第5話「マイ」

十文字 慎の強烈な片思いに真衣は気付いていただろうか。気付いていた。彼女も

初心だ。自分から思いを告げるなんてできない。徐々に慎の中で純粋な想いが膨らみ

変容し始めた。探偵になった真衣をもっと近くで支えたいと思い始めた。

彼が手を出したのはたった一粒の薬。若返らせる薬。今の彼女より魅力的だった

彼女に変えてしまおう。


「おはよう、真衣。よく眠れた?」


今、慎の笑顔に真衣は心底震え上がった。


「貴方が、犯人…だね」

「そうだよ。俺が犯人。動機は愛、かな。馬鹿みたいとか、思ってる?」

「まさか。でも、そんなに愛しているなら正々堂々と告白して欲しかった。だから

ちょっと残念」


慎を見る限り、真衣に暴力を振るおうなどと考えていないようだ。彼は真衣に

語った。事件の概要。真衣が辿り着けなかった真実と伝えられた偽物の死について。

彼と彼女は共犯者だったらしい。


「それなら納得がいくよ。幾ら仲良くなっても、カードキーを渡すのかなって

不思議に思ってたから。共犯者なら情報共有の為に譲渡しても可笑しくない」

「流石、真衣。よく分かってるね。だけどさ、一つだけ裏切られたんだ。そのせいで

計画を組み直して時間を掛けなければならなくなった」


真衣は再び自分の考えを口にする。


「私が警視庁に届けられたこと。本当は元からここに閉じ込めるつもりだった」

「早くて助かるよ。アイツに全てを任せたんだけどね?何を考えてたのか、勝手に

警視庁に送り届けやがった。俺の上司は雫さんだ。何をするにも彼の許可がいる。

もっと早くこうしたかったのに、中々許可をくれなくて苦労したんだ」


そこに偶然、雫が一人で出て行く用事が出来た。好機を見つけた彼は共犯者に自殺を

促したのだ。恐喝して、自殺させ、慎は別の携帯で警視庁に連絡をする。上手く事が進み、慎の考えで真衣を外へ連れ出すことに成功した。


「願いの通り、体も元通りにしてあげたよ。本当は不本意だけどね」

「私は嬉しいよ。ありがとう。だから、もう一つ聞いて。自首をして、償って」

「なんで?俺は何も悪いことはしていないよ。償うなんて出来ないよ。バレなければ

それで良い。そうだ、君から俺の行方は連絡してよ。十文字 慎は殉職、うん、

これが良い」


勝手に考えを膨らませる慎。だが彼の元に駆け付けた者がいた。


「―十文字 慎。現行犯逮捕する」


辿り着いたのは似鳥 雫。彼がここを見つけたのには真衣の存在がある。


「車のGPSは全て取り除いてたんですけどね」

「なら、お前は甘いな。否、彼女が一つ上手だったのかな」


雫が笑った。慎の目は真衣に向けられた。彼女が種明かしをする。


「私、落とし物をして拾ったって言ったでしょ?それはGPS。もう一つは身に着けて

いるネックレス」

「ネックレス!?」

「気付かなかった?私、車に乗る前にササッと着用したんだ。他にも実は

ブラにもつけてたから」


体のあちこちにGPSを隠し持っていたのだ。慎は真衣の服を脱がせたりしない。

脱がせたとしても細かくチェックするようなこともないと判断して雫が事前に

真衣に頼んでいたのだ。真衣もそれを了承した。何かあったときにすぐ駆け付け

られるように。


「それと事件の犯人であることは既に俺は分かっている。アイス屋も殺して

おくべきだったな、慎。お前は警官としても、犯罪者としても半端だ」

「だから?ここでアンタを殺せば済む事でしょ!」

「勝てると思ってるのか。一度でも俺に勝てたことがあったか」


慎はナイフを抜き、駆ける。


「勝てるさ。今の俺は警官じゃないからな!どんな手でも使う!」

「雫さん!」


何かが片目を貫く。アイスピック。不意打ち、激痛。怯んだ隙に慎は雫にタックルを

して押し倒し、マウントを取った。上からナイフを振り下ろそうとするもそれを

片手で止められてしまう。乱暴にアイスピックを引き抜いた。それを雫は慎の太腿に

突き刺した。僅かな隙を見せた慎のマウントから抜け出し、彼に手錠をかけた。


「17:32、十文字 慎を誘拐の罪で現行犯逮捕だ」




事件後、十文字 慎は刑に服することになった。元の体に戻った真衣は探偵業を

再会した。だが今、彼女は病院に足を運んでいた。外に出て来たのは雫だ。

失明し、左目に眼帯をした姿。


「大丈夫ですか、雫さん」

「問題ない。この程度ならな。もっと酷い奴は、あんなちゃちな武器じゃない」


雫は真衣に助手席に乗れと言った。


「送ってやるよ。行く途中で通るからな」


彼の運転で真衣は事務所まで連れて行って貰えることになった。十分で到着。

降りる直前、雫はもっと細かい情報を伝えた。あの事件の話だ。事件の犯人を

追いかけている間、慎が出て行ったはずだ。彼は既に殺人を犯していたらしい。

目撃者もいない、証拠も上手く隠されていて気付かなかった。捕まえるより

手っ取り早く終わらせたかったのだろう。真衣を攫う為にも…。


「俺の婚約者の話は確か、知っていたな」

「はい。同じ名前の人ですよね」


雫と真衣はそう大差ない年齢だ。突然、雫から驚きの告白をされた。


「俺の婚約者になってくれねえか。マイ」

「うん…―はぁ!?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

MY-マイ- 花道優曇華 @snow1comer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ