第5話 勝ちを目指して

西暦2012(平成24)年6月9日 日本国東京都 首相官邸


 その日、首相官邸の地下にある危機管理センターでは、政権交代を果たしたばかりの自由党内閣を率いる吉田よしだ内閣総理大臣が、自衛隊より報告を受けていた。


「現状の報告をお願いします」


「まず、現時点で我が自衛隊が占領するネデルシア地方ですが、人口は確認できる限りで凡そ100万人です。他にも申告していない者がいる様ですが、恐らくは納税逃れのためでしょう」


 ネデルシア地方に展開する自衛隊派遣部隊の、現地住民と接触を担う自衛官曰く、カストリア王国は農民に対して相当な重税を課しているらしく、ましてや得体のしれない『新参者』から何をされるのか分からないという事で、税金逃れを試みる者が多いという。


「とはいえ統計は必要でしょうし、何よりカストリア王国の破壊工作を主目的とした伏兵がいるかもしれません。現地の産業を発展させつつイメージアップを図り、警戒をほぐす必要があると考えます」


「やはり、それに落ち着きますか…して、主要な都市は抑えられていますか?」


「はい。中心都市であるアムスターを筆頭に、10以上の都市及び街を把握し、制圧を進めております。そして現地の有力者ないしカストリア王国の王家関係者を利用してこの地域を独立させ、我が国との干渉地帯にする予定です」


「緩衝地帯、ですか…植民地ないしそれに近い場所にするよりかは面倒が少ないですね。そもそもずっと管理できる保証もありませんしね。それで、賠償内容については決まりましたか?」


「はい、先ず拉致被害者の身柄返還は確定事項です。二つ目にお台場での戦闘及び自衛隊の対外派遣活動に対する賠償、この二つは確実に相手国に呑ませます。さらに次元を繋ぐ技術の開示も求めます。リスクは今のところ不明ですが、現地に展開している自衛隊との連絡が途絶える可能性を封じるためには必要だと捉えております」


「分かりました。次にパルシア王国との関係ですが、現時点でどこまで進んでいますか?」


 吉田首相の問いに対し、外務大臣はレジュメを片手に答える。


「現在、我が国は遣日使節団を受け入れ、日本のみならず地球世界について知ってもらっている最中でありますが、国交樹立に至るまでには、法整備や相互理解のレベル等、解決すべき問題点が多数存在します。ですので国連を主体とした、国際調査使節団を向こう側に行かせます。今回の事態は我が国のみで解決しなければなりませんが、世界より理解を得るための努力も惜しまない事が肝要です」


「分かりました。先の政権より引き継いだこの戦い、何としてでも終わらせましょう」


・・・


同刻 アメリカ合衆国ワシントンDC ホワイトハウス


 一方でアメリカのホワイトハウスでは、ミラー大統領が国防総省長官より、日本の異世界における軍事計画の報告を受けていた。


「いやはや、結構な数を求めてきたな…ミスターヨシダは、全力で勝ちに行くという訳か」


 報告書を読んだミラー大統領は、日本のネデルシア地方における軍事計画をそう評した。政権交代直後、共和党より政権を奪取した自由党政権は、カストリア王国との戦闘が陸戦メインになる事を考慮して、5個師団規模の部隊をネデルシア地方に派遣する事を決定。そして交通インフラの十分な整備が成されていない地域での魔物との戦闘も考慮して、多数の装甲車両を導入する事を決定したのである。


 そのバリエーションは豊富の一言であり、自国の防衛産業の顔役である三菱重工業に、急激な戦力の増強に対応できるだけの余力がなかった事から、ドイツのレオパルト2戦車やアメリカのM2ブラッドレー歩兵戦闘車といった装軌式装甲車両を数百両単位で要求。ミラーはその要求量に驚愕するしかなかった。


「ともあれ、我が国は国民に出血を強いる事は無いので、要求は受け入れた方がよろしいでしょう」


「ああ…今回は日本人たちの戦争だ。安全保障条約があるとはいえ、我らが迂闊に手出し出来る案件ではない」


 斯くして、西側諸国より大量の兵器供与が成される事となるのだが、これが日本の防衛産業に大きな影響を与えていく事となる。

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