第3話 接触と再会②

王国暦112年4月11日 パルシア王国 首都パルス 王宮


 パルシア王国の北東部にある城塞都市パルスは、全高12メートル、全長30キロメートルの長大な城壁に囲まれた大都市であり、小林含む召喚者や、科学技術を解する者たちによって、壁外にも市街地を広げるなどといった発展を進め、今や大陸西部で有数の都市として名を知らしめていた。その発展ぶりたるや、マーケットには常に良質な食品や製品が並び、道路上には数十台もの魔導自動車が走っている光景から窺い知れよう。


おもてを上げよ。卿らが異なる世より来た使者か」


 王宮の謁見の間にて、国王アウグスト・フォン・ゴートブルグ3世は尋ねる。その問いに対して、外務省より派遣された外交官の中田なかだは少しだけ顔を上げながら答える。


「その通りです、国王陛下」


「コバヤシ殿より、事の詳細は聞き及んでいる。貴国はカストリア王国からの侵攻を受けて、こちらにやってきたと言うのだな。卿らも大変な思いをしただろう。貴国にて起きた悲劇に対し、哀悼の意を示す」


「感謝します、陛下。して我が国としては、貴国と不可侵条約を結びたいのですが、よろしいでしょうか?いずれは国交にも発展させたいと考えておりますが…」


「うむ…それによって我が国に利益が出るのであれば、卿らの要求も認めよう。国務卿、我が国のみならず近隣諸国に関する情報も、彼らに授けよ。卿らはこの世について知る事が少なすぎる。それとカストリア王国以外の国々に対して、外交交渉の仲介の根回しをするのだ」


「御意に、陛下」


 アウグスト国王の配慮に、中田は恐縮するばかりであった。


・・・


カストリア王国 首都ヴィルシニア 王宮


 世界のほぼ全域を占める大陸は、中央の広大な山岳地帯と山脈により四つの区分に分けられている。湿潤にして広大な平原そのものを住処とする遊牧民の住まう東部、馬やトナカイ、あるいは犬ぞりによって移動しながら慎ましく暮らす狩猟民族の住む北部、広大な砂漠と僅かなオアシスで逞しく生きるキャラバンが歩き回る南部、そして広大な穀倉地帯と森林よりもたらされる富で生きる牧畜民の支配する西部。そのうち西部で最も広い面積を持つ国がカストリア王国であった。


「おのれ、魔法を知らぬ蛮族どもめ!」


 しかしこの日、首都ヴィルシニアの王宮では、国王フェリペ3世が怒りの限り吼えていた。何せ良質な魔石鉱山や漁業で栄えていたネデルシア地方を失い、魔法を知らぬ者たちにいいようにされているのである。これを許せる筈もなかった。


「このままネデルシアをわが物顔で蹂躙されてたまるか!我が軍は今どうしている!」


 国王の問い詰めに対し、軍務大臣のフランシスコ・デ・リベル侯爵は恭しく礼をしながら答える。


「はっ…現在我が軍は新たに徴兵を行い、戦力の再建に勤めております。必ずや、野蛮にして狡猾残酷な侵略者どもを追い出してみせましょう」


「そうか…いいな、必ずや野蛮人どもを皆殺しにしろ!」


 会議…というよりも国王の独演が終わり、リベルはため息をつきながら廊下を歩む。


「…王もすっかり老いたな。自身の我が儘が通らなくなった時にこれだ。たかだか兵の数を増やしたところで、そう容易に勝てる筈もないというのに…」


 リベルがそう呟くと、隣を歩く部下の将軍が複雑そうな表情を浮かべる。


「だからといって、『彼ら』に新たな軍隊を作らせるとは…あの様な野蛮な力を用いる連中を重んじるのは反対なのですが…」


「だが、我が儘を言っていられる暇もあるまい。幸いにして今、我が国は軍事力を増すに十分たる利益を得られている。真に国のためとしたいのならば、外道をも許容できる様にせよ」


 リベルはそう答えながら、自国の将来を憂いた。

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