第11話 あかのくにの物語 赤の国はカラカラに暑い国だった

俺は、赤の国に入る関所で、

神速の耳かきを繰り出す。

関所の入口にいた数人、神速で扉を開いて、

さらに関所の中を駆けまわって、

関所の中のすべての者の耳をかく。

最後に関所の入口まで戻ってきて、

俺は神速を解いた。

関所の番人たちが膝をついた。


「今、のは、一体…」

「耳から快楽が瞬時に駆け抜けて…」

「聞こえる、ぞ」

「聞こえる。まともな言葉が聞こえるぞ」


どうやら耳の呪いは解かれたようだ。

俺にもわかる言葉で彼らは話し始めた。

多分俺の言葉も通じるだろうと思い、

俺は関所の番人に話しかけた。


「突然すまなかった。俺たちは耳の呪いを解きに旅をしているものだ」

「突然聞こえるようになったのは、あなたの力なのですか」

「俺は耳かきの勇者と呼ばれている、こちらは神の耳の巫女だ」

「なるほど、お二方で我らの耳の呪いを解いたのですね」

「耳が呪われていると話すこともかなわないと思い、先に呪いを解いた」

「賢明な判断です」

「それで、俺たちはこれから赤の国の耳の呪いを解きに行く」

「それで青の国から、こちらにいらしたのですか」

「青の国の耳の呪いは、ほぼ解けたと思う。聞けば赤の国の耳の呪いがひどいと」

「私たちの耳の呪いもひどいものでした」

「耳が呪われて話が通じないときは、激昂しているように見えたな」

「耳が呪われていますと、話の通じない相手が敵に見えます」

「なるほど」

「そうでなくても、赤の国は、今、戦争をしかねない状態です」

「穏やかでないな。何があったんだ」

「関所は通過してよろしいので、赤の国を見ていただくのが早いかと」

関所の番人は、俺とリラを連れて、

関所の施設内を通過していく。

皆、耳が聞こえるようになって喜んでいるのが見えた。

そして、関所の最後、赤の国へと続く扉を開けた。


赤の国に入った途端、そこは荒野になっていた。

隣の青の国とは全然違う。

「赤の国は、太陽の光の強い国です」

「それでこんなに草木がないのか」

「いえ、赤の国は、黄の国からの水を制限されてしまっているのです」

黄の国は水の多い国と聞いている。

多分そこから、赤の国への川みたいなものがあったのかもしれない。

それが制限されたとあっては、死活問題だ。

番人は、赤の国は水を制限されたことの報復として、

黄の国に戦争を仕掛ける準備をしていると、

そこに、耳の呪いも蔓延していき、

どの国から諫められようとも、

赤の国はどんどん戦争に向かって行っている。

そんなことを、番人は話してくれた。

戦争になれば、国民が死ぬ。

国を作っているのは、えらい誰かでなく、たくさんの国民だ。

黄の国は国がある中の、中心の国だと聞いている。

軍事力もあるのかもしれない。

あるいは、黄の国にも耳の呪いが蔓延していて、

それで赤の国への水を制限しているのかもしれない。

この世界にはびこる耳の呪いは、相当なものだ。

「どうか、戦争をとめてください。殺し殺されるのは嫌なのです」

耳の呪いの解けた、番人の素直な本音なのだろう。

俺は、番人の肩を叩いた。

「俺は、世界中の耳の呪いを解きに行く。可能であれば戦争だって止める」

「お願いします。耳かきの勇者様」

「本音で話してくれてありがとう。赤の国のことが知れてよかった」

「それでは、赤の国の町まで文書鳥を飛ばします」

「文書鳥とは?」

「文書を括りつけた鳥です。文字であれば呪われることはありません」

「なるほど」

「文書を読みましたら、町から使者が来るはずです」

「多分耳は呪われているだろうな」

「おそらくは」

「耳かきの準備をしておくか」

俺は、青の国で得た木材の中から、

硬い木材を時空の箱から取り出し、耳かき錬成をする。

その間に、文書鳥が関所から飛び立っていき、

荒れ地の赤の国の空で小さくなって見えなくなった。


俺はしばらく、赤の国の風景を見ていた。

カラカラに乾ききった大地。

空には雲一つない。

多分雨も少ないのだろう。

ここで水を制限されては、勝ち目がないとわかっていても、

戦争を起こしかねないことがわかる。

それほどまでに乾ききっていた。

生きていくのに、過酷な国だ。

俺が赤の国の荒野を見ていると、

地平線から何かがやってきた。

騎馬部隊だ。近づいてくるにつれて、武装しているのがわかる。

おそらくではあるけれど、

文書鳥はちゃんと届いた。

しかし、青の国からやってきた俺たちを、

敵とみなしているのだろう。

そして、関所が落とされたと思っているのかもしれない。

騎馬部隊は猛スピードでやってくる。

荒野をかける嵐のように。

俺の感覚で言うところの騎馬武者たちは、

戦国大名のような、特徴的な兜をかぶっている。

まるで鹿の角や水牛の角が生えているようだ。

兜をかぶったままでは耳かきするのに手間がかかる。

一度、兜を弾き飛ばそうと俺は考えた。

その瞬間、頭の中に何か文字が閃いた。

耳かき斬術を閃いたときのような文字だ。

多分その文字から感じる限り、

兜を弾き飛ばすようなことができるはずだ。

俺は、硬い木材から、かなりたくさんの硬い耳かきを錬成する。

騎馬部隊がある程度まで近づいてきたところで、

俺は新しいスキルを発動する。


「耳かき投擲!射の型!」


俺は、耳かきを手裏剣のように連続して投げる。

兜に耳かきが当たり、兜を弾き飛ばしていく。

また頭に文字が浮かび上がる。

どうやらスキルの派生があったようだ。

俺はそのスキルを発動させる。


「耳かき投擲!散の型!」


今度は、複数の耳かきを、たくさんの相手に向かって正確に投げることができる。

耳かきは兜に当たり、やってきたすべての騎馬武者の兜を落とした。

ただ、驚いたのは、騎馬武者の兜のものと思っていた、

鹿の角のようなものや、水牛の角のようなものは、

彼らの頭からそのまま生えていた。

なるほど、ニードリアンという種族もいたことだし、

彼らは角の生えた種族なのだろう。

騎馬武者の馬の足が止まった。

耳かき投擲で動揺しているのかもしれない。

「今だ、リラ、神語を頼む」

俺は後ろにいた、リラに頼む。

リラは前に出て、言葉を選ぶ。


『ワタシタチハ アナタタチノ ミミノ ノロイヲ トクモノデス』


俺の中で、騎馬武者たちと、その馬と、

耳の感覚が共有される。

確かに耳の呪い特有の不快感があるようだ。

俺はそれを感じた上で、足の止まった騎馬武者に向けて走り出し、


「神速の耳かき!」


スキルアップした神速の耳かきを発動させる。

ある程度までならば、動かれようが耳をちゃんとかくことができる。

こちらのスピードが、今まで以上に上がっているのを感じる。

騎馬くらいならば、止まっているようなものだ。

俺は、角の生えた騎馬武者と、その馬らしいものの耳をかく。

ほんの数秒で、騎馬部隊の耳の呪いは完全に解かれた。

荒れていた馬も、おとなしくなり、

騎馬武者は何が何だかわからない顔をしている。


「俺の声が聞こえるか?」

俺は騎馬武者に語り掛ける。

騎馬武者は驚いた顔をした。

「きこ、える。聞こえるぞ」

「俺が君たちの耳の呪いを解いた。言葉がこうしてつながるように」

「そなたが文書鳥にあった耳かきの勇者か」

「そういうことになっている」

「我らは角の種族。ホーニーズの騎馬部隊」

ホーニーズとは、角という意味のホーンから来た種族の名前かもしれない。

とりあえず、俺はそう解釈した。

「とにかく、突然兜が飛ばされて耳が聞こえるようになった」

「少し手荒な真似をしてしまったな」

「いや、傷は一切ついていない。むしろ心地いいくらいだ」

「それはよかった」

「いったい何をしたのか、我らにもわかるように教えてくれ」

赤の国の荒野の中、まずはホーニーズという種族の騎馬部隊の耳の呪いを解いた。

カラカラに乾いた赤の国、まだほとんどの耳は呪われているだろう。

なんとかしたいところだ。

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