第2話 いりぐちの物語 異世界に導いてくれる神様に会った
とにかく、俺は異世界クロッキアスに行くことが決まった。
神の耳を持つという巫女のリラ。
彼女の力で異世界に行くのだろうか。
とりあえず俺は尋ねてみることにした。
「クロッキアスにはどうやって行くんだ?」
「クロッキアスの空の果ての国、そこがこの世界の空とつながっています」
「空の果ての国。天国かな?」
「この世界では、神様がいる空の果てを天国というのですか?」
「言語や宗教によっていろいろだけどな」
「なるほど、この世界も言語が通じにくいのですね」
リラは納得する。
「とにかく、神様のいる、空の果ての国から入るってことか」
「そこまで神様が導いてくれるはずです」
「なるほど、神様待ちか」
「まもなくいらっしゃるでしょう。それまで、クロッキアスの話をしましょう」
リラが話してくれたところによると、
クロッキアスはいくつかの国にわかれている。
まずは中心の黄色い国。
雨が降り続いていて海が多い国で、少ない陸を権力者が独占している。
黄色い国から各地に水が流れている。
まずは東の青い国。
木々が生い茂り、気候は安定。森に住まう民族種族が多くいる。
南の赤い国。
乾燥地帯で、黄色の国から流れてくる大河のそばに皆が暮らしている。
西の白い国。
風の強い国で、クロッキアスの穀倉地帯。実りの国だ。
北の黒い国。
植物が育たなく、岩肌が露出している寒い国だ。医療大国でもある。
青い国から赤い国にかけて、外側を囲むように、
陽の国がある。太陽が出ている時間が長く、
光に満ちた国だ。聖職者などがいるらしい。
白い国から黒い国にかけて、外側を囲むように、
陰の国がある。夜の時間が長く、暗い時間が長い。
暗さに目の慣れた民族種族が暮らしていて、鉱石を掘っている。
そして、空の上の上の方。
空の果ての国があり、
俺の世界を含めた、いろいろな世界はそこからつながっていて、
神様がそこに住まうという。
逆に、大地から地下に地下に潜っていった先、
地の果ての国がある。
そこに、魔王は封印されていて、魔王軍がいまだにそこにいるという。
俺は大体世界のイメージをすることができた。
国の名前が固有名詞でなくてありがたい。
色から何となく国の感じがつかめた。
それっぽい名前がないのも、もしかしたら、耳の呪いのせいかもしれない。
青の国の旗とかであれば、
青い旗を見ればそうだと思うだろう。
多分目は呪われていないはずだ。
俺がふんふんとうなずくと、
小屋の外で何かが落ちた音がした。
落ちたというより、着陸音に近い。
俺とリラは小屋の外に出た。
小屋の外には、光り輝く人影が浮いていた。
その周りは衝撃で土が舞い上がった痕跡がある。
男とも女ともつかない、少し若い感じに見える。
「神様」
リラが祈るような仕草をした。
祈りのしぐさはこちらと大体一緒らしい。
手を組んで頭を垂れる。
「よいよい。呪いは解かれたようだな。私の声がわかるようだな」
「はい、はっきりと」
「それが、耳の呪いを解く勇者か」
「耳の呪いを解くもので間違いないかと」
「そうか、身体も丈夫そうで心根もよいものだ。きっと呪いを解いてくれよう」
神様は俺に近づいてきて、
「リラから聞いての通り、あちらは皆の耳が詰まっておる」
「呪われてるんだってな」
「耳をきれいにすることにより、呪いが解かれる」
「俺は耳かき職人で、耳をきれいにする道具の職人だ」
「ちょっとまて、それでそんなに身体が整っているのか」
「いろいろな素材で耳かき作るからな。筋肉はあった方がいい」
「いろいろな素材…それでは向こうの素材も使えるのだな…」
神様は考えた。
そして、
「よし、お前さんに神の加護をいくつかやろう」
「いいのか?」
「世界を救うためだ。皆の耳が聞こえんと世界の混乱が収まらん」
「そういうことならば」
神様は中空に文様を描いて何かを読んでいる。
そして、これとこれとと選んでいく。
そして選ばれた能力が次の物になる。
まず、異世界の物を鑑定する能力。
俺の世界で言うこれであると鑑定できる能力だ。
完全に別物もあるかもしれないけれど、
大体これが近いというものを関連して表示してくれる。
次に、素材を瞬時に加工する能力。
これは俺もありがたい。
耳かきが瞬時に何本もできるわけだ。
しかも、俺のこだわり具合のたくさん詰まったものが。
俺はこだわりすぎて耳かきがあまり作れなかったから、
この能力はありがたい。
それと、俺の身体能力を一時的に上げて、
目にもとまらぬスピードを繰り出す能力。
一応、神速能力というらしい。
今のところ10秒が限度で、
経験を積んでいけば、
スピードを上げることも、起動時間を伸ばすことも可能であるらしい。
今の10秒でも、おそらく数十人の耳かきが瞬時に可能であるらしい。
これは俺の経験で伸ばせるということか。
「あとはそうだな、この小屋も持っていくか」
「できるのか、神様」
「神の持ち物、時空の箱を使えばいい。小屋とその近辺を時空の箱に入れるぞ」
「あー、水道もあるんだが」
「そのあたりは、この世界とつなげておこう。時空の箱内は、あちらでありこちらだ」
そう言って神様は、俺の腕にブレスレットをつけた。
時計のようだけど、文字盤の代わりに白い宝石が入っている。
「その宝石を回せば、クロッキアスにこの小屋があらわれる」
「土地があれば、この家で休めるんだな」
「道具もあろう。耳かきを作ってもらいたいからな」
「ありがとう」
「あと、クロッキアスの金銭だが」
「あ、それは俺も気になってた」
「通過は金貨と銀貨。だが、その白い宝石に入れることにより、財産として処理される」
「どういうことだ?」
「通帳やクレカ、というものに入金として処理される」
「そっか、それで水道代も固定資産税も払えるんだな」
「そっちまではわからぬが、そちらの物や手紙も、その小屋に届く」
「俺は通販は使わないけど、届くってことだな」
「よくわからんがそういうことだ。この小屋はあちらでありこちらだ」
「何から何までありがとう」
「礼には及ばん。今からおまえは、世界を救う耳かきをしてもらうからな」
「それで、どうやってそっちに行くんだ?」
神様はちょっと笑った。
「先程この小屋に到着した時点から、ゆっくりと空の果ての国に向かっている」
「…気が付かなかったな」
「神の力だからな」
神様は上機嫌だ。
俺は小屋の近くを歩いた。
ある程度まで行くと、そこから先は空だった。
俺の小屋は時空を繋げたまま、異世界へとゆっくり飛んでいく。
「空の果ての国への扉が見えてきたな」
空に大きな扉が見えてきた。
扉は音もなく開いた。
異世界の入口が歓迎している。
俺はそう思った。
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