第2話 にっくねーむ
わたしはいのちを知っていた
愚かな子供たちは考えもしないで殆ど死骸のそれをわたしの手に載せようとする
そんな赤黒い微かにうごめいている一月の夕方の子供たちの指先と変わらないくらいに冷えているのに
わたしは受け取らなかった
ただはやくしねばいいとおもっていた
どうかそれ以上苦しめないで痛めつけないで
わたしにするようなことをそんな小さなものにしないで
わたしはひとり残されて濡れて破れかかったダンボールをうちに入れることもできなくて
玄関の白いタイルの縁を視線でなぞり続けるだけ
沈む日の長い腕がいつもより蜂蜜のようにねっとりとわたしの髪のすきまを滑り抜けていく
ダンボールの中にも流れ込んでいる
光がすべて山の陰におさまったころ
ようやくそれも終わりになった
よくよく冷えていることを確認してから
近くの土を両の指で引っ掻いた
凍りついた土はとってもかたくって
三番目のおばさんが爪を剥がしながら井戸を掘った話を思い出した(死んで産まれた0番目のおばさんを数に入れると本当は四番目だ)
八年生きてきて初めて肉体の苦しみを感じた
それまでは綿菓子に包まれてそれをなめて暮らしていた
本当に死んだものをちゃんと土に埋めて
おひさまのあたたかさを感じていたのだろうか
産まれて死ぬまでの時間は宇宙のまばたきの何分の一なのだろうか
手のひらに視点を固定して指と闇の境目を探しながらずっと考えている
ずっとずっと考えている考えていることは祈りです
次の日からわたしは
ねこごろし
と呼ばれるようになりました
あいつらは途中で逃げたくせに
わたしだけが最後まで
最後まで見ていたのに
どうしても
手のひらであたためてあげることができなかった
最後の夕日をあたたかく感じていたのか
その事をそれから二十九年もずっと考えている
考えることは
祈りです
だから
ちいさいころのにっくねーむってなんだった
なんて聞かないで
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