第7話 エゴ―ウェン会戦

西暦2013(平成25)年3月14日 ネデルシア地方南西部 エゴーウェン地域


 カストリア王国軍が日本国に侵攻して1年が経ち、今や日本国の勢力圏下にあるネデルシア地方南西部のエゴーウェン地域では、陸上自衛隊第16師団に属する87式偵察警戒車が、乗員とともにカモフラージュネットに身を包みながら、カストリア王国に続く街道を見張っていた。


 その名の通り、1987年より調達が始まった装輪式装甲車の一つである87式偵察警戒車は、5個師団増設という大胆な戦力増強計画を受けて追加生産が決定。新たに20両が4年以内に調達され、以後は現在三菱重工業にて開発が進められている装輪装甲車をベースとしたものが調達される予定であった。


「カストリア軍、作戦行動を再開しました。アムスターに到達するまであと2日」


 追加生産に伴って改設計が行われた砲塔には、闇夜でも正確に監視を行う事の出来る各種センサーやカメラが搭載されている。それを用いて監視を行っていた乗員は、街道上を進む軍勢を視界に捉え、車長ら4名の同僚の目前にあるモニターに画像を転送した。


「やはり動き出したか…規模は分かるか?」


「複数地点からの観測情報では、数万規模の歩兵戦力を動員している事が確認されます。如何しますか?」


「こちらは1日以内に反撃体制を取る事が出来る。今のうちに主力部隊を侵攻先に集結させ、半包囲で待ち構える。空挺部隊は今後の本格的な反撃のために必要な戦力だし、何よりアメリカからの支援によって弾薬と燃料は十分にある。全力で出来るだけの余裕はあるからな」


「了解。これより一時的に撤退します」


 2名の隊員が車体後部のハッチから出て、ネットを慎重に取り外す。そしてタイヤに絡まない様にどかすと、87式偵察警戒車は無線通信が明瞭に通じる地点まで移動する。そしてそれを受けて、アムスター郊外に築かれた第16師団司令部では、師団長の大河原おおがわら陸将が出撃命令を下していた。


「敵は万単位で侵攻を再開してきている。絶対に迎撃せよ!」


命令を受けて、北部方面隊より10式戦車と引き換えに回してきた90式戦車と、生産が終了した89式装甲戦闘車の代わりに、モスボール補完されていたのを供与してもらったアメリカ製のM2ブラッドレー歩兵戦闘車に、機甲科の隊員たちが乗り込んでいく。他の基地に駐留する部隊も同様に動き出しており、最短で半日以内には予想進路上に集結する事が出来ると見込んでいた。


 そして数時間後、第16師団総戦力は予想される戦場へ展開を完了。悠々と進んでくる敵軍を待ち構えたのである。


・・・


 斯くして3月15日、上手く待ち伏せる事に成功した第16師団は、部隊を中隊単位で分離し、六つの戦闘団に再編。そして街道を覆う様に点在させ、日が頂点に差し掛かったその瞬間に攻撃を始めた。


「突撃せよ」


 命令一過、木々の合間より90式戦車とM2ブラッドレーの群れが現れ、ディーゼルエンジンの咆哮を響かせながら、地面を履帯で削る様に走る。この襲撃に対してカストリア王国軍は動揺した。


「な、待ち伏せだと!?」


「卑怯だぞ、一対一で戦-」


 指揮官の一人は罵声を浴びせるが、全てを言い終える前に35ミリ機関砲弾で上半身を吹き飛ばされ、120ミリ滑腔砲より放たれる多目的榴弾HEAT-MPは数十人を八つ裂きにしながら四方八方へ飛ばす。その光景は複数地点で繰り広げられており、軍が崩壊するのも一瞬の事であった。


「押し返せ。逃げ道を塞ぐなよ、反撃を目論んでくるからな」


 大河原の命令に従い、数百両の装甲車両はディーゼルと履帯の駆動音が奏でる合唱を街道に響かせながら、相手を南西へと押し込んでいく。これに対して軍を率いる将軍は必死になって応戦を呼びかけるが、その程度で止まる筈がなかった。


「逃げろ逃げろ、そのまま国へ帰っちまえ!」


 90式戦車の車内にて、隊員の一人はそう叫びながら、砲弾を叩きこむ。平地においてまともな対戦車火器を持たない歩兵の集団は一方的に吹き飛ばされるだけであり、まさに一方的な戦いとなった。


 斯くして『エゴーウェン会戦』は陸上自衛隊16師団の圧勝で幕を閉じた。この戦いの結果は直ちにパルシア王国のバラス新聞社を介して周辺国に伝わり、各国は日本の軍事力の高さを知る事となったのである。

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リアルアース・ファンタジックテラ 広瀬妟子 @hm80

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