の右腕に水をかけていた。その子右腕が一部白くなっていた。狭い範囲II度深達性熱傷か、それも肘から手首付近と火傷範囲が広いな、このレベルだと手術するしないが分れそうだ、とりあえず触診で細かい状況を把握しないと、と思い、女の子の近くに座り露出している手に触れる。


 1人のドワーフが火傷したときの状況を説明してくれていた。なんでも熱した金属を冷やす水を廃棄する際に転んでまだ冷めていない使用中の水に腕に被って火傷したんだそうだ。


 患部の状況をみると、III度熱傷までは行っていない、見た目通り、ごく狭い範囲でII度深達性熱傷だった。軟膏とガーゼでしばらく様子見かな?


 火傷用の市販軟膏も当然持ち込んでいる、軟膏を取り出し患部に塗っていくと不思議な事が起きた。


 塗った場所が瞬時に正常の皮膚になっていく、患部全体に塗り終わる頃には火傷の後がII度深達性熱傷の部分だけになっていて、それも軽い火傷跡になっていた。


「おぉーさすが誠明お前さん凄いな、名医を通り越して神だぞ、あれ程のやけどを瞬時に治すとか普通はありえんからな」


 それは自分も思う、薬を塗ったらすぐに治るなんてのは、普通はあり得ない、本来なら2週間3週間程かかるはずの火傷なんだが?


 ユキの傷に塗った時も一瞬で塞がったように思えたのは錯覚じゃなかったのか?


「いや、たまたま軽度の火傷だったから……」

「あれが軽度なのか?十分重度な火傷だと思ったが」


 実際II度深達性熱傷部分が狭い範囲だったし外来診療で十分なレベルだったけども……。持ち込んだ薬品の効果を一度試した方がいいような気がした。


「経過観察で済むレベルだと思っていましたが、直ぐに治っちゃいましたね……」


 火傷跡が残っている部分に合わせてガーゼを切りテープで固定した。


「数日中に治ると思いますが、なにか異変があったら教えてください」

「はい!わかりました。ありがとうございました!」


 薬が効きすぎてその反動で副作用が出ないかが心配だった。


「よっし!ミルの回復を祝って今夜は飲むぞ!」

「「「お~」」」


 その後、鍜治場が一瞬で酒盛りの場に変わったのは言うまでもない。


 ザックが自分から買い取った酒を皆に振舞っていたが、ドワーフたちにとっては酒は当然だが、容器アルミ缶も気になっているようだった。


 自分とユキはドワーフの輪から外れて、壁際に座りザックから受け取ったチューハイと干し肉を食べていた。


 婚活パーティの時も輪に入るよりは外から見て興味持てそうな子が居ないかな?と言った感じで活動していたが、その時の癖かな?輪に入って話するのは得意ではないなと改めて思った。


「先生本当にありがとうございました」


 火傷をしたミルちゃんが話しかけてきた。その腕を見ると既にカーゼはなく火傷跡もなくなっていた。


 もしかして持ち込んだ薬全部が自然治癒力を爆発的に高める効果があるのかな?

 それともドワーフという種族がそうなだけなのかな?

 本当に良く分からない……。


「もう完治したんだね」

「はいおかげさまで、先生は迷い人だってザックさんが言っていましたけど、いつこちらに来たんですか?」

「3日前にイナンロ南の森にね~」

「キュ~?」


 干し肉を食べ終わったユキがこちらを見ていた。人差し指で顎下を撫でたりしていると前足で自分の指をタッチしてくる。ユキ可愛いなと思いながら、ミルちゃんと会話を続けた。


「どこに住むか目的がないのであればこの町に住みませんか~?」

「ぇ?なんで?」

「この町に医者はいないんですよね、薬師の方々が病気やケガを見てくれるのですが、腕のいい薬師が居ないんですよ」


 あぁそういう事か、好意を持たれてじゃないのね、残念、内心しょんぼりした。


「キュッキュッキュ♪」


 お前絶対に笑ってるだろ!

 言ってる事が分らんが、なんとなく笑っているように思った。


「マバダザに行く予定があるから難しいかな」

「そうですか、時々アイロスに往診しに来てください!その時は今日みたいに歓迎させてもらいます。それに私も5日以内にマバダザに戻るんですけどね~」


 戻る?


「マバダザに住んでいるんですか?」

「はい」

「そっか、その時はよろしくお願いします」

「はい」


 それだけ言うとミルちゃんは自分の元から離れていった。ミルちゃんはドワーフだし自分に興味ないよね~結構かわいい感じだったし、お近づきになれればなぁと思っていたのに。


 自分の様子を見てか太ももの上にいるユキが自分のお腹の所に寄って来て額を擦り付けていた。


 何をしたいのかわからんが、抱き上げ自分の食べかけの干し肉を上げると嬉しそうに食べていた。


 その後はドワーフたちが異世界の酒に興味を持ち、自分が持ち込んでいる酒類の試飲&販売会に発展し、多くの路銀が溜まった。

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