第13話 ふぁいあわーくす
これまだつかえるかなぁ
六年前の残り物の幸せに火をつける
やっぱりねしけっていてなかなか火がつかないね
長いこと外に出ているから肺にまで回ってきていそうで浅く呼吸をする想い出で溺死しかけている
喉の奥が懐かしい音をたてる
ぜろぜろぜろ
そろそろ血の味の咳がね
蝋燭代わりに庭先に置いたおかあさんに
それを押し付けていたらついにぱちぱちとはぜだしたよおめでとう
煙が目に入り瞬きの度に過去から未来へとシャッターが切られるおかあさんはとうに生から死へ肉から骨へそれも砕けてさらさらと地べたを撫でながらいってしまう
じゃあねあいしてくれてどうもね
あれは、
女だろうか男だろうか
死者だろうか生者だろうか
左利きだろうか右利きだろうか
馬だろうか鹿だろうか
表だろうか裏だろうか‥?
いまだにどっちだろうねと答え合わせをしようとする下品で醜悪で見下げ果てた矮小な狭量な‥ごめんなさい自分が恥ずかしいですこんな風にじろじろと見るように酷く躾られてしまったものですから
あなたに『そんなものはどちらでもいいよ』と言われた時に
顔から火が出るような思いで体に火をつけました
左の脳が駄目になってしまったおとうさんは左手で匙を持ち箸を持ち毎日を更新している
やがておとうさんが左手で描いたりんごとれもんの絵が壁に掛けてあるのを
わたしの左手が永遠に失ったわたしの幾つもの絵とともに眺める
もう誰かの左手を物差しでぶつことはしないのかしら世界ってそうなの?いつから?
自分がされていやだったことをひとにもやろう
そうだそうだそうしてみよう
じゃないとわたしのしんだ夢がかわいそうだもの
この扉を開ける前に言っておきます
けっして
あの子達の顔を憶えたり名前を憶えたりしようとしないでください
誰かひとりだけに
飴玉を与えたりしないでください
おかあさんは間違えてしまったこの扉の向こう
わたしはきっと歩ききってみせる
花火大会が中止になったのは台風のせいだよ
もう
上を見上げる必要はないんだ
安心して
うつむいておやすみ
くすぶった火花がちらと見えるかもしれない
暗闇のそこでね
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