第13話 せんしの物語 歴戦の戦士の角で作った耳かきはすごかった
俺とリラは、赤の国の町の、長に連れられて、
角堂というところに案内された。
角堂とは、赤の国のホーニーズという、角の生えている種族が、
角の生え代わりの際に落ちた角を、
次にはもっと大きなものが生えるようにと、
祈願の意味で奉納しているところらしい。
聞いたところによれば、強い者の方が、大きな角が生えるらしい。
つまり、強くなりたいという祈願でもあるというわけだ。
このあたりは、俺の世界の方での、
強いオスが大きな角を持っている動物とか、
まぁ、そんな感じに近いのかもしれない。
大きな角を求めるようなホーニーズは、
多分俺が出会った騎馬武者みたいな戦士であるだろう。
そして、戦士には男性女性はあまり関係ないように思う。
騎馬武者の耳をかいたときも、
町の者の耳をかいたときも、
大きな角をもった女性もいたし、
騎馬武者の部隊にも性別の差異はなかったように思う。
俺の世界では、どうしても戦うのがオスというイメージだが、
ホーニーズの角の大きさについては性差はなく、
純粋に戦士としての強さなのだろうなと思う。
そんな、強さの象徴のホーニーズの角だが、
耳かきにしたら、どうなるのかは、まだよくわからない。
特殊な効果があるだろうとは思うけれど、
耳かきにして鑑定しないことには、俺も何とも言えない。
角堂は町の中、大きな石造りのお堂のような建物があった。
彫刻が施されていて、角の獣のように見える。
何種類も、角の獣が彫られていて、
一番上に、頭に角の生えた馬がいる。
確か、俺の世界ではユニコーンと言ったか。
一番上に彫られているということは、
角の獣の中では一番ランクが上なのかもしれない。
町の長は、角堂の錠前を開けて、
俺とリラを招いた。
大きな入り口を入ると、
たくさんの角が角堂の大きな空間に奉納されて置かれていた。
棚のようなものが無数にあって、
そこに無数の角が置かれている。
多分神様がくれたスキルの一環なのだろうが、
書かれている文字がある程度読める。
多分暦と名前、誰がこの角をいつ奉納したのかが角に彫られている。
こんな願いのこもった角をもらっていいものだろうか。
「耳かきの勇者様、こちらです」
町の長が俺を呼んだ。
奥の方に、かなり大きな角があった。
これは相当な戦士の角に違いないと俺は思った。
「魔王軍が攻めてきた際、この町を守り抜いた戦士の角です」
角は一対。重さも相当ある。
形は大きな鹿の角の何倍も。
これは兜をかぶるのも大変だっただろう。
町の長が語ることには、
この角の持ち主は赤の国の将軍で、
まだ魔王が世界を蹂躙していて赤の国に攻めてきた際、
前線になりかかったこの町から、魔王軍を押し返して、
単騎で町を守り切ったらしい。
魔王軍は赤の国の、当時は草原だったらしいけれど、
そこで白兵戦を繰り広げ、
将軍は一騎当千の働きを見せ、
赤の国の軍の士気も上がりに上がり、
魔王軍を退けたという話だ。
なるほど、この角は英雄の角というわけか。
「こんな素晴らしいものを俺が使っても良いものでしょうか」
「耳の呪いがはびこる今、この角による耳かきが、また、世界を救うでしょう」
それは英雄がまた、赤の国を救うことにもつながると、町の長は言う。
「ありがたく頂戴します」
俺は恭しく英雄の角をいただく。
ズシリと重い角は、英雄の重みだ。
これが頭にあって戦えていたのだから、
相当強かったのだろうなと思う。
俺は時空の箱に入れる前に、
英雄の角から、耳かきを一本錬成する。
象牙のような耳かきが錬成された。
艶が美しく、象牙など特有の滑らかな光沢がある。
おそらく耳あたりは柔らかいものだろう。
耳穴に傷をつけることはないはずだ。
俺は、出来た耳かきを鑑定する。
英雄の角の耳かき
赤の国の英雄の角からできた耳かき
英雄の強い力が宿っていて、
耳をかくことにより、筋力を上げる効果がある。
また、ホーニーズに限り、耳をかくとそれ以降の角の成長が早くなる。
なるほど、英雄の角らしい効果があるなと俺は納得した。
俺は英雄の角を時空の箱に仕舞う。
材質としては象牙に近いことがわかった。
鹿の角にも似ているかもしれない。
とにかく、使いようによっては、誰かを強くする耳かきが作れそうだ。
俺たちは角堂を出た。
この町の耳の呪いは解かれているから、
皆、笑顔で会話をしている。
馬に乗ったものが帰ってきたらしい。
どうやら、先程、この町の動物の骨や角で作った耳かきを、
放牧に出ているものに渡しに行って、
耳かきを教えたらしい。
すると、彼らの耳の呪いも解けて、とても喜んだという話だ。
よかったなと俺は素直に思う。
こうして、耳かきの輪が広がっていけばいいと思う。
そうすれば、いずれこの世界の耳の呪いもなくなって、
むやみに、いがみ合うことも、なくなるかもしれない。
そう言えば目下、黄の国が赤の国への水を制限していると聞いた。
それもどうにかしたいなと思った。
その矢先、別の馬が町に入って来た。
装飾が施されていて、町の馬とは違うようだ。
もっと高貴な者が乗っている馬のようだ。
言葉が通じないので、リラに神語で耳を繋いでもらう。
『ハナシヲ キイテ クダサイ ワタシタチハ ミミノ ノロイヲ トクモノデス』
耳の感覚がつながった瞬間、俺は神速の耳かきを発動する。
今度は一瞬でいい。
高貴な者は何事かと思ったらしいけれど、
すぐに耳が聞こえることに気が付いたらしい。
「わ、私は、赤の城の使者です」
「大丈夫だ。言葉は通じる」
「よかったです。これが耳かきの勇者様の力なのですね」
「そういうことだ」
「赤の城に来ていただけますか。今、赤の城が混乱に陥っております」
「耳の呪いか」
「それもありますが、赤の王が閉じこもったまま出てきません」
「その状態で戦争と言い出しているのか」
「戦争は、主に強硬派の高官が言っております」
「黄の国から水を得るには、それしかない、というわけか」
「そういう主張です」
「穏健派みたいなものはいないのか」
「耳が呪われていて、皆の話が通じなくて、罵倒状態です」
「それで混乱状態か」
「このように耳が聞こえるようになれば、戦争が止められるかもしれません」
「わかった、俺たちを赤の城に連れていってくれ」
「わかりました。ご案内いたしましょう」
俺たちは町から馬に乗せてもらって、
赤の城を目指して荒野を行く。
英雄の話を聞いたとき、赤の国は草原だと聞いた。
今は荒野が広がっている。
耳の呪いがはびこっているとはいえ、
戦争になればもっと荒れ果ててしまうに違いない。
黄の国も何とかしなければいけない。
赤の城の混乱も収めなければいけない。
耳の呪いは思った以上の世界を混乱に陥れている。
俺が何とかしないといけない。
今までこだわりの耳かきを細々作っていた俺が、
この世界で必要とされている。
勇者と言われているけれど、
俺は勇者である以前に耳かき職人だ。
この世界のすべての存在の耳をかく。
そして、皆を笑顔にする。
そうすれば、この荒野にも草原が戻るだろうか。
戦争など考えないようになるだろうか。
わからないけれど、俺はやれることをやる。
俺は耳かき職人であり、耳かきの勇者だ。
遠くに石造りの大きな建物が見えてきた。
あれが赤の城であるらしい。
さて、何が待ち構えているだろうか。
あまり好戦的でないといいのだが。
俺は耳の呪いを解きに行くのであり、
戦いに行くのではない。
それを向こうがわかってくれればいいのだが。
そうもいかない可能性も、俺は考えに入れておくことにした。
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