第3話 勇者達の力を削ぐ。これが私が魔王様に捧げる最後の“愛”であり“憎”です

 大体の方針は決まりました。いつまでもメソメソしていれば、魔王様が愛した人族の女が死んでいるという情報を得てしまいます。それまでに、私は勇者一行の一角である騎士を堕とし、勇者達の力を削ぐ。これが私が魔王様に捧げる最後の“愛”であり“憎”であります。


 そうと決まれば、ベッドから起き上がり姿鏡の前に立ちます。

 ふわふわとした薄紫の長い髪に、バラのような鮮やかなピンクの瞳がうるうると私を見てきます。豊満な胸に引き締まった腰からふくよかなお尻ラインに沿うような濃紺ドレスが真っ白な肌を際立たせています。そして、太ももから入ったスリットからは引き締まった足が見え隠れしています。

 黒色は魔王様の色であるため、将軍の地位に付くものは黒に近い濃紺の色を纏うことが許されているのです。


 なんて破廉恥なドレスなのでしょう。胸がこぼれ落ちそうなのですが?今までの私は何故この姿を何も思わずにいられたのでしょう。

 クローゼットを開いてみますが、同じ様な身体のラインを強調した衣服ばかり。まぁ、私はサキュバスなので、その様にある存在ですから、仕方がありません。


 ベッドの側にある呼び鈴を鳴らします。

 “リン”の“R”の時点で扉がノックされました。いつも思いますが、扉の前で手を構えたまま待機をしているのでしょうか?


「入ってきて」


 私の寝室の扉をノックしてきた使用人に入る許可を与えます。え?先程副官ガリウスは勝手に入っていたではないかと?あれは父親が違う弟なので、昔から私の部屋に勝手に入ってくるのはかわりません。


「失礼します」

「人族の領土に潜伏したいのだけど、目立たない服装はないかしら?貴女が着ているようなメイド服でもいいわ」


 私がここにある以外の服は無いのかと使用人に聞いてみると、固まったように動かなくなってしまいました。無いのかしら?予備のメイド服。


「ご主人様。仕える身で意見を口にするのはおこがましいと思いますが」

「良いわ。何か問題かしら?」

「はい。ご主人様はどの様な服装でも目立ってしまうと思われます」


 確かに人族ではピンクの瞳の者なんて見かけなかったわね。


「では、貴女が着ているようなメイド服でいいわ」

「それは卑猥な感じに……いえ、もしかしてご主人様は敢えてそのような感じを狙っている?」


 何をボソボソ話しているのでしょう。小声過ぎて聞こえません。


「かしこまりました。ご用意してまいります」


 そう言って使用人は下がっていきました。

 あと二、三日後に恐らく勇者一行と第九将軍である人狼ヴォルフとの戦闘があるはず。人狼ヴォルフを倒すものの勇者も瀕死の怪我を負い、聖女とエルフが看病するシーンがあった。

 ということは騎士は一人でいるはず。私はそこから接触をもてばいい。それまでタイミングを測るために、何処かに潜伏しておかなければならないのです。










 ここは王都と辺境を繋ぐとある国のとある街。それなりに大きな街ですので、人々の往来が多く、我々のような人の姿に近い魔族が潜伏するにはよいところです。


「リリーベル将……様。どうやら、あの宿場に勇者一行が滞在しているようです。昨日、ヴォルフ様の命がけの攻撃にかなりの深手を負ったようです」


 私の配下であるサキュバスの情報によると、思っていたより早くヴォルフとの交戦があったようです。私との戦いが無かったために、進む速度があがった所為でしょうか。


「しかし、その御姿はなんて卑……いいえ、見せつけるよりも、隠されることで放たれる色気。これで手負いの勇者もイチコロですね」


 配下のサキュバスは何故かクネクネしながら、私を見てきます。

 私の格好は普通の町娘の格好です。使用人の服装は着てみたものの、他の使用人からダメ出しをされたので、今は詰め襟のワンピースに腰をベルトで押さえ、ふわりと広がる裾の長いスカートにショートブーツを合わせたその辺りにどこでもいるような町娘の格好にしたのです。これで目立つことはないでしょう。

 それから私の狙いは勇者ではありませんよ。


 月明りに照らされた一軒の宿場を見つめます。一つだけ深夜にも関わらず明かりがともった部屋があります。恐らくあそこが勇者が担ぎ込まれた部屋でしょう。


「では、今回は挨拶に行ってきますわ」

「いってらっしゃいませ」


 頭を下げて見送っている配下を背に私は暗闇の中を進んでいきます。宿場の入り口の前に立ち月の光で作られた影の中に入り、建物の中に影を伝って入っていきます。サキュバスとしてはこのような侵入は息をするようにできること。

 建物の中に入ると息をふぅーと吐き出します。眠りを誘う吐息ですわね。そこからしばし待ってコウモリの様な翼を出して浮遊しながら目的の人物を探し出します。

 え?夜中にわざわざ眠りに誘う必要はないだろうって思っています?


 あの騎士が勇者が使い物にならない状態で眠るとは思いませんので、強制的に眠ってもらいましたの。


 そう、外から見て明かりが付いていた部屋の扉の前で置物のように直立不動で立っているフルプレートアーマーのようにですね。

 この様な状態で寝ているなんて信じられないですわね。そして危険なため腰の剣は預かっておきましょう。なるべく触れないようにそっと剣を柄から抜き取ります。


 さて、夢の中にお邪魔いたしましょうか。

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