学校での私の話 -昼-
時刻は12時。お昼の時間です。
あかねと私はどこで昼食を取るか、廊下を歩きながら話をしていました。
「教室で食べる?」
あかねはそう提案してきました。
「そうだね、屋上は立ち入り禁止だもんね」
「そうなんだよー、誰かが屋上でタコパなんかしてるから、1年間立ち入り禁止だってよ。もぉ信じらんない」
あかねは許すまじだと言わんばかりの形相でした。
そうなるのも無理はありません。誰かが屋上でタコパをしました。これは校則違反です。屋上でのタコパは禁止と明記されています。
それにしても、学校でタコパとは一体何があったと言うのでしょう?
そんなに楽しいことがあったなら、わざわざ学校でやらなくても、お家に帰ってから時間の許す限り楽しめば良いと思います。
結局、タコパをしたクラス全員とそれに賛成した担任の先生は、1ヶ月の自宅謹慎を言い渡されたそうです。嘆かわしいことこの上ないですね。
「仕方ないよ。そういう人たちもいるってことで、来年のお楽しみにしておこう?」
「そうだね、でも毎日教室も飽きるよね……」
「うーん、後はどこか――」
「ピクニックしよー!」
そんなときです。可愛らしい声に乗って『それだ!』となる答えが聞こえてきました。
実際、私たちは「それだ!」と叫びました。
「お手柄だよ」
私が頭を撫でると、ミミはこそばゆそうにしていました。
ミミは私たちの友達、いやクラス全体、学校全体、もしかしたらこの世界中の友達かも知れません。
それから私たちはお手柄のミミと、校庭へとピクニックに行きました。青々と茂った芝生の上、穏やかに大きな木製ベンチが置かれています。
ベンチに座るなり、各自お弁当箱をお膝の上に置きました。
「折角だからさ、お弁当の中身当てゲームしない?」
あかねはわくわくと目を輝かせながらそう言いました。
「賛成でーす」
それにミミが乗り、私も「賛成」と続きました。
「それじゃあ、ミミのお弁当は私で、私のお弁当はもみじ、もみじのお弁当はミミ。中身が当てられたらお弁当の中身を1つだけ交換することね」
あかねの提案でお弁当を交換します。
ただ、私はどんなお弁当が来ても中身を正確に言い当てられる自信がありました。それはもうお分かりだと思います。
モノと会話できるからです。
お弁当箱に向かって、私は小声でお尋ねしました。お弁当の中身を教えてくださいなと。
「それは嫌だね。ご主人様が一番最初に中身を知る権利がある。どこ馬の骨かも分からねぇあんたに教える義理はねぇよ。ふっ、悪く思うなよ……」
思わぬ展開です。こんなプリティーな私に抱き抱えられてお話してあげているのに、なんですかこのお弁当箱は? なまいきですね。可愛くありません。あかねとは正反対です。
「いいでしょう。私にも考えがあります……」
私はお弁当箱を少し持ち上げ、底の部分に五本の指を添えました。そして、そのまま――
こちょこちょです。
「くっ……きさま……そんな、ことで……わぁあぁあはははははははっ!」
お弁当箱は大爆笑しました。私の手から逃れようと必死に揺れ動いておりました。
「どうです? 答える気になりましたか?」
卑怯な手であることは重々承知の上です。でもこれは致し方ありません。なまいきなお弁当箱が悪いのです。
「分かった、あははっ、答える……答えるから……ひぃぃぃ、やめてくれー」
「はぁ、はぁ、全くなんて小娘だ」
こちょこちょを止めた途端、この有様です。やはりなまいきですね。もう一度やりましょう。
「わあはははっ! やめ、ひぃぃぃ、あはははっ、分かったから!」
「はぁ……中身を言えばいいんだろ?」
「初めからそうしていただければよろしいのです」
「今日はおにぎりとおにぎりとおにぎりとおにぎりと野菜炒めだ」
「……それは信じても?」
「当たり前だろ!
「分かりました。では、信じましょう」
私がこんな茶番を楽しみながら答えを導き出している(中身を訊き出している)とき、あかねとミミは重量感や匂いで中身を推察しておりました。
「この軽さはサンドイッチだー」「この甘い匂いは……ケーキ?」
ミミは確信が付いているのか、足をバタバタさせて余裕綽々。
あかねはお昼にケーキ? と頭を抱えておりました。
そんなあかねを不思議そうに見つめていたミミは、ここでとんでもないことを仰いました。
「ミミのはケーキだよー、お母さんが教えてくれたー」
「あっ……」「……ミミ」
私たちは呆然としました。
自ら答えを言ってしまわれたミミ。でも、これは仕方ありません。この子はどんな些細な困り事でも助けようとしてくれる。人一倍思いやりの強い能力の持ち主です。例えそれが熟考の上、困窮するゲームだとしてもです。
ミミは小首を傾げながら私たちを交互に見つめてきました。まるでどうしたの? とでも言いたげでした。
「あはは……じゃあ、答え合わせしよっか。私は対象外にして、ミミの答え合わせからね」
「もみじのお弁当はサンドイッチだよー」
ミミは自信たっぷりの即答です。
「もみじ、正解は?」
私は自らのお弁当箱に手を伸ばし、蓋を外しました。少しずつ太陽の光がお弁当箱の中に差し込みます。
蓋を開けたその先には、羽毛のようなふっくらとした白いパンに挟まれて、色とりどりの具材が犇めき合っていました。私の今日のお弁当はサンドイッチが5つでした。
「ご名答、ミミ」
すんなりと言い当てられる私のお弁当でした。
「いえーい、ありがとー。サンドイッチとケーキ一切れ交換ねー」
そう言えばそうでした。当てた人は当てられた人のお弁当の中身を1つ交換できるのでした。好きな食べ物が1つなくなってしまうのは残念でしたが、それ以上に私は嬉しかったです。
なんたってケーキです。私のお弁当にデザートはありませんでしたから、交換と言えど得をしました。
「次はもみじね。私のお弁当の中身は?」
「おにぎり4つと野菜炒め」
私は即答しました。お弁当箱から直接訊き出しましたから絶対に正解である自信がありました。
「それ、昨日のお弁当だけど……」
あかねのその一言が一気に不安を呼びました。違う気がしています。
お弁当箱に手を伸ばし、蓋を開けたあかねは微笑みながら言いました。
「ハズレ」
あっ、えっ? 間違えた? でもお弁当箱が……私は驚きを隠せずにいました。
「で、でもお弁当箱が……」
「もみじぃ、自分の能力使ったでしょ?」
「それは一体なんですか?」
「はぐらかしても無駄だよ。小声でお喋りしていたの知っているから」
うぅぅ……。
「でも外しているの面白い」
うぅぅ……。
これはお弁当箱のせいです。私は悪くありません。私の能力の素晴らしさを証明できなかったこと、大変屈辱的です。
お弁当箱にはこの罪を償っていただきましょう。こちょこちょプラスでこぴんで許して差し上げます。あかねのお弁当箱なので、これは特別対応です。本来ならもっと厳しく激しい刑に処すところです。
「あかね、お弁当箱だけ後で貸してくれない?」
「どうして?」
「ちょっと意地悪したい」
「ダメだよ。お弁当箱が拒否してるから」
あかねのお弁当箱を見ると、左右にふるふると動いておりました。お弁当箱が意思を持って動いていると言うより、あかねが意図的に動かしていました。
それでも、お弁当箱は『さすが俺のご主人様だ』と自慢げに言い放ってきました。ドヤ顔のところがまたなまいきですね。
「もみじから一本取るなんて、私のお弁当箱は賢いねぇ、えらいえらい」
お弁当箱をなでなでするあかね。お弁当箱はデレデレです。私の時とは大違い。許すまじ。
「あっ、もみじが交換して貰うケーキは私がいただくね! おにぎりと交換で」
「あっ、ケーキ……」
楽しみにしていたケーキがなくなりました。仕方ありません。そういうルールですから。
その様子を見ていたあかねのお弁当箱はニヤニヤが止まらない様子。許すまじ。次があれば絶対に当ててやる! そう強く誓う私でした。
それでもきっと、お弁当は中身を知らない方が良いときもあると教えてくれたような気がしています。開けるまでのドキドキ感、開けてからのワクワク感、それがお弁当をより一層の美味しくしているのだろうと思います。
お昼は楽しくエナジーチャージする、一日に一度きりの時間ですから。
午後の授業も頑張りましょうか。
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