バッドメモリー・ダイアリー

天王野苺

第1話 ふぁみりー・ひすとりー


これ以上何も積むことのできない六人掛けの古いダイニングテーブル


ゴミ屋敷から出航するまるでノアの方舟?


中身の干からびたマニキュアと錆びた栓抜きと期限切れのクーポンの束と袋の形に溶けて固まった飴と餃子のタレの小袋とドライこの上ないウエットティッシュと1000円の切れたネックレスと60万円のダイヤモンドのイヤリングの片方




泥の上にそっと浮かべて

どうかそれらが子を増やし栄えることのできる

新たな地にたどり着きますように


口から溢れたとたんそれは沈んだ


言葉も


わたしも


ダイニングテーブルごと




泥を吸い泥を吐き

わたしは祈る


おかあさんがしあわせでくらせますように


愛とは


血とは


家族とは


恐ろしく重くねとねとしてとにかく手に取ってみるとヘドロにまみれた不潔ながらくた




年を取り部屋の中は寒く湿気で黴くさくありとあらゆるウィルスが潜み虫がわき


それでも沈みゆくダイニングテーブルの上にたからものをひとつでもつみあげようと




息ができない

すってもすっても苦しい

もういっそ

泥を吸ってしまえばいいのだ

わたしもここから産まれた

元に戻るだけなのだから

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