第34話 しろのしろの物語 白の城には大劇場があった

港町の耳の呪いを解き、

燥邪と風邪がもたらす不調も退け、

港町は、活気ある町になっている。

港町の倉庫から金属を分けてもらって、

金属から耳かきを錬成して、

とりあえず港町の皆の分と、港町に訪れる誰かが、

耳の呪いに悩んでいたら渡す分と、

結構たくさん作っておいた。

港町には潤沢に耳かきがいきわたり、

耳かきの心地よさが伝わっているようだった。

耳かき職人として、嬉しいことだ。

さて、この港町はおおむね大丈夫として、

噂に聞いた白の城が気にかかる。

歌姫が歌えなくなっているという話、

白の城には劇場があるという話、

白の城が大変になったという噂を聞いて間もなく、港町が大変になった話。

総合すると、白の城の方が先に脅威にさらされていると思っていいだろう。

そして、おそらくだが、

歌姫という存在は、喉がやられてしまっている。

喉がやられては歌は歌えないと、俺は推測する。

劇場がどれほどのものかはわからないけれど、

劇場に声を届かせるような歌であれば、

喉がやられたら致命傷だ。

自他ともに認める耳かきバカの俺としては、

歌の流行り廃りはわからない。

ましてや異世界であるからもっとわからない。

ただ、歌というものは基本耳から届く。

歌い手の喉と、聞き手の耳、

どちらもそろわないと感動を届けることはできないだろうなと思う。

俺は白の城へと向かうことにした。

きっと苦しんでいる存在がいるはずだ。


俺は港町の町長に挨拶して、

白の城へと続く街道を教えられた。

街道はほぼ迷うことない道。

脇道もあるけれど、それは白の国の穀物を運ぶための、

畑などに通じている道だという。

大体一番広い道を行けば、白の城に通じていると聞いた。

金属が取れる山は、白の城のさらに奥にあって、

白の城からの許可がないと入れない仕組みであるらしい。

少し前に聞いたヒイロカネのこともあるのかもしれない。

野菜や穀物も大切ではあるのだろうけれど、

白の国の金属は、また別の方向で大切なのかもしれない。

俺の感覚で言うところの、国営の鉱山のような感じだろうか。

ただ、白の国の山からどのような形で金属が採掘されるかはわからない。

そのあたりは異世界なので、

俺の考える常識とは違うかもしれない。

俺は道を教えてくれた町長に礼を言って、

リラと、ペトペトさんと、ショージィさんで、

白の城への街道を進み始めた。


港町を出てしばらく行くと、少し乾燥が増した気がする。

風も幾分強くなった。

港町は活気が戻ってきたけれど、

そこから白の城に向かうと、風邪や燥邪の力がまだ強いのかもしれない。

街道沿いには野菜が育てられている畑がある。

俺の感覚で言う田舎の風景に近い。

どこの風景というわけでなく、

畑がずっと続いているような風景。

俺の世界の田舎もいろいろあるけれど、

とりあえず、周りが畑ばかりのような田舎が、

この風景の感覚として近い。

この区画とあの区画では畑の色が違う。

多分育てているものが違うのだろうとうっすら思う。

ただ、土が乾燥しているのか、

時折強い風で土埃が舞う。

乾燥の影響は、白の国に暮らすものばかりでなく、

育てている穀物や野菜にも影響が出るのかもしれない。


白の城に近づいていくと、それに伴い風と乾燥が強くなっていった。

白の城は周囲を山に囲まれた谷の中、

強い風の中に静かにあった。

門番もいることはいるのだが、

体調を崩しているのか、立っているのがやっとのように見えた。

リラの神語をこの門の前で放った場合を考える。

きっと谷の中に跳ね返って、

白の城の中に響き渡るに違いない。

白の城の材質にもよるけれど、

音が跳ね返るような材質の構造を持っているのならば、

リラの強い神語が隅々まで行き届くと俺は踏んだ。

神語で白の城の皆の耳が俺とつながれば、

あとは神速の耳かきが使える。

「この谷のことを考えてらっしゃいましたか?」

「ああ、リラの今の神語ならば反響して届くかと思っていた」

「確かに、神語を届かせる能力が上がっていることを、私も感じます」

「喉の具合はどうだ?」

「少し乾いていますが、行けます」

「乾いた喉に無理させるものじゃない」

「それでは、ペトペトさん、少し潤いをくださいな」

リラに言われたペトペトさんは、

リラの喉に湿り気らしいものをフーッと吹きかけたようだ。

リラは軽く発声練習をして、

「行きます」

と、宣言し、


『シロノモノヨ キイテ クダサイ イマカラ ミミノ ノロイヲ トキマス』


俺とリラの目論見通り、

リラの力を持った神語が谷間に反響して、

白の城に響き渡っていく。

神語が届いた耳は、続々と俺の耳と感覚共有される。

どれもこれも耳の呪いで大変なことになっている。

しかも、白の国の住人がそうであるように、

ほぼすべてがヨツミミの耳だ。

いろいろな耳が今までの倍近く繋がっていく。

神語の共鳴で、間違いなくすべての耳と感覚共有できた。

俺は金属の耳かきを構え、


「神速の耳かき!」


叫んで神速の耳かきを発動させる。

ヨツミミ特有の4つの耳をかきつつ、

俺は白の城の内部構造をある程度把握する。

神速の耳かきで俺のことを認識できている存在がいないのもあるが、

俺は白の城の奥まで皆の耳をかきに走る。

王らしい誰かの耳もかいた。

何かの役職を持っているらしい誰かの耳もかいた。

城の中で働く誰かの耳もかいた。

そんな中、大きな空間を俺は走った。

多分この空間が劇場なのだろうなと思う。

かなり大きな劇場だ。

劇場ではまだ神語が残響として残っている。

音が響きやすい構造なのかもしれない。

俺は劇場を神速で走り抜けて、

劇場に携わる誰かがいるであろう空間に出た。

役者かもしれないし、

道具や音響の仕事の誰かかもしれない。

俺はとにかく片っ端から耳をかく。

その中にひときわ耳の呪いがひどい存在がいた。

多分女性のヨツミミだ。

俺は神速の耳かきを発動させつつ、

高速で確実に耳の呪いを解いて、

多分燥邪と風邪がはびこっているであろう白の城の状況から、

喉や肺がやられているとあたりをつけて、

書物を読んだ時にかろうじて頭に入っていた、

耳ツボを刺激しておく。

感覚が共有できた耳の呪いを確実に解いたことを確認して、

俺は白の城の門の前に戻ってきた。

その間、数秒といったところだ。

白の城がざわつく。

俺は門番に声をかける。

耳かきの勇者と神の耳の巫女と名乗ると、

門番は、言葉がわかると驚いていたようだった。

驚いた後、盛大に咳き込んでいた。

どうやら乾燥で喉がやられているらしい。

門番は咳き込みつつも、

耳の呪いを解く一行の噂は聞いております、

王に話をお通しいたしますと、門番の一人を中に行かせた。


リラの肩の上に乗っている、

ペトペトさんとショージィさんが騒いでいる。

リラに何を騒いでいるのか通訳を頼んだところ、

ここにいる、らしい。

多分、燥邪と風邪の核だろう。

ここにいるものが、神語で騒いでいる、とも言っているらしい。

耳の呪いを解いて言葉は通じるようになったが、

邪なものが反撃に出る可能性もあるようだ。

俺は特に耳の呪いがひどかったヨツミミの女性を思い出す。

耳をかいた一瞬しか感じられなかったが、

かなりの呪いをその耳に受けていた。

耳の呪い、そして、邪なもの、

あのヨツミミの女性がいるあたり、

そう、大劇場付近で何かがあるものと俺はあたりを付けた。

王に話を通すと言って、城に入っていった門番の一人が戻ってきた。

誰か役人らしいものも伴っている。

役人らしい誰かの言うことには、

耳かきの勇者様、神の耳の巫女様、

白の王からの伝言です。

どうか大劇場に巣食う魔のものを鎮めてください。

白の城を助けてください。

そんなことを言った。

俺たちは強くうなずいて、

役人らしいものについていって、大劇場へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る