第33話 きんぞくの物語 異世界には異世界特有の金属があった

活気が戻ってきた白の国の港町を、

港町の町長に連れられて、俺とリラ、ペトペトさんとショージィさんが行く。

白の国では金属が取れるらしい。

その金属が港町の倉庫にあって、

それを素材にして耳かきはどうかという話だ。

ありあわせの薬膳の粥を作ったときなどは、

大体俺の世界にあったものが港町にあったから、

おおむね理解して使うことができた。

白菜や大根なんかはわかりやすかった。

そんな風に、金属もわかりやすいといいのだがと思う。

ただ、ここは俺のいた世界ではない。

今、先に立って歩いている港町の町長もヨツミミだし、

姿かたちの違う存在がたくさんいて、

俺の世界では想像上のものとされるものなんかもいたりして、

多分俺の理解できないところで文化も違って、

世界の法則的なものも違うのかもしれない。

ゆえに、金属の素材とひとくくりにできないような、

この世界特有の金属があってもおかしくない。

さて、どんな金属なのだろうか。


港町の倉庫の並んでいる中、

町長はひとつの倉庫の前にやってきた。

かなり大きな倉庫だ。

多分すぐに船に積めるように、すぐそばが海になっている。

俺の感覚だと錆を気にしてしまうが、

そのあたりはどうにかなるような構造とかがあるのかもしれない。

あるいは、金属でも錆びないのかもしれない。

「こちらからどうぞ」

町長は倉庫の横のドアを示して、そこから中に入っていった。

俺たちも続いた。

中に入ると、そこには木箱がたくさん並んでいた。

それほど大きな箱ではないなと俺は思う。

「金属の積み下ろしをするには、大きな箱ですと、労力がかかりますから」

なるほどなと思う。

多分この異世界は、俺の思うような積み下ろしのクレーンなどは、

多分ないものと思っていいのだろう。

おそらく滑車のようなもので上げ下げはあるだろうけれど、

何トンのものを積んだりするようなクレーンなどはない、

そもそもそのサイズのものを載せる船がないのかもしれない。

例えば、タンカーサイズの船があったとして、

どうやら海は中心の国である黄の国だけのようだし、

そこまで大きな船を作る造船技術は必要ないのかもしれない。

そうなると、戦艦的なものを作る必要もないのかもしれない。

やっぱり文化が違うなと俺は思う。

いわゆるクレーンがなく、手作業が基本の積み下ろしになるから、

大きな箱に金属は入れられないということだろう。

いろんな存在がいるけれど、

大きな金属を軽々と運べるような存在は、

あんまりいないということか。

多分、力を持った牛やなんかが運ぶとしても、

積み下ろしはある程度小さな木箱にしないと、

船に積めないということらしい。

思うに、ある程度、滑車や何かはあるだろうけれど、

いわゆるフォークリフトで運ぶとか、

ベルトコンベアで運び出すとか、そういうのは、

ないということだと俺は納得する。

俺の世界で言う機械とはまた別のところが進んでいたりするのだろうし、

異世界は異世界で必要な技術が進んでいるのだろうなと思う。

どっちが進んでいるということはない。

技術は求められた方向に進んでいくものだ。


「こちらをご覧ください」

町長がひとつの木箱を開けて中を見せる。

その中には赤い金属。

俺の知っている銅よりも赤い。

これはアカガネというらしい。

もう一つ木箱を開ける。

そこには玉虫色の金属。

これは、タマガネというらしい。

どちらも俺の見たことのない金属だ。

玉鋼は聞いたことがあるけれど、

玉虫色の金属なんてはじめてお目にかかった。

やっぱりここは異世界だ。

他に見せてくれたクロガネという金属は、

これは俺の世界にあった鉄だということが、鑑定で分かった。

クロガネは白の国の山で取れるものらしい。

一番一般的な金属であるとか。

他に、いろいろな金属や貴金属の箱も見せてもらった。

俺のわかるものもあったし、異世界特有のものもあった。

俺の世界で言うプラチナなんかが取れるのも驚いた。

こちらの世界でも希少な金属で、

高価な装飾品になるのだとか。

白の国で取れるどの金属とも比べられない金属として、

青の国のニードリアンの髪があるという。

あれは本当に特殊なものらしく、

白の国の金属とは全く別のものであるそうだ。

なるほどなと思う。

俺は町長に勧められるままに、

金属の入った木の箱をいくつか譲ってもらう。

やはり、鉄が一番理解しやすい。

俺は、クロガネの箱に手をかざして、耳かき錬成をした。

箱に入っていたクロガネの塊は、

一瞬にしてたくさんの耳かきに錬成される。

俺はひとつ手に取って硬さを確かめる。

いい鉄の素材で作られた耳かきに仕上がっている。

匙の薄さも申し分ない。

町長はあっけにとられていた。

耳かき錬成をいざ見るとびっくりするのだろう。

鉄の塊が一瞬で耳かきになったら、

普通はびっくりするものなのかもしれない。

白の国の住人がどれほどいるのかわからないから、

とにかく多めに耳かきを錬成しておく。

瞬く間にたくさんの金属の耳かきが錬成された。

俺は町長に耳かきの仕方を教えておく。

耳の呪いを解くには、奥まで耳かきを入れるのでなく、

耳周りをよくかいた後、耳の入口を優しくかくこと。

耳の中へは浅いところまでにしておいて、

力を入れすぎずにかくこと。

特に金属の耳かきは、力を入れすぎると耳に傷がついてしまい、

かさぶたで耳がかゆくなる可能性もある。

あくまで耳をかくのは優しく。

耳への愛情を持つようにかくことだと教える。

町長は納得して、たくさんできた耳かきのことを伝えに、倉庫の外へ出ていった。

間もなく屈強なヨツミミの者がやってきて、

たくさんの金属の耳かきを軽々と持っていった。

これを港町の皆に配るらしい。

皆が耳かきで心地よくなればいいと俺思った。


町長から、港町を代表して、

耳かきの素材のための金属を何種類か譲り受ける。

どれもこれも質のいい金属だ。

異世界の金属も、どんな耳かきになるか興味がある。

俺は時空の箱に金属を仕舞う。

「ただ、ヒイロカネは白の王の許可がないと譲れませんので」

俺が尋ねたところ、

ヒイロカネは異世界でも本当に特別な金属らしく、

何かの力の凝縮した金属であるらしい。

武器を作ればとても強い武器となり、

盾を作ればどんな攻撃も防ぐ。

そんな特別なヒイロカネだけは、

白の王の許可なくしては国外に持ち出せないらしい。

その金属の耳かきも作りたいとは思うが、

王の許可なくしては作れないのであれば、

まぁ、すぐには無理だろうなと思う。

ただ、倉庫に来る前に、歌姫の噂を聞いたばかりだ。

歌姫が歌えなくなったと。

白の城が大変なことになっていると。

この金属の耳かきで、白の城の耳の呪いを解くべきだろう。

多分白の城には、燥邪と風邪も蔓延している。

核が港町にない以上、そっちに本体である核があると思った方がいい。

黒い騎士が何かしていると思った方がいいだろうし、

封印されたとされている魔王が、

何らかの手を打ち始めていると思った方がいいのかもしれない。

それは、俺が耳かきの勇者として、あちこちの耳の呪いを解いているから、

魔王側も手を打ち始めているということなのかもしれない。

耳の呪いをはびこらせているだけで、それ以降何もしないということはない。

耳の呪いを解く俺たちに、何か対抗してくるのは必然のことだ。

邪なるものをはびこらせているのも、

その一環かもしれない。

俺は、白の国の耳の呪いも解く。

いずれは異世界の耳の呪いをすべて解く。

俺は決意を新たにした。

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