第2話 魔王様。貴方様のために私は尽くしましょう
「第八将軍リリーベル。ご報告にまいりましたぁ」
扉の前で名を名乗ると、蝶番が重く軋む音と共に扉が両開きで開いていきます。扉の内側は薄暗く玉座の間と言われる部屋の全貌は目視することはできませんが、強く濃厚な魔力が玉座の間の中に満ちており、あまりにも強い力に背中がゾクゾクして高揚してきます。
「魔王さまぁー!ご報告にまいりましたのー」
背中の翼をはためかせて、玉座に鎮座しヴァンレイド様からの報告に耳を傾けている風の魔王様に突撃します。
ええ、突撃です。
「魔王さまぁ。勇者という輩は聖剣なるものを手に入れたようですわぁ」
闇を纏うような髪から天を突き刺す様に捻れた角が二本生えており、鳥のような漆黒の翼を3対折りたたんでいる姿に心が高揚します。私は私の豊満な身体を魔王様のたくましい身体に押し付けるように抱きつき、私が得た情報を報告しました。
え?そのようなことを魔王様にして怒られないのかですって?私に怒るのはヴァンレイド様であって、魔王様は私の行為を咎めることはしません。
「リリーベル!いつも言っていますが、魔王様から離れなさい!」
と言うふうに怒るのはヴァンレイド様です。
「そうか」
いつも通り私の言葉に一言だけ言葉を言われる魔王様。
「魔王さまぁ。リリーベルは必ず魔王様のお役に立ちますわ」
私は頬を赤らめ、そっと手を離し魔王様から距離を取ります。そうして私は入ってきた扉から飛んで出ていくのです。
背後で扉が大きな音を立てて閉まると同時にポロリと涙がこぼれ落ちます。
まだ泣くのは早い。
慌てて城下にある私の家に転移をして、ベッドに倒れ込みます。
「っ―――――――――――――!!」
枕に顔を押し付けながら私は感情を吐き出します。魔王様の石榴のような瞳は私に向けられることは今まで一度たりともありませんでした。
そして、側近のヴァンレイド様にも。
魔王様の御心は全て一人の人族の女に注がれているのです。
私では魔王様の目にも留まらなかったことが悔しい!
魔王様の赤い瞳に私が映らなかったことが悲しい。
ただの人族でしかない女が憎い。
我々の魔王様の御心を独り占めしている女が恨めしい。
真実を知った今、魔王様に失望しているかと言えば、今も変わらず私の心は魔王様で満たされています。
ただそこに愛情と憎悪が入り混じり、魔王様に尽くす気持ちには変わりありません。
魔王様。貴方様のために私は尽くしましょう。
「リリーベル将軍」
ベッドでうつ伏せていますと私に声をかけてくるモノがいます。この声は私の副官であるインキュバスのガリウスです。
「何かしら?」
私はうつ伏せのまま応えます。
「何かございましたか?」
何も無かった。ただ、私が変わってしまっただけ。私は身を起こし、見た目は金髪に甘いマスクの優男に見えるガリウスに笑みを向けます。魔王様と比べればその辺の小石程度のモノ。いいえ、魔王様と比べれば全てのモノが雑草にすぎません。
「何もなかったわ。それで、報告をしてくれるかしら?」
これでも私は淫魔をまとめる第八将軍。自分の責務は忘れてはいません。
「はっ!第一から第十部隊まで順調に各国の要人に接触し、籠絡していっています」
「そう、魔王様が世界を支配する日も近いわね」
「ただ、リリーベル将軍の命令で一番優先事項の勇者への接触が中々できないでいます。人材を代えて送り込んではいますが……」
ああ、そう言えばそのような命令も出していたわ。勇者を骨抜きにしてしまえばいいという私の浅はかな考えでした。
「その命令は取り下げるわ。勇者一行には私が直々に手を下します」
「リリーベル将軍が御自らですか!流石でございます」
別に流石というほどのことではないですわね。
「二、三日休んでから、人族の領域に飛ぶから他のモノたちへの指示はガリウス副官にまかせるわ。全ては魔王様の手に世界を捧げるために」
「了解いたしました!全ては魔王様の手に世界を捧げるために!」
そう言ってガリウスは消えるように去っていきました。そして、再びベッドに倒れ込みます。
物語には続きがあるのです。魔王様は愛した人族の女が、もうこの世にはいないことを知り、魔王城で姿が見えなくなります。そして、魔王様がどこで何をしていたかといえば、人族の姿に扮して勇者一行と行動を共にして聖女に恋心を抱くのです。
あの魔王様がただの人族にすぎず、勇者に恋をしている聖女を好きになるだなんて!絶対にこれは阻止しなければなりません!我々魔族を裏切るような行為は例え魔王様だとしても許されざること。
最終的には次期魔王と噂高い第一将軍の堕天使サイザール様によって殺されるのです。
絶対に!あのいけ好かないサイザール様に魔王様が殺されるなんて許しません!
しかし、私が逆立ちをしてもサイザール様に敵いませんので、この未来を別の方から代えていかなければなりません。
私はサキュバスのリリーベル。脳筋の様に正面から戦いを挑むのではなく、サキュバスとして人の心を堕とせばいいのです。
その対象人物は勿論勇者!……ではなく、フルプレートアーマーをまとっていた騎士の方です。勇者が私になどになびかないのは、前世の記憶から理解しましたので、お付きの騎士を堕とすのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます