めんどうくさがりのミミズクと川のヌシ

元書店員kenken

めんどうくさがりのミミズクと川のヌシ

とおい東のそのまたむこう、ちいさな国のおおきな森に、いちわのミミズクがすんでいました。なまえはR.B.ブッコロー。

日々のくらしにあまり不自由はしていませんでしたが、しかしなんだかなにかもの足りません。

「たのしいことないかなァ…」とくちぐせのように言うブッコローでしたが、「たのしいこと」をはりきってさがしにいくほどの元気はありません。

そんなときはたいていフクロウの友だちを遊びにさそうのですが、その日はだれもつかまらず、手持ちぶさたにすごしていたのでした。

てもちぶさた…てもちブタさん…などとハンドバックみたいな形のブタをそうぞうしたりして、ひとりでニヤついていたのですが、こういう遊びにもあきてきたので、どうしたものかとぼんやりしていました。


虫をたべるのがにがてなブッコロー、ごはんはほとんどくだものなのですが、集めておいておいたりんごやミカンが日ざしをあびてドライフルーツのようになってしまっていたので(ぶどうはしばらくしたらおいしいジュースになったのですが、ほかのくだものではしっぱいしたようです)、せっかくだから新しいものをと思いたち、さっそく川ぞいを歩きはじめました。

めんどうくさがりのミミズクも、どうやら食べもののこととなると、よいこらしょと動きはじめるようです。にんげんとおんなじですね。


川ぞいの方がみずみずしいくだものがあるにちがいないと当たりをつけて ——ブッコローは当たりをつけるのがじょうずなのです——川の音がするほうへふらふらふら、ポテポテポテと歩いていったのですが、あしがもつれてヌメっとした大きなかたまりにぶつかってしまいました。

ぶつかったのは、ここいらでヌシとよばれているオオサンショウウオでした。ヌシといってもナワバリの長、ということではなく、道ゆくひとに「おぬし、おぬし」と声をかけるので、ヌシというあだ名がついたのでした。


ブッコローは、めんどうなひとに会っちゃったなと思いました。「おぬし、おぬし、コウフクとはなにか、考えたことがあるかな?」あんのじょう長いはなしがはじまりそうです。

いつもならてきとうにあいづちをうって、そのばをやりすごすのですが、今日はなんだかヌシのはなしが気になって、すこしじっくりきいてみることにしました。コウフクということばもきいたことはありましたが、ダイフクのなかま、くらいにしか思っていなかったので、きょうみもありました。

「コウフクというのは、たのしいことをしたりおいしいものをたべたりしたとき、ほかには何もいらない、とまんぞくすることだよ」と、ヌシはおしえてくれました。

あなたはどういうときがコウフクなの? ときくと、「川にはいって水のながれを感じているときや、こうやっておはなししているときだよ」とこたえてくれました。


そこから長くなりそうな昔ばなしがはじまったので、よいぐあいのところでてきとうな言いわけをして、そこからそそくさ立ちさりました。

ひきつづきポテポテあるきながら、「まんぞくかァ…」とつぶやきました。「コウフク」のことがまだすこし気になっているようです。

ブッコローはおいしいぶどうジュースをのんでいるときに、ここちよくなったりします。はらっぱをかけまわる馬たちをただながめているのも、とてもたのしく感じられます。

「でも、「ほかに何もいらない」なんてことあるのかな?」


ブッコローは、だれといても何をしてても食べてても、ふとべつのことを考えたりします。今はたのしいけど明日はどうだろう? なんて思いがあたまをよぎるのです。だからといって「今」がたのしいのにちがいはない、でもまんぞくしているかと言うとどうかなァ…うんぬんかんぬんどうたらこうたら、ぽんぽこぴーのぽんぽこなー。

そんなこんなで考えているうちに、空がくらくなりはじめているのに気づきました。くだものをさがしていたのもわすれ、ずいぶん長いこと考えにふけっていたようです。雨もふりそうだったので、いそいで帰ることにしました。


帰りがけにまたヌシに会えたので、「コウフク」についてのさっきの考えをはなしてみました。何かいけんがもらえるかなときたいしたのですが、まったくちがったこたえがかえってきました。「おぬしは本を読むとコウフクになるかもしれんね」。


「本」を「読む」というのがどういうことか、ブッコローにはわからなかったのですが、どうやらいろんなひとたちの「そうぞう」や「考え」のつまったものにふれる、といったことのようでした。

「そんなめんどうなこと、たのしいのかなァ? ちょっとあやしげだし。」 そんなことも思いましたが、森のそとには「本」があるらしいときいたので、明日いってみようかな、という気もちになったのでした。

もちろん、明日のことは明日になってみないとわからないのですけどね。

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