3-8 強気と隠した本音
背わたをとったエビをバットに並べていく。途中で千切れずきれいに一本取れたときは、非常に気持ちがいい。無心でできることも、今の渉にはちょうどよかった。
本日の夕飯はエビフライがメインだ。おやつに作ったラスクの余りの食パンをすりおろし器でおろし、パン粉にする。ちなみに食パンも渉のお手製だ。
タルタルソースのためのゆで卵はすでに作っており、合わせるピクルスは昨日から漬けている。
コンソメで炊き上げた玄米がいい香りを放つ。
朝と昼は六夏が家を空けることが増えていたが、夕飯時には戻って来ていることも多く、唯一ご飯を一緒に食べられるタイミングだった。それでも絶対ではなく、冷蔵庫行きになる可能性もあったが、毎日必ず六夏の分も作った。いらないと言われていたが、放っておくと何を食べているのか、いや食べていないことも多いようだったので、それを知って放置はできなかった。何より、朝になれば六夏に残しておいた分はなくなっていたので、食べてくれていることはわかっていた。
くるみと別れて自宅に戻って来てすぐ、渉は稔のことを調べた。小さい記事だったが、異質な出来事はニュースとして報道されていた。
稔が眠ったままの状態になったのは半年ほど前。くるみが言っていたように、原因はわからないらしい。
各種精密検査を行ったが、身体には何も問題はなかったとのこと。ただ、栄養も水分も経口摂取できないため、すべて点滴で補っているとのことだった。
検索ワードを変えて色々調べてみたが、他にそういった症例はなく、目覚めさせる術を見つけることは絶望的だとされていた。
エビを卵にくぐらせていたところで、玄関が開く音がした。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「もう少ししたらご飯できますけど、召し上がられますか?」
「いただくよ。今日は……エビフライか。いいね。手洗ってくるよ」
「今日、笹川稔さんに会いました」
「……そう」
食べ始めてすぐぶっ込んだ渉に、六夏は一言こぼしただけで何も言わなかった。目を伏せ、静かに箸を進める。
「稔さんのお姉さんのくるみさんにもお会いしました。というか、くるみさんにお会いしたのが先ですね。それで稔さんのところに案内されて。稔さんは以前ここで働いていたそうですね」
渉にしては珍しく強気だった。一歩も引く気はなかった。
今日このときを逃せば、もうこのことは訊けないのではと予感のようなものがあった。
「うん」六夏も隠すつもりはないのか、静かに口を開く。「ピョン吉くんが来る前に手伝ってもらってたんだよ」
「稔さんも
「……うん」
いつもは渉よりも口数の多い六夏の歯切れが悪い。
渉は遠慮しなかった。
「気づいてたんですよね、依頼人の夢に出てくる男性が稔さんだってこと」
「……」
「何があったのか話してもらえませんか? 稔さんが眠ったままになってしまった理由もご存知なんでしょう? 稔さんが夢に出てくる理由も」
くるみと初めて会ったときに、渉がこの探偵事務所で働いていることを知るや否や発した言葉をずっと気にしていた。
六夏に何か事情があるのだろうことは推測できたし、曰くつきの探偵事務所も珍しくないのではないかと思っていた。
気になりはしたが、無理に聞き出すつもりはなかった。六夏が自ら話してこない限り、訊くつもりはなかった。病院のベッドの上でたくさんのチューブに繋がれ、眠ったきりになっている稔を見るまでは——
六夏は口を閉ざしていた。
しばらく待ってみたが、何も言わない六夏に渉は先ほどよりも声のトーンを落として口を開く。
「俺なら何かできることがあるんじゃないですか?」
六夏もそれを望んで自分をここに置いているのではないか——頭に浮かんだ言葉は、声になるすんでのところで飲み込んだ。
「ピョン吉くん……それ、本気で言ってる?」
数分ぶりに言葉を発した六夏の声は震えていた。微かに瞳も揺れている気がする。
「えぇ、俺は冗談とか言わないんで」
ニヤリと口角を上げると、白旗を振るように六夏も
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