第7話 ユキの能力
アイロスに向かっていると、多くの馬車とすれ違うようになった。
「結構馬車が多いですけど、イナンロに何かあるんですか?」
「イナンロは鉱山の町だからな、王都やアイロスから食料品を運んで、イナンロからは鉄やミスリルを各地に運送してるんだよ」
「鉱山の町なら鉱夫とかその一家が結構多く住んでるんですか?」
「鉱夫というより、犯罪奴隷だな、鉱山で働くやつらは色々危険が伴うから奴隷衆しかおらんよ」
奴隷か、この世界ならありなのかな、鉱山で働くと粉塵なんかで肺がやられるだろうし、坑道の崩落とか危険が多そうだな……。
「そうなんですね、馬車とかに乗ればアイロスまで直ぐなんですか?」
「アイロス行きがあれば乗せてもらうんだが、殆どの馬車は鉱石をぎりぎりまで積んでいるせいで人を乗るような隙間はないんだよ」
そりゃそうか、荷台空でいくとかもったいないよね。
「徒歩だとアイロスまでどれくらいかかるんですか?」
「イナンロからだと3日だな、ここからなら2日だろ、この道を突き辺りまで行くとカラドゥ川があるんだが、今日はカラドゥ川を少し下った所で野営する」
車があればすぐ行けそうだがな、車買っておけばよかった。買い忘れたものは仕方ない……。
「了解です、ところで平和ですね~」
「魔物が出ないからな、本来ならホーンラビットなんかが出てくるはずなんだが……」
「キュ!ッキュー!」
足元を歩いているユキが何か言っているが、何を言いたいのかわからん!
「ほぉ~お前さんが何かしているのか」
「キュィ~♪」
ユキの反応を見てる限り何かしてるんだろうと思うが、ザックはユキが言ってることが分かったのか?
「ユキが言ってる事分かるんですか?」
「いや、単に会話の流れだな、魔物が出てくるはずなんだが~と言った時に反応したからな」
「なるほど」
「ユキよ、ホーンラビットを見つけたら、こっちに流せたら流してくれ」
「キュッキュ!」
あぁなるほどね、これはOKとかなんかそんな答えだな。
しばらく歩いていると。
「キュ!」
「来るのか?」
「キュッキュ!」
“キュッキュ!“と鳴いたときは”OK“とか”そうだよ“とかそういう意味合いで間違いなさそうだな、と思っていると、森の中から何かに追われるように角の付いた白い兎が飛び出してきた。
「ユキありがとな!」
「キュィ~♪」
ザックはユキに礼を言うと、ウェストポーチ型のマジックバッグから、小さな斧を取り出しサクッとホーンラビットを仕留めていた。
「今夜のおかずが決まったな」
そう言うと、ナイフに持ち替えさっさと皮を剥いだり、肉を部位ごとに分けたりしていった。
「手馴れていますね」
「そりゃ長年やってりゃな」
見た感じ自分も出来そうだなとか思いつつザックの手際を観察していると。
「キュー!」
ユキが再び鳴いた今度は何だ?
「また来るのか?」
「キュィ~!」
イエスらしいな、ザックが再び斧に持ち替えると、先とは反対側の森から、何かに追われるように飛び出してくるホーンラビット。
「待ってれば獲物の方から寄って来るとはな、楽で助かる」
そもそもユキは自分の足元に居るのに、森の中に居るホーンラビットとやらをどうやって捕捉しているんだ?
そう思っていると、ザックはさくっと2匹目を仕留めていた。
「ザックさん、自分にも解体を教えてもらえませんか?」
「構わんぞ」
仕事道具のメスをアイテムボックスから取り出すと念のため左手に防刃手袋をはめた。
「道具はあるんだな」
「そりゃ仕事道具ですからね」
「まずは、首を切り血を抜き、腹を割って、内臓をだすんだ」
その辺は大丈夫かな?
先ほどのザックの手際を思い出しながらやっていく、命を落とす心配をしなくていいだけ楽だな、とりあえず触診を使いながら内蔵を傷つけないようにやっていく。
「おまえさん初めてじゃないだろ、いくら何でも初心者にしては手馴れ過ぎだ」
「そりゃ、仕事で人の身体をやっていますからね、これくらいは簡単です」
「医者じゃなかったのか?殺し屋なのか?」
仕事で人の……、これだけ聞くと確かに殺し屋だな。
「医者ですよ、人の身体を治すのにお腹を切ったりしてるから慣れてるんです!」
「ほんとだろうな?」
ザックは笑いながら言っている辺り冗談なのはわかる。
「んで、血抜きと内臓を取り出したらどうするんです?」
ユキは取り出した内臓に興味津々の様子、まさか食べるのかな?
「ユキ、お前これ食べるの?」
「キュキュ?」
これは何?なんて言っているんだろうか?
「食べてもいい?って聞いてる?」
「キュッキュ!」
イエスか、内臓とか美味しいのかな?個人的にはあまり気が進まない部位なんだがな。
「良いけど、おなか壊すなよ……」
「キュィ~♪」
OKを出したからか、直ぐに食べ始めた。
「ザックさん、ホーンラビットの内臓っておいしいんですか?」
「いや、不味いと思うが……」
寄生虫とか居そうだし、生で食べるのはさすがに……、ユキは元々野生だから大丈夫なんかな?
ユキが内臓を食べている間、ザックに手順を聞きながら解体を進めていった。
「こんなんですかね?」
「そうだな、基本どの生き物も今の手順でやればいい、皮なんかは色々な素材になるから売れることもあるぞ」
ん~自分の戦闘力皆無だからな、ユキがおびき寄せて自分自身で狩りしてくれるなら良いけど。
「ザックさん、ユキってずっと近くに居るのにどうやって魔物を追い込んでいるんです?」
「千里眼だろうな、何が何処にいるか分かるスキルだ」
逆を言えば対象をイメージしてなければ捕捉出来ないって事か、それでも十分良いスキルだな。
「千里眼で獲物を見つけて、幻影魔法で追い込んでいると?」
「だろうな」
「キュキュン♪」
たぶん、ドヤッ♪って感じだろうな。口の周りが血で真っ赤なんだがなぁ。せめて綺麗にしてからドヤッって欲しい……。
その後、予定通り川沿いを進み、大きな広場のあるところで2泊目となった。
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