第4話 関係構築に向けて
西暦2012(平成24)年4月14日 日本国東京都 首相官邸
「パルシア王国との交渉は順調に進んでおり、いずれは国交を締結する事も視野に入っております。また、こちらに対して誠意を見せるため、小林信二氏以外の『召喚者』の所在について調査し、当事者と話し合った上で身柄を返還する用意があるとの事です」
首相官邸地下の危機管理センターにて、外務大臣はそう報告し、総理大臣は目元を揉んだ。いきなり異世界から侵略を受けたと思えば、次元を超えた拉致が行われていたというのだ。これには頭を抱える他ない。
「色々と厄介な事になってきましたね…胃痛が再発しそうですよ」
「総理の胃痛は洒落になりませんからな。して、カストリア王国について分かった事は?」
「カストリア王国はほぼ間違いなく、我が国との交渉は拒否するだろうと見られております。大陸西部最大の国としてのプライドのみならず、下手に安易に交渉すれば、たちまちのうちに反乱が起きるかもしれないから、というのがパルシア政府の見解です」
カストリア王国の性格は、たびたび協議を行っているパルシア王国のみならず、実際に彼の国に召喚された小林からも知らされており、政府は相手の高慢な性格に頭を悩ませていた。
「だが、こちらとしてもただで暴挙を許すわけにもいきませんからね。大使館を通じて、アメリカに援軍を要請しましょう。技術水準と武器の質では優位に立てますが、純粋な兵力の規模と、魔法を用いた軍事技術が未だに不明です。余計に軽んじて損害を生み出さない様に心掛けましょう」
斯くして、政府は衆議院解散総選挙の準備をしつつ自衛隊の追加配備計画の立案を開始。アメリカも日本からの要望に応えて、大量の弾薬を供給する事を認めたのである。
・・・
パルシア王国首都パルス 王宮
「では父上、行って参ります」
「うむ、皆も見分を広げてくるのだぞ」
日本の永田町で多くの政治家が頭を抱えていた頃、パルシア王国の首都パルスでは、日本の調査と国交樹立に向けた交渉を主目的とした、遣日使節団の壮行会が行われていた。
国王アウグスト・フォン・ゴートブルグ3世の息子であるアルフレッド王子が、十数人の官僚とともに群衆に見送られる中、アウグスト3世は小林に尋ねる。
「してコバヤシ殿、我が国の産業はどこまで発展出来るか?」
「はっ…ビエルン及びレーンの工業地帯は現在、我が社の指導の下で近代化を進めております。鋼鉄と各種工作機械は暫しは日本からの輸入となりますが、3年程で必要に足る水準に達する事が出来ると思われます」
この時点でパルシア王国の工業水準は、1880年代のドイツに迫るレベルとなっている。建物や橋、そして魔導自動車を製造するのに必要な鉄鋼を自給できる程度には発展しており、近年では鋼鉄製の船の研究も進められている。海上物流を発展させるためにより多くの貨物を運べる大型船を造るためであった。
「それと陛下、国内の近代化に反発する保守派の取り締まりも忘れずにお願いいたします。現状の国内環境では日本との貿易に耐えうる事が出来ません。王太子は聡明であられますから直ぐに理解なさるでしょうが、大多数がそうとは限りませんので」
「分かっているよ、コバヤシ殿。彼らのより洗練された自動車を見せつけられては、古いものに囚われている事の愚かさを実感する他ない。ともかく国内の改革も進めていかねばな」
二人はそう話しながら、今後のこの国の将来について、一抹の不安を抱える。丁度アルフレッド王子が日本に到着した頃、当時の政権がお台場での戦闘の責任を取る形で総辞職し、参議院も議員の多数死傷やスキャンダルによる議席喪失に伴う補欠選挙が求められたため、事実上の衆参両院総選挙が開始。異世界の専制君主国出身者は、21世紀の選挙制度を目の当たりにする事となったのである。
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