1-22 ノンドリーマー
その日の夜、夢に大東が現れた。
場所は見慣れたリビングで、六夏も交えて談笑している。一つに結われた髪は、記憶よりも短い。
食材を持ってきてくれたのか、テーブルの上にはたくさんの箱。それらを囲むように六夏たちは立ったまま、片手にマグカップを持っていた。マグカップからは湯気が立ち昇る。
テーブルを囲むのは、六夏と大東だけではない。そこにはもう一人、見知らぬ人物もいた。背は大東と同じくらいで、ガタイのいい大東とは違ってほんの少し華奢に見える。大東の隣にいるためにそう見えるのかもしれない。何にせよ、180近い大男が三人も並んでいると、空間が狭く感じる。見慣れたはずの場所が、こんなに窮屈だったかと思うほど。
夢の内容はなんてことないありきたりなものだった。
これまで奇妙な夢ばかりを見ていたから、余計にそう思うのかもしれない。
朝、その話を六夏にすると、「そういえば」と持っていたコーヒーカップを置いた。
「ずっと訊きたいと思っていたんだけど」
「何ですか?」
「他者の夢を見ていること自体知らなかったみたいだから、知らないかもしれないけど、誰の夢に入るのかは自分の意思で決めてるの?」
「いえ、俺の意思ではないと思います……今までの経験からすると、その日よく話した人とか、感情が強く動いた相手とかでしょうか」
六夏に他者が見ている夢を見ていると言われてから、少しずつ考えていた。過去の経験を思い出しながら、これまでにどんな夢を見たのかを反芻する。
結論としては、自分の夢と他者の夢の区別がつかないのでなんともいえないが、夢に出てくるのは、その日関わった人が多かったように思う。主としては話した人だが、大人数で話をした場合は、その中で特に心を惹かれた人の夢を見ることが多かった。それが負の感情でも、そうでなくても。
そこでふと渉の中に疑問が生じる。どうして今まで気づかなかったのかと不思議に思うような疑問だ。
「そうなると、あなたの夢にも入ってしまう可能性もあると思うんですけど……それは心配じゃないんですか?」
今まで散々他人の夢を見ておいてなんだが、誰しも自分しか見ていないと思っている夢を見られるのは嫌だろう。それはまるで心の中をのぞかれているようなものだ。無意識下のプライバシーに勝手に入ってこられている感覚だろうか。
口にして、渉はすぐに後悔した。自分で自分の首を絞めてしまったのではないだろうかと。六夏がそのことに気づいていない可能性は低いが、わざわざ自分から知らせる必要はなかったように思う。
「そのことなら大丈夫」
渉の心配をよそに、六夏は何ともないと言わんばかりに平気な顔をしていた。
「僕はノンドリーマーだからね」
「ノンドリーマー?」
「そう。僕は夢を見ないんだ」
「夢を、見ない……? 覚えていないとかではなく、全く見ないんですか?」
「うん。覚えていない人のことも確かにノンドリーマーと言ったりするけれど、僕は正真正銘、見ない方のノンドリーマーさ」
六夏は渉から目を逸らした。
「だから、君たちのような人間の力が必要なんだ」
何かを呟いたように見えたが、渉の耳には届かなかった。
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