3-11 深夜の作戦会議
六夏に偉そうなことを言ったものの、一人になり、改めて考えると大口を叩いたことがあまりに無謀に思えて、さっそく後悔していた。後悔といっても、協力すると言ったことを後悔しているわけではない。もう少し六夏の考えを聞いておけばよかったという後悔だ。
今から訊きに行っても遅くはない。そうは思うがあまりにもかっこ悪すぎる。カッコつけたところで何になる、と自分の中の自分が叱咤するが、ひとまず今日は眠りに落ちようと目を閉じた。
気づけば夢の中にいた。
周りにはたくさん人がいて、誰が見ている夢なのか判然としない。
見覚えのない場所だった。建物はたくさんあるのに、ひとつとして見たことがない。
夢の出口について、何か足がかりがあるかもしれない。散策に向かおうとしたが、動けなかった。足が一歩も前に出ない。
何度も何度も足を動かしてはみたが、結局その場で呆然としているも同然だった。
動かせないのは足だけではなかった。手も動かない。指先すら、思うままにはならない。
唯一、目だけが自分の意思を尊重してくれた。辺りを見回すが、知らない景色が広がっているだけで、何の情報も得られなかった。
目を開き、まだ暗い中で天井を見上げる。
目が覚めてすぐ、どうやって目覚めたのだろうかと考えていた。夢から醒めるときのことを思い出そうとするが、ぼんやりとして、具体的には覚えていなかった。
夢の終わり、つまり夢の主が目覚めるより前には夢から出ているような気がした。
夢を見ている夢の主が先に目覚めれば、そこに侵入している者は夢の中に閉じ込められてしまうのだろうか。
容易に考えられることだが、しかし、随意にできることではないように思えた。
今までそんなことは一度たりとしてない。もし夢の中に閉じ込められる引き金が、目覚めにあるとするなら、渉もすでに夢の中に閉じ込められているような気がする。この世に何人、渉と同じような人間がいるかはわからないが、その大半が夢の中に閉じ込められ、原因不明の眠ったきり状態になっているだろう。
では、
おそらく六夏は知っているのだろう。夢に閉じ込められた人間を助ける方法は知らずとも、どうすれば夢の中に閉じ込められ、眠ったままの状態になるのかははっきりしているようだった。
知っているからこそ、六夏はそれを渉には言わないだろう。
夢から出る方法も、夢の中に閉じ込められる術もなく、渉は手詰まりの状態だった。
せめて夢の中で自由に動くことが叶うなら——
ふと疑問が生じる。稔は自由に動いていた。夢の中で、自分の意思で動いているように見えた。
なぜだ?
動ける者と動けない者に分けられる、その違いは何なのかと自問する。
渉は起き上がり、デスク上のブックライトをつけた。引き出しからメモとペンを取り出し、稔と自分との違いを書き綴る。
さほど出てはこなかった。性別も同じ、年齢もさして変わらないだろう。他者の夢を見ることができるという点も一致している。
稔のことをよく知っているわけではない。話したことがあるわけでもなく、稔に関する情報をほとんど持っていないため、考えに考え、絞り出した結果、最初に挙げた程度の内容しか思いつかなかった。
ペンを置こうとしたタイミングでもうひとつ、忘れてはいけない違いに気づく。それは、稔が夢の中に閉じ込められてしまっているということだ。
依頼人の話から、稔はここ最近になって依頼人の夢に現れるようになっている。しかし、それまでは他の誰かの夢の中にいたはずで、そもそも閉じ込められる要因となった夢の持ち主もいたはずだ。
つまり、稔は夢と夢の間、しかも異なる人物の夢の間を移動している。
それだけではなく、夢の中でも稔は自由に動いていた。
もしかすると、夢の中に入り込めさえすれば、身動きが取れるようになるのでは?
そこまで考えて、肝心の夢の中に閉じ込められる方法がわからないことを思い出す。振り出しに戻ったというわけだ。
結局、六夏に訊くしかないのだろうか。
一度断られているし、内容が内容なだけに、おそらく六夏はその方法について言及はしないだろう。
渉は再びベッドに潜り込むと、そのまま目を閉じた。
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