第32話 やくぜんの物語 ありあわせのもので薬膳のお粥を作った

ペトペトさんは、白の国の港町に湿気をもたらしている。

心なしか喉が楽になったように思う。

近くに海があるから、ペトペトさんの能力が最大限に発揮される。

俺は、リラが集めてくれたという、

薬膳の食材のもとに行く。

そこには、少しばかり動けるヨツミミの者がいた。

動ける方ではあるが、元気は少ないようだ。

俺は集められた食材を鑑定する。

俺の世界で言うところの、

白菜、長ネギ、ダイコン、それから、この世界の家畜の鶏肉があるようだ。

それから、こっちは生姜で、どうやら白米もあるようだ。

こっちには香辛料と、クコの実というものと、シナモンにあたるものがあった。

他にも名前と効能は鑑定できたが、

俺ではどう使っていいかわからない何かの実がたくさんだ。

こっちには、塩と砂糖。砂糖は白くする風習がないのか、黒い塊だ。

茶葉もあるようだ。

緑茶よりは紅茶に近いらしい。

こっちの世界でも、茶を嗜む風習があるようだ。

それから、赤の国から届けられたらしい、動物の乳がある。

動物の乳は、赤の国の火の石で一瞬熱を加えると、

船旅でも悪くなりにくいらしい。

俺の世界で言う殺菌のようなものらしい。

この世界で何というのか、そのあたりは覚えていないが、

とにかく、様々の物をリラが集めてくれていた。


手始めに俺は、大きな鍋をヨツミミの者に持ってきてもらう。

素材用に持っていた火の石をセットして、

白菜にあたるもの、長ネギにあたるもの、

大根にあたるもの、鶏肉にあたるものを、

使い捨ての耳かきを使って耳かき斬術で切り刻んで、

そこに俺の世界で言う白米を入れて、

多分効果があるであろう、クコの実というものと、

俺の世界では松の実と呼ばれていた実を入れて、

港町を潤していたペトペトさんに頼んで、

大きな鍋に水を満たしてもらう。

火の石は大きな鍋を具材ごとあたためて、

じきにお粥が出来上がった。

最後に、塩で味を調えて、生姜をすりおろしてかき混ぜる。

ありあわせ薬膳粥の完成だ。

俺のその隣で、リラは何か鍋で作っていた。

なんだか複雑だけどいい香りのする液体だ。

「薬効性のあるお茶になります」

リラが言うには、香辛料や、薬効性のある実などを、

茶と動物の乳とともに煮出したものであるらしい。

甘みは黒い砂糖を使ったそうだ。

俺はしばらく考えて、チャイという単語に行き当たった。

あまりにも俺に馴染んでいないものなので、

思い出すのに時間がかかった。

俺の世界のことを思い出せないのは、

別の世界から来た俺としては、ちょっと問題があるかもしれない。

ただ、俺の世界をすべて知っているわけではないし、

自他ともに認める耳かきバカだから、こればかりは仕方ないと思う。

リラがそのあたりを、

俺の小屋の本を読んでカバーしてくれているので、

本当に、いい相棒だと思う。

神の耳を持ち、神語を使い、異世界の言葉も読めて、理解も早い。

耳の呪いを解いて回る俺の力もあれば、

きっとこの世界のみんなの耳の呪いを解けそうな気がする。

結構、いいコンビなんだろうなと思う。


粥やチャイの香りが港町に広がり、

何事かと思った港町のヨツミミの住人が出てきた。

リラが声を張り上げる。

「元気になるお粥とお茶です。皆さん器を持ってきてください」

リラの声は、神語を使っているだけありよく通る。

すぐさま、俺たちの周りには、

器を持った住人の列ができた。

俺が薬膳粥を盛りつけ、リラがチャイを注いで渡す。

住人たちからは、美味しいとか、あたたまるとか、

そんな声が聞こえてくるようになった。

おかわりを求める住人もいる。

おかわりを求める頃には、顔に生気が戻りつつある。

ありあわせの薬膳粥ではあったけれど、

効果はかなりあったようだ。

リラのチャイも好評のようで、

やはりおかわりの列ができている。


そんな回復していく住民を見ていると、

何か、澱んだものが抜けていくのが見えた。

住人から抜けていくそれは、

空気の中で力なく消えていった。

船を押し戻していた風も止んできて、

港町の乾きも止んできて、

住人の声もまともなものに変わっていった。

喉が回復してきたのかもしれない。

「邪なものが抜けていっています」

俺の隣でリラが言う。

「ペトペトさんやショージィさんの言うことには、核は別のところにあるそうです」

俺は彼らの言葉はわからないけれど、

リラが言うならば、白の国のどこかに燥邪と風邪の核があるのだろう。

まずは、その邪なるものの力をそいでいって、

核を何とかしないことには、

耳の呪いがはびこったまま、

身体まで蝕まれてしまうわけだ。

ヨツミミは俺たちよりも耳が多い。

喉がやられて言葉がうまく発せられない中、

耳まで呪われて体調も悪くしていたら、

白の国は機能不全になり、

野菜や穀物が作れなくなって、この世界全体の食糧危機になってしまう。

それは何とかしなければと思う。


大鍋に作ったものがなくなったころ、

港町に活気が戻ってきた。

俺は港町の長を探す。

それらしいヨツミミの者がいて、そちらも俺を見つけて駆け寄ってきた。

俺は、勝手に作った食材や何やらの代金を支払いたいと申し出た。

港町の長は、助けてもらったのに、代金までは取れないと言い出した。

ただ、俺としても折れるわけにはいかない。

勝手に港町にあるものを使ってしまったからだ。

港町の長は、今回作った料理のレシピと、

それから、ヨツミミの耳の呪いを解いた方法を教えてほしいと申し出た。

俺は改めて自己紹介をする。

耳かきの勇者。耳かきというもので、耳の呪いを解いて回っているものだと。

港町の長に、耳かきというものを見てもらい、

このように耳を掃除するのだと教える。

耳かきという道具があれば、誰でも耳の呪いが取れると教える。

港町の長は、耳かきはどこで手に入るのかと尋ねる。

俺は、耳かき錬成という能力でいくらでも作れると答えた。

素材があればどんな耳かきでも作れる、とも。

港町の長は少し考えて、

今回のレシピと、町の誰もが使える耳かきを作ってくれれば、

食材の代金は要らない、と。

皆を元気にしてくれたから、そもそも代金を取る必要はない。

耳かきをたくさん作ってくれたならば、

港町に集まっている食材を、

好きなだけ持っていってもらおうと申し出てくれた。

ありがたい話だ。

素材については、白の国の奥の山から取れるという、

金属の塊があるらしい。

農作物の他に、その金属も船で他の国に輸出しているという。

港町の倉庫にその金属があるらしいので、

それで耳かきを作ってほしいと言われた。

俺は快諾した。


港町の長が言うことには、

白の城にいる歌姫が歌えなくなったという噂があったらしい。

白の城には劇場があって、

歌や踊りなどが催されているらしい。

その花形の歌姫の喉がやられて、歌えなくなり、

また、皆の身体も蝕まれたという噂だ。

その噂の直後、港町もやられたらしい。

ならば、白の城はもっと大変なことになっている可能性もあるということか。

城は基本政の中心。

そこが機能不全になっては、何事もたちいかなくなる。

別の場所にいると言われていた、

燥邪と風邪の核もそちらにいるのかもしれない。

邪なるものをばらまいているのは、やはり奴だろうか。

耳の呪いだけでなく、この世界をじわじわ悪い方向に向かわせたいのだろうか。

邪なるものを取り除いて、耳の呪いを解く。

白の城でもしっかりそれを行わないといけない。

それが耳かきの勇者としての使命だ。

とにかく俺は港町の分の耳かきを錬成しようと思った。

港町の長が、倉庫に案内する。

俺と、リラたちがついていった。

どんな金属なのだろうか。

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