第8話 アイロスの町
翌朝
2泊連続で野営となるとお風呂と布団が恋しくなってきた。
「今日の昼前にはアイロスに着くぞ」
あと少しで町か、延々と歩き続けないといけないとか、どこかの町で医者として仕事する方がいいかな?それとも良き相手を探しに旅に出ている方がいいかな?どちらが正解なんだろうか?
「あと少しなんですね」
「あぁ」
「ザックさんの家はどこにあるんですか?」
「王都マバダザだ」
王都か、どんな所だろうか?王都というなら王城があって城下町があるのかな?
「ここから近いんです?」
「アイロスから4日位歩くか、馬車で2日だな、船で川を下れば半日で着くが、おまえさんも目的地がないならマバダザまでいくか?」
出会いのチャンスが多いとしたら王都かな?
術後1カ月ほど安静が必要だし、ザックさんの事を考えたらアイロスより自宅のあるマバダザでやった方がいい気がした。
「ザックさん、術後長期間の安静が必要なんですが、マバダザでやりませんか?」
「おまえさんが良いならそれで構わんが、それならアイロスから船で川を下るか」
それは助かる、正直歩き続けたせいか精神的に疲れた……。
「船って結構本数あるんですか?」
「問題なければ3日に1度だな、アイロスからマバダザまでは半日だが、マバダザからアイロスは1日半かかるからな」
そうなるか、さすがにエンジン積んでいるわけじゃないしそうなるか。
「結構舟運って発達しているんです?」
「おまえさんがどう思っているか分からんが、中流域から下流域にかけてならどこの川も発達しているな」
だろうなぁ、上流とかだと川の流れが激しくて遡行出来ないよな……。
「やっぱり上流は流れが速いからですかね?」
「そうだ、だからあぁやって、上流にある木を切り出して川を下り木材を王都に届けるというのはよくあるが、ここから上流は割と流れが激しくてな遡行できんのだ」
ザックが右側を流れる川を指さした。
指さした方向を見ると、丸太を数本並べてくっつけただけの筏に1人乗って棒状の何かを使って操船していた。
「へぇ」
なんというか、日本に居たら見ることのない風景って感じで新鮮だった。
しばらく歩くと、大きな城壁が見えてきた。
「あれが?」
「あぁ、アイロスの町だ、身分を証明するものはあるか?」
運転免許証?パスポート?
とりあえず、運転免許証をザックに見せた。
「なんじゃそりゃ、なんて書いてあるか読めん……」
あ~やっぱりそうなるのか……、この世界の共通語が日本語じゃないのか、話が通じるからてっきり。
「なら持ってないですね」
「そうか、ならばアイロスに入ったら冒険者ギルドに行くか」
「冒険者ですか?」
「あぁ、冒険者カードが身分証明書になるからな、それにユキの獣魔登録もそこですればいい」
「しないと、ユキが襲われたりします?」
「そりゃ町中に魔物がいりゃそうなるな」
「ならそれで」
「あぁ」
城壁が近づいてくると、町入口の門が見えてきた。
2人の兵士と思しき人が鎧と槍を身につけ1人1人身元確認をしているようだった。
ユキを抱き上げつつ、なんかへんな嫌疑かけられないことを祈りつつ自分の番を待った。
自分の番が来ると、1人の兵士が話しかけてきた。
「身分を証明するものを出せ」
「ほれ、後ろのもんはワシの連れだ」
「王都の鍛冶ギルド、ギルドマスターのザックか、ホワイトフォックスか珍しいのがいるな、町中で暴れないようにしろよ、2人で大銀貨5枚だ」
鍛冶ギルドのギルドマスター!?
結構偉い人な気がする!
「ほれ」
あらかじめ用意していたのだろうか、ザックはすぐに貨幣を兵士に渡していた。
「通ってよし」
街の中に入ると、なんというか欧州中世の街並みが広がっていた。
「まずは冒険者ギルドだな、その後お前さんの服装だと目立つからこの世界の服装に変えるといい」
周りを見ても、パーカーにジーンズ、スニーカーというのは居ないな。
「お金余り持ってないんですが……」
「夕べワシが払ったお金があるだろうに、足りなきゃまた酒を売ってくれればいい」
「その時はお願いします」
「まずはこっちだ」
ザックはそう言うと、近くの建物に入った。
建物の中は、長いカウンターがあり、4人の女性がカウンターに居た。
「いいか、左が受付だ、何か悩みがあればここだ、その右隣りが、依頼の受付窓口、そっちにある各ランクごと掲示板から自分が受ける依頼の依頼票を剥がして、依頼受付窓口持っていく、仕事が終わったら、その右の窓口に依頼票と終わった証を持っていく、一番右の窓口は解体受付だ、自分で解体出来ない物はそこに持っていけ、手数料取られるがいらない素材を買い取ってくれるぞ」
ん~一気に言われて頭がパンクする……、冒険者活動なんてする事あるのかな?
「追々覚えていきます……」
「受付で冒険者登録するぞ、ついてこい」
「はい」
ザックが受付の子どものような背丈の低い女性に色々話てくれ、その受付の女性から2枚の書類を書くように言われ書こうと思って気づいた。運転免許証を見せてザックは読めないと言っていたのに、書くように言われたものには、“名前”“年齢”とか漢字で書かれているんだが?
それにこれは、羊皮紙って言われるやつか?
2世紀~5世紀といってたし、羊皮紙や木簡とか竹簡とかが主なのかな?
とりあえず空欄を埋めて受付の人に返したが、受付の人は漢字で書いたはずなのに自分の名前を読み上げていた。
よくわからん現象だが気にしない方が良さそうに思った。
その後、S、A、B、C、D、E、Fの、基本7ランクが存在すること等の説明を受け冒険者登録とユキの獣魔登録を終えて次は服屋に移動した。
「おまえさんはどういう服装が好みなんだ?」
「清潔感があるか動きやすい服装がいいですね」
個人的には作務衣みたいな奴がうれしいけどそんなものはどこを探しても見当たらなかった。
というか堅い生地で作られた服が多いな……、柄物もあるが宗教的な雰囲気のある柄が多かった。
白のチュニックとリネンシャツに下も2つ買って、靴もリバーヴァファローの皮製ブーツを1足購入してその場で着替えた。
着心地はイマイチな感じがあるが、目立つファッションではなくなったかな。
「この後は?」
「そうだな、次の船便が何時か確認して宿屋にいくか」
「ほい」
船乗り場まで行って気づいた事がある。アイロスの町は両サイドから川が流れ込んでいた。2つの川の合流地点にアイロスの町があった。
何というか、大雨が降ったら増水して町中が水浸しになりそうな……。
「アイロスって二つの川の合流地点にある感じですか?」
「そうだ、どうかしたのか?」
「いや~雨季とかにこの町沈んだりしないんです?」
「実際に何度か水没してるぞ」
やっぱり……。疫病とか流行りそうなものだけど、ここにあり続ける理由があるのかな?
「町の移転とかしないんですか?」
「そりゃしないな、水没しても川に近いエリアが30㎝位水没するくらいだからな」
「そうなんですか?」
「あぁ、ほれ町を見てみろ、この町は全体的に高台になっているからな、水没するのは船着き場とその周辺位なんだよ」
船着き場まで坂を下っていたから何となく高台の町なんだなとは思っていたけど、そんなんで済むのか。
「そうなんですね」
「なんで、そんなことを?」
「いや、単に水害って疫病の元になったりするから、大丈夫なのかなと」
「なるほどな、医者となると目の付け所が違うな」
いや単に日本に居るときにそういうニュースをちょいちょい見たから気になっただけだ。
「そういうわけではないんですけどね、次の船はいつなんです?」
「明日だな、宿で1泊して明日の朝またここに来よう」
「了解です」
「それじゃあ宿にいくか」
「はい」
宿屋に行くと、1階はちょうど昼時という事もあり、大衆食堂の様な賑わいがあった。
ザックが2部屋とってくれた。
「別々でいいんですか?」
「構わんよ、わしはこの後買い出しに行くがお前さんはどうする?」
今はゆっくり寝たいかも、正直疲れた。
「ちょっと寝ようかと」
「そうか、夕飯時に起こすか?」
「それでお願いしていいです?」
「あぁ構わん」
自分とユキは、そのまま部屋に行った。
ようやく布団で眠れる!
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