第12話 つのの物語 赤の国では強いと角が大きくなる
ホーニーズと呼ばれる角の生えた種族は、
赤の国の独自種族で、
いわゆる青の国のニードリアンのようなものであるらしい。
耳が呪われていなくても、どちらかと言えば好戦的な種族で、
武術に関する訓練を怠っていなかったらしい。
ただ、魔王が封印された際、
魔王が世界中の存在に耳の呪いをかけた。
その影響は赤の国にも蔓延し、
好戦的だった赤の国のホーニーズたちは、
言葉が通じずに戦い続ける種族となった。
さらに、おそらく耳が呪われたであろう、
黄の国が赤の国への水の流れを制限し始めた。
水の少ない赤の国にとっては死活問題だ。
赤の国では耳が呪われていて、戦うことしか考えられなくなっている。
こんな苦しい思いをさせた存在を、叩きのめさないといけない。
言葉が通じないけれど、
怒りばかりが増幅されていったらしい。
そんな折、関所から文書鳥が届いた。
青の国から耳かきの勇者がやってきたという。
これは、関所が落とされ、青の国から何者かが攻めてきたと解釈した。
そして騎馬武者が押し寄せてきて、
耳かきの勇者に耳をかかれたという次第だ。
「耳が呪われていたとはいえ、軽率でした」
「かなりの耳の呪いを感じた。そうなってもおかしくはない」
「恥ずかしながら、我らは手も足も出ませんでした」
「手を出されていたら、俺も困ったわけだから、それでいいんだ」
「お強いのですな、耳かきの勇者様は」
「まだまだ修行中だよ」
「ご謙遜を」
ホーニーズの騎馬武者を率いていた男は笑った。
「それで、我らの兜を弾き飛ばしたそれはなんですか?」
「これは、木で作った耳かきだ。俺のスキルで耳かきを投げた」
「耳かきの勇者の、耳かきというわけですね」
「この耳かきを耳に入れて、耳の呪いを解く道具だ」
「なるほど、それがこんなにたくさん」
「俺のスキルでいくらでも作ることができる」
「それはすごい。ぜひとも赤の国でも耳かきを作ってもらいたい」
「素材があれば何でも作れるさ」
「素材、素材か…」
騎馬武者の隊長は考え、
「王の自ら管轄する谷に、火の石というものがたくさんあると聞きます」
「火の石、とは?」
「赤の国の高級輸出物です。半永久的に温かくあり続ける石です」
「なるほど、あたたかい石の耳かきもありかもしれないな」
「ただ、王の許可がいるでしょう」
「そうか、そうなると、王の耳の呪いも解かないとな」
「難しいかもしれません」
「どうしてだ?」
「王は耳が呪われて以降、姿を現さなくなりました」
「心配だな。辛い思いをしていなければいいが」
「城の奥で、戦争の指示を出すばかりで、姿を見た者はいないそうです」
「なおさら、王と、城のものの耳の呪いを解かないとな」
「私も久しぶりに会話らしい会話をできて、穏やかな心持になっています」
「耳をかいた甲斐があるものだ」
「それでは、町に案内いたしましょう。町の者の耳の呪いも解いてください」
「ああ、任せろ」
俺とリラは、騎馬武者の馬に二人乗りをさせてもらって、
赤の国の町を目指す。
荒野の中を馬らしいもので歩いていくと、
石造りの町が見えてきた。
「商業などを行う町はここになりますが、赤の国のあちこちで放牧を行っています」
「その動物などがそれか」
「乗るための動物、肉を食べる動物、力仕事の動物、毛を衣類に変える動物など」
なるほど、俺の考える家畜という者は大体あると思っていいらしい。
俺は少し考え、
「動物の骨などは残っているだろうか。耳かきの素材にできるかもしれない」
と、提案する。
「動物の骨もありますが、動物の角などもいかがでしょうか」
「あるのか」
「毎年生え変わる動物の角がたくさんあります。素材にできればぜひ」
「ありがたい」
「ホーニーズの角も、数年に一度生え変わります」
「そんなに大きいのにか」
「戦い、強くなりますと、生え変わった後の角が、より大きくなります」
「そうか、その大きな角は強さの印なんだな」
「ですから、一度抜けた角は、今までの弱さの印でもあります」
「弱そうに思えないがな」
「あまり大きくならなかった角は、角堂に保管されて、大きな角への祈願にします」
「それほど強い種族の角だ。耳かきにすれば特殊な力があるかもしれない」
「町の者に聞いて、許可が出ましたら使えるかもしれません」
「まずは、町の耳の呪いを解かないとな」
「よろしくお願いします、耳かきの勇者様」
石造りの町が近づいてくる。
騎馬武者が俺たちを連れてきたことに、
町の皆が口々に何かを言っている。
言葉は通じないけれど、多分ひどい言葉で、
俺たちに怒りを向けている。
それは、赤の国が戦争に向かっているという不安もあるかもしれないし、
水に困っているということもあるかもしれないし、
俺たちがよそ者ということもあるかもしれない。
よそ者という存在は、いつだって不安の種だ。
俺とリラは、騎馬武者の馬のような動物から降りる。
俺は、リラに目配せした。
リラは、深呼吸して言葉を選び、神語を発動する。
『ミナサン キイテ クダサイ ワタシタチハ ミミノ ノロイヲ トクモノデス』
リラの神語が届いた。
俺の耳に、町のすべての存在の耳が感覚共有される。
かなりの不快感を伴っている。
間違いなくかなりの呪いだ。
俺は耳かきを構える。そして、
「神速の耳かき!」
俺は町の中を高速で駆け回って、
町のすべての存在の耳をかく。
コリコリッ…ビュン…カリッコリッ…ビュン…カリッ…ビュン…コショショ…ビュン…
老若男女家畜ペットに至るまで、
俺は町のすべての存在の耳の呪いを解いて、
町の入口に戻ってきた。
かなり広範囲まで走っても神速の耳かきが維持できる。
スキルアップしているということだろう。
町の者は、しばらく放心していたが、
誰かが話し出すと、連鎖して誰かが話し出す。
そして、言葉が通じることに喜びだす。
何度か見た光景だが、やはり嬉しいものだ。
「あなたが文書鳥にあった耳かきの勇者様ですか」
「ああ、赤の国の耳の呪いを解きに来た」
「耳の呪いを解く手際、お見事でした」
「かなりの耳の呪いだったな」
「まともに聞こえる状態ではありませんでした。こうして聞こえることが奇跡です」
話している俺のもとに、町の長という者が前に出てきた。
「耳かきの勇者様、まずは呪いを解いていただき、ありがとうございます」
「それが仕事だからな」
「それで、部隊長の話では、角を耳かきの素材にできないかという話でしたが」
「ああ、角や骨などがあれば、それをもとに耳の呪いを解く耳かきができると思う」
「私たちも動物の角はいろいろな道具にしていますので、たくさん集めています」
「少し分けてもらえたらと思う」
「いいですが、少しだけ条件があります」
「条件か」
「放牧に出ている者のために、骨や角でたくさんの耳かきを作ってください」
「そういうことならば任せろ」
「彼らの耳の呪いが解けないと不憫です。報酬は弾みます」
「ありがとう。こだわりの耳かきを作ろう」
町の長の道案内で、
動物の骨や角が収められている建物に案内された。
きれいに整えられていて、どれを使ってもいい耳かきが出来そうだ。
町の者も使うということで、
ある程度選別して譲ってもらい、
町の広場で耳かきを錬成し、町の者に耳かきの仕方を伝授する。
みんな耳かきの心地よさに、すぐに虜になったようだ。
町の皆は、騎馬武者ほどではないけれど、
様々の角が生えている。
強いものは大きな角が生えるということは、
町に暮らすものは基本力が強くないもので、
戦士となると大きな角が生えるのかもしれない。
それが、多分だけど憧れの対象なのかもしれない。
その特別な角で作った耳かきはどんな効果かあるだろうか。
「それでは耳かきの勇者様、ホーニーズの角堂にご案内いたします」
町の長が俺たちを案内する。
どんな角が待っているだろうか。
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