第2話 接触と再会

パルシア王国暦112年4月4日 パルシア王国より北西に500キロメートル ネデルシア地方


 パルシア王国西部、コバヤシホールディングス本社のある都市バンスより北西に500キロメートルの地点。本来ならカストリア王国の領土であり、パルシア王国人は個人ならまだしも、軍の規模では入る事の出来ない場所に、一つの武装集団の姿があった。


「社長、アレが例の『侵略者』です。デカい陣地を拵えていますね…」


 ジープに似た姿をした魔導自動車の席より、部下が指さした方に視線を向けた小林は、双眼鏡でその先を見る。


 事の発端は凡そ1年前、カストリア王国北西のネデルシア地方にて、大規模な魔術儀式が行われた事と、それを機にカストリア国内が慌ただしくなった事、そして王国軍が甚大な被害を受けたという事が、ホールディングス傘下のバンス新聞社経由で小林の耳に入ってきたのだ。事の真偽を確かめるには、バンス新聞社に体を張ってもらう事が理想的ではあるが、何故か今回の場合は、社長本人が直接向かいたいと言ってきたのである。


 カストリア王国軍の精強ぶりは小林自身がよく知るところである。王国東部のアルズ地方やジラス地方、西部のエンドラ山脈で発生する魔物の討伐任務では、『なんでも屋の手を借りるまでもない』とでも言うかの様に、瞬く間に魔物を蹴散らしていたのだ。だからこそ王国軍が『何か』に負けたという事の真偽を直接確かめたかったのだ。


 そして、パルシア王国とネデルシア地方の国境線にて、基地らしきものが建設されているとの情報を得た小林は、傭兵業を企業化させた民間軍事会社マーセナリーの第三大隊を護衛に引き連れ、木々の合間より偵察を決行していた。そしてそれを見た小林は、思わず我が目を疑わざるを得なかった。


「まさか…信じがたいな…」


「どうしますか、社長?我らマーセナリーはいつでも行動を起こせますが…」


 マーセナリーの実働部隊を率いるシャルテル部長の問いに対し、小林は首を振る。


「いや…ここは敢えて、私らだけで体を張る事としよう。主力部隊はこの場に待機し、数名の護衛と秘書だけ付いてこい。下手に大勢で来て、相手を刺激した方が不味いからな。だがいざという時は…『飛んで来い』よ」


「了解。武運を」


 シャルテルたちに見送られながら、小林の乗る魔導自動車は坂を下り、基地に迫る。そして数分後、基地が目前にまで見えてきたところで、数台の深緑色の自動車が周囲に現れ、それに乗る者が大声で呼びかけてきた。


「誰か!?」


 誰何の声に対し、魔導自動車は停車。そして小林が先に降り立ち、相手に答えた。


「私たちに敵意は無い。誰か話の分かる者を連れて来てほしい。もしくは、基地の方まで案内してほしい」


 小林の返答に対し、相手は戸惑った。無理もない、まさかこの世界で『日本語』で返事をされる事など想定していなかったからだ。


「日本語を…!?」


「おい、上官を呼べ!早く!」


 相手は戸惑いながらも小林たちのボディーチェックと武装解除を行い、数キロ先にある基地敷地内へと案内されていく。そして門をくぐり、数人の男たちが出迎えてきたその時、小林は驚愕の声を上げた。


「あっ…浩司…」


「信二…!?」


 相手も驚きの声を漏らす。何故なら出迎えた相手は、召喚前の高校時代の友人であったからだ。


・・・


「まさか、こんなところで再会する事になろうとはな」


 陸上自衛隊基地庁舎の応接室にて、新田浩司にった こうじ一等陸佐の言葉に対し、小林は苦笑を返す。


「全くだよ。そっちの方はどうなんだ?こんなところに自衛隊が出張るまでに至ったんだ、相当えらい事が起きたんだろう?」


「予想の通りさ。今から1年前、お台場に正体不明の武装集団が現れ、侵略を仕掛けてきたんだ。それを追いかけてこの辺りを制圧し、今は最前線に基地を作って領域を拡大しているという最中さ」


 第12旅団隷下の戦闘団を率いて、ネデルシア地方南東部地域の制圧・監視を担う新田曰く、2011(平成23)年3月に起きた大地震の直後、東京都湾岸地区に10万はいると思われる大軍が出現し、3万人近くの市民が虐殺されたという。これの賠償を求めるために自衛隊を送り込むのは至極当然であったが、何分災害派遣と同時並行で行わなければならなかったため、出せる戦力は小さかった。そして1年程が経ってより多くの戦力を投じる余裕が生まれた事により、コバヤシ社の情報機関にも察知されるまでに行動を活性化する事が出来たのである。


「成程…とりあえず、一番偉い人に会わせてくれ。本国の国務局との接触の段取りを用意しておいてやる。このままだと今俺が住んでいる国とアンタらが戦争になりかねない。それだけは絶対に避けたいからな」


「分かった。感謝する」


 この翌日、小林は部下とともに、ネデルシア地方最大の都市アムスターへ向かい、自衛隊対外派遣部隊総司令部と接触。外務省と国務局の外交交渉の段取りを進めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る