第6話 魔物討伐作戦

西暦2012(平成24)年/王国暦112年6月11日 パルシア王国西部 東アルズ地方


 パルシア王国とカストリア王国の国境地帯にあたる東アルズ地方は、よくよく魔物が大量発生する地域であり、王国軍は度々この地に出動しては大々的に魔物を討伐していた。そして今回の場合、珍しく自衛隊も同行していた。


「にしても、よく私たちの同行を許可しましたね」


「国王陛下より、貴国における戦争の仕方について調査せよと、命令を与えられているからな。にしても、刀剣を持つ者は殆どおらぬのだな」


 73式装甲車の車内にて、第12旅団特別戦闘団を率いる新田の問いに対し、パルシア王国将軍のシュタイアーはそう答える。彼は今回、自衛隊がどの様に戦うのかを観察し、記録するという役目を与えられていた。


「…まぁ、私たちと貴方がたとでは、戦い方がまるで異なりますからね。にしても、妙ですね。自動車を発明出来る程の技術力がありながら、銃や大砲といった先進的な武器が存在していないし、弓兵に投石器も見当たらない。個人的には奇妙だとは思いますが」


「ふん、弓矢や投石などという、魔法よりも野蛮な武器を用いる者など、正規軍にはおらんよ。それにこの世界では、戦いは常に視界に収められる様に配慮すると、暗黙の了解が成されておる。死者や戦いの経緯が双方理解できる様にしなければ、戦後の条約が難しい事になるからな」


 魔物という凶悪な敵にも対処しなければならないこの世界において、戦争という外交手段は慎重な計画を立てて儀式的に進めなければならなかった。むやみに殺し過ぎれば処理しきれぬ程の死体を生み出し、それを目当てに来る魔物が増えてしまうからである。


 また、国そのものを滅亡に追い込む事もまた恥ずべき行為とされた。北や東の蛮族たちが常に西の豊かな土地を狙って攻めてくる可能性がある中、いざという時の味方を潰す様な真似は愚かとしか言えないためであった。


「ですが、我らは我らは敵対者に対して余り優しくありませんよ。その点は十分ご理解下さい」


・・・


 さてこの1時間後、魔物の討伐作戦が始まったのであるが、この時の様子をシュタイアー将軍は手記の中でこう書き記している。


「ニホン国なる国の軍…ジエイタイなる者たちは、まるで全員が魔法使いの様であった。しかし彼らの戦い方には優雅さは感じ取れない。あの様な個人の技量と戦技を軽んじた、一方的な虐殺としか言いようのない戦法が、私たちに向かう事の無い事はまさに幸運であった」


 将軍の言う通り、自衛隊の戦闘スタイルは当時のこの世界における戦闘とは大きくかけ離れていた。第12旅団は主にヘリコプターを用いた空中機動旅団として整備が進められていたが、この新田率いる戦闘団の場合は異なっていた。


 この戦闘団は3個普通科中隊と1個戦車中隊、1個特科中隊、1個ヘリコプター機動中隊、その他後方支援部隊で構成された諸兵科混成部隊であり、人数で見れば数個連隊規模であったものの、実際の戦闘能力は旅団相当であった。


 そして戦い方であるが、文字通りの一方的な攻撃であった。北部方面隊よりわざわざ回してもらった90式戦車と、本土では引退間もなくとされていた75式自走りゅう弾砲の長距離砲撃から始まった魔物討伐戦は、別の地点で戦闘に参加していた王国正規軍や民間軍事会社マーセナリーの実働部隊をも驚愕させていた。


「撃て撃て!所詮は獣だ、容易に倒せる!確実に全て殲滅せよ!」


 新田の命令に従い、12両の73式装甲車は車上の遠隔操作式20ミリ機関砲で熊の魔物を撃ち倒し、履帯を響かせながら進んでいく。途中、狼の魔物が爪を立てて襲い掛かってきたが、アルミ合金の車体には傷一つ付かず、逆に遠隔操作式機関砲でミンチと変えられていた。まさにそれは、味方には死傷者一人も出ない、一方的な戦闘であった。


「実際のカストリア軍との戦闘では、これにヘリコプター部隊による空からの攻撃も加わるのですが、まぁ貴方がたにとってはたまったものではないというのは明らかですね」


「…確かに、貴国と対立する事のない様に動いたのは正解であるな。にしても、本当に皆殺しにするのか?」


「いえ、何匹かは生け捕りにします。魔物について詳しい調査が必要ですし、何より貴方がたは魔物を素材として利用している。我らも資源として活用できないかどうか、知るいい機会ですので」


 こうして、陸上自衛隊第12旅団戦闘団は、魔物討伐任務において、魔物31頭撃破、11頭捕獲という成果を上げ、うち数頭はアムスター近郊の『ネデルシア地方特殊生物研究所』に身を預けた。


 そしてこの特殊研究所を中心に、日本の生物学とバイオテクノロジーは急速な成長を遂げる事となる。

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