リアルアース・ファンタジックテラ
広瀬妟子
第1話 小林信二という男
彼が招き入れられたその世界は、一つの巨大な大陸を中心に、幾つかの小さい島々で構成されており、人々は魔物に対峙しながら文明を築き上げ、地球とは全く異なる独自の文明を築き上げていた。
技術水準は近世ヨーロッパに近しいレベルであったが、小林が招かれた頃には近代的な郵便制度が始まり、通信技術も魔法によってより先進的なものが整備されていた。しかし武器は刀剣や槍がメインであり、遠距離攻撃も魔法を用いたものがメインであるなど、歪な成長の仕方を遂げている様に思えたのである。
さて、当初はいわゆる技術者として召喚された彼であるが、カストリア王国においては召喚者は飽和していると言ってもよい程にありふれた存在であり、彼は幾分かの活動資金を手に入れて、いわゆる何でも屋を始めた。魔物の駆除や討伐、汚物処理に雑用など、人がやりたがらない仕事をする事で称賛はされずとも王国内で弾き者にされる事の多い人を人材として集め、資産を拡大。そして知り合った召喚者の協力で拘束魔法を解くと、何でも屋のメンバーとともに隣国のパルシア王国へ亡命したのである。
「これからはパルシア王国で、一旗挙げるぞ。自分たちの有効性を知らしめてやる」
小林自身にとって幸運だったのは、彼自身に経営のセンスがあった事と、多角化を成すに十分たるスキルと人材があった事、そして爪弾きされていた者に経営や管理に理解のある者がいた事だろう。
まず、『
そして3年程の経営期間によって企業としてのポテンシャルの高さを見せた事で、万事屋コバヤシ屋はパルシア初の複合持株会社であるコバヤシホールディングスを創設。商社や傭兵会社、農園などを企業として有する大企業として成長したのである。
「これからのパルシアは、商業をより発展させる必要がある。そのための産業育成の礎として、私はより一層邁進したい」
王国暦100年記念式典の場にて、小林はそう答え、国王以下多くのパルシア人は拍手でその心意気を褒め称えた。そして待遇に関しても、当代限りの公爵の階級が授与され、社会的立場をも得た彼は、かつて住んでいた日本に近しい生活水準の達成に奔走した。
例えば、コバヤシホールディングス傘下で誕生したビエルン自動車産業にて、小林の肝いりで開発された魔導自動車は、従来の馬車よりも低コストかつ高性能な移動手段として注目され、パルシア国内での物流に変革をもたらした。
王国西部で産出される魔鉱石を加工して詰めた魔力電池を燃料とし、物理的エネルギーに変換する事で走るそれはパルシア自体の工業技術の向上をも誘発させ、大陸西部地方で最も貧しい国扱いされていたパルシアの国力を発展させる事となった。
そして小林がこの世に召喚されて22年が経ったある日、一つの大きな出来事がカストリア王国にて起きる。そしてそれは、この世界に対して如何様な影響を与えるのか、この時はまだ誰も知らない。
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