第12話 えたーなるらぶ

わたしはわるくない

ためらわず麦茶の入ったピッチャーをふりかぶって叩きつける

ガラスのくだけ散る音が聞こえるのはもうすぐ

それが聞こえる前に膝をかけてワークトップカウンターにのるやいなや食器用洗剤容器の先を上げて絶え間なく押し出す両手で構え目だけを狙う

洗剤を左手に持ち替えて右手に泡まみれのフライパンをシンクから引き抜きながらカウンターの向こうへなだれ込む

発射し尽くした洗剤のボトルを投げつけその上でフライパンを振り下ろす

沈める

空いた左手でカウンターの上に置いたスマートフォンをビデオ通話でお前の親に繋げる

お前の上に降りる

両膝でお前の肩を押さえ動きを封じ

その喉元にフライパンを押し込むこのまま


もう一度

言ってみろよ

お前の母親に聞かせる

お前がまた性懲りもなく何かを

尊厳を

魂を

絆を

愛を

踏みにじろうとその舌を動か

そうはさせない

カウンターの上の水槽をフライパンで叩き割る

お前の顔にメダカが水草がいい感じに苔むした流木が白い砂利が腐った緑色の水がごぼごぼごぼごぼぼぼ

言ってみろよ

踏んでもいいって

誰が言った

許さない

許可していない

病めるときも健やかなるときも邪悪なるときも愛を憎しみを分かち合うあああわたしは

そういえば

誓っていたっけ

次言ったら

次は

わたしだ

お前の上にわたしを降り注がせてやる

カウンターを乗り越えたように

ベランダの手すりをひらり

一瞬だよ十階だよ

わたしの雨をお前に降り注がせて

わからせる

わたしがお前の言葉に二百五十六度殺されていることを

わたしの愛を殺せるのはお前だけだってことを


誓わなければわたしは


何を


手に持って


歩いていたのだっけ


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