うちの5歳の孫娘のユニークスキルが【⠀肩たたき トントントン 】だった。➞ 結果、最強の村が完成した!
果ての街にある教会の祭壇で神父が声を張り上げている。その前には子供たちが膝をつき、1人、また1人と壇上に上がっていく。
「次で最後だな。……あんな村にまだ子供がいたのか。ババ村のマリー前に出なさい!!」
「ハーイ!!」
「ハイは伸ばさない!!早く来なさい!!」
「…………。」
「それぐらいで不貞腐れてるんじゃありません!! 何ですか、そのつまらなさそうな顔は!! ……まったくやはり廃村間近の村の子供は礼儀なっていませんね!!」
この国では5歳の時に神殿でスキルが与えられる。そのスキルによってその後の人生が大きく変わるため、この恩寵の儀式と呼ばれるスキル付与の行事は皆子供ながらに真剣に取り組んでいた。ただ1人の少女を除いては。
今なお不貞腐れて、頬を膨らませている彼女の名はマリー。両親を早くに亡くし、ずっと祖父母と暮らしている5歳の女の子だ。
(……なんか初めて怒られたし、はやく帰りたいよ。村の皆はワタシに怒ったりしないもん!あのつるっパゲ嫌い!!)
マリーの暮らすババ村はもう年老いた者しかいない寂れた村である。そんな村の唯一の子供である彼女は猫可愛がりされていて、怒られた事など先程まで1度もなかった。そして彼女自身もそんな優しい村のおじいちゃんとおばあちゃん達が大好きだった。
「女神の像に祈りを捧げなさい!」
「ハイハイ」
「ハイは1回です!!」
一つだけマリーを庇うなら、彼女はこの儀式について、あまり詳しくは知っていなかった。おばあちゃん達が何やら話していたがお菓子を食べるのに夢中で「神殿で何かいいものが貰える」くらいに捉えていた。お菓子やおもちゃを想像していたマリーにとって像に祈る度に何も無いのに一喜一憂する子供達はただ気持ち悪い意味不明集団だった。
(こんな気持ち悪い意味不明なことしたくないのに。おばあちゃんやおじいちゃんに会いたいよ。元気にしてるかな。)
マリーにとって村を出たのは今日が初めてだった。おじいちゃんとおばあちゃんの付き添いはあるが、気持ち悪い意味不明集団に囲まれた今の状況では5歳の子供がホームシックになるのは仕方のないことだった。
マリーが見様見真似でお祈りをしていると体が軽くなったような不思議な感覚が彼女を襲った。
「……どうやら、スキルを得たようですね。では、この石に手を触れなさい。……なんですか? だからその顔をやめなさい!!」
不思議な感覚に戸惑っていると、神父が石に触れるように催促する。頬膨らませながら石を触ると金色の光が漏れる。
「金の光!? まさかこの様な礼儀知らずの子供がユニークスキルだと!?」
スキルには2種類あり、白い光のノーマルと金の光のユニークに分類される。ノーマルは剣技や料理、鍛冶などの一般的なモノだが、ユニークは唯一無二の特別なモノだ。またユニークスキルはどれも強力で神聖視されるほど貴重だった。勇者や聖女と呼ばれるような10年に1人いるかいないかの傑物になる逸材。そんなユニークスキルを物欲センサーゼロだったマリーは神引きをしたのだ。
光が儚く散っていくと石に文字が浮かび上がった。
ユニークスキル 肩たたき トントントン
神父は手で口を隠しながらフッと笑うと何も見なかった様にマリーを元の位置に戻した。普通なら呼び止め本部に報告するのだが、果ての街から本部までは非常に遠くこの無礼な面白スキルの子供と向かうのは嫌だったので彼は即座になかったことにした。
―――
「それでね。そのつるっパゲに怒られたんだよ!」
「そうだったね。見てたよマリー。つるっパゲに怒られてたね。可哀想に……お菓子食べるかい?」
「うん!! おばあちゃん大好き!!」
マリーはすぐさま村に帰っていた。おじいちゃんとおばあちゃんは村で買い物しようと思っていたが、マリー駄々を捏ねたので仕方なく式のあとトンボ帰りしていた。
「それでマリーは何のスキルだったんだい?」
「そうじゃのう、思い出したかの?」
「うーん、なんか金色に光ってー」
「金色じゃと!?」
「なんかつるっパゲも光っててー」
「…………。」
「うーんと……あっ思い出した! 肩たたきトントントンだった! あれなんなの??」
「……お菓子食べるかの??」
「うん!! 美味しいね!!」
その夜、マリーがお腹いっぱいになって寝ると村の者達は1つの建物に集まっていた。
「でどうだったんじゃ。マリーのスキルは??」
「……肩たたき トントントンじゃ。」
「は??……すまん、耳が遠くなっていかんのう。スキルはなんじゃった?」
「肩たたき トントントン。ユニークスキルじゃ」
「……知らなんだ。ユニークとは文字通りそういう意味じゃったのか……天はあの子を見放したか。」
マリーのユニークすぎるユニークスキルは村人をすっかり黙らせてしまった。老い先の短い彼らはマリーの将来をいつも心配していた。廃村になるだろうこの村を捨てマリーには1人街で生きることの出来るスキルを授かる事を全員が願っていた。
肩たたき トントントン
絶望と共に皆の頭にその単語がリフレインする。その夜はそのまま一言も話さずに解散になった。
「おばあちゃん聞いて聞いて!! 今日は皆がいつもより優しいの!! お菓子も高いやつだし、皆いっぱい撫でてくれたんだよ!!」
「そうかいそうかい、良かったねぇ。」
村人はマリーのユニークすぎる将来の指針を哀れみいつにも増して優しく接していた。マリーの祖母もそんな彼女の頭を撫でながらどうしたものかとつい苦しい顔をしてしまった。マリーはそれを見逃さず不安そうに尋ねる。
「おばあちゃん、どこか辛いの?大丈夫??」
「大丈夫だよ。ありがとうマリー。」
「……そうだ! 折角だから肩たたきしてあげるね!!」
「……そうだね。してもらおうかね」
マリーはわがままだが、誰より優しい少女だった。そんな少女はお祈りの時一つだけ神様に何でもないお願いをした。
そして、これは誰も知る由もない事だったがユニークスキルとは自分ではなく他者を願う気持ちが具現化した力である。欲を捨てた清廉で清らかな心が生み出す奇跡の能力。それがユニークスキルの正体だった。
(村のおじいちゃんとおばあちゃんが元気で長生き出来ますように。)
少女の純真な願いは奇跡の力を生み出す。ユニークスキル「肩たたき トントントン」の真価が今花開く。――
「トントントン!トントントン!」
「うんうん、とっても気持ちがいいよマリー。」
「トントントン!トントントン!」
「うんうん、……なんか凄い気持ちがいいよマリー。ちょっと怖いねぇ」
「トントントン!トントントン!」
「ちょっマリー、マリー!! 頼むからやめておくれ! なんか調子が良すぎて恐ろしいよ!!」
――10分後
小さく肩から煙をあげる祖母を見ながらマリーは思った。おばあちゃんが大きくなったと。しかしそれは正しくない。正確には年老いた肉体が若返り、曲がった腰が伸びて、弱々しかった膝が全身をがっちりと支えているからだった。それはおばあちゃんの全盛期の肉体。そんな大きなおばちゃんに不安を感じたマリーは畑のおじいちゃんを呼びに行った。
「おじいちゃん!!」
「どうしたんだい?マリーや。」
「おばあちゃんが煙を出して大きくなったの!!」
「ほっほっほっ、マリーは面白いねぇ。」
「本当に!! ……あっほら、おばあちゃん来たよ。」
「うん? ……誰じゃ!?あの煙をあげた巨大な原始人は!?」
マリーのおばあちゃんは若い頃180cmある身長のモデル様な美女だった。そして現在おばあちゃんはマリーの肩たたきによって30代の肉体を取り戻していた。元の服のサイズが現在の体格に合っていないため腰蓑と胸当ての様になっている。
「……もしやおばばに神仏が宿ったのか。見知らぬ神よ、どうかマリーをお救い下さいませ。この子をどうか幸せにしてあげて下さい。」
「おじいちゃん、私ですよ。おばあちゃんです。」
「……ふっやはり神とはユニークな方なのですね。マリーのスキルから予想はしていましたが。こんな爺をからかうのはお辞め下さい神様。」
おばあちゃんが神格化して覚醒した思っているおじいちゃんを1時間かけて説得したマリーとおばあちゃんは今後について相談を始めた。おじいちゃんは現実に疲れて倒れている。
「マリーはどうしたいんだい? マリーが肩たたきすれば皆おばあちゃんみたいになるよ。」
「肩たたきしたーい!! 大きくてちょっと怖いけど皆元気がいいもん!!」
「そうだね。マリーはそういうだろうと思ったよ。みんなを集めようか。その前に倒れてるおじいちゃんにも肩たたきしてくれるかい?」
「うん!!わかったー!!」
マリーが家で寝ているおじいちゃんに忍び寄ると手をニギニギしながら楽しそうに肩を見据える。
「よーし!! トントントン! トントントン!」
「うっ……マリーかい? 寝ているから肩たたきはまた今度頼むよ。」
「トントントン! トントントン!」
「マリー、聞こえてないのかい?……えっ肩たたき?? まさかマリー、おじいちゃんを原始人にする気かい!?」
「トントントン! トントントン!」
「くっダメじゃ、力が湧き上がって来る!! ぐおおおお!!」
――10分後
突如、平和だった村にマリーを人質にした2体の原始人が現れ、村人を広場に集めた。村人達はこの世の終わりを悟り、静かに最期の瞬間待っている。そんな彼らにマリーは自分のスキルの説明をしだした。半信半疑の彼らだったが業を煮やしたマリーの一言で状況が一変する。
「もおー、……どうせ皆に肩たたきするからいいか!! とりあえずこっちから順番にしていくよー!!」
「マリー?ちょっと落ち着いておくれ。」
「いくよー!! トントントン! トントントン!」
「マ、マリー! 皆止めておくれよ!!」
「……誰かが最初に犠牲ならなくてはならん。許すんじゃ」
「トントントン! トントントン!」
「裏切ったなくそジジイ!! 覚えとけ!!」
「トントントン! トントントン!」
「か体が熱い! それに……軽くて全身に力みなぎる!!」
――1年後
ある盗賊団が辺境の廃村間近の村にやってきた。その村は老人しかいない寂れた村で潰れる前に金品を奪ってしまおうと考えての事だった。頭目の男は分厚い胸板にジャラジャラと品のないアクセサリーを付けた隻眼のノーマルスキル剣士。衛兵崩れのどうしようも無いクズだが、腕は確かだった。
「頭目。村は静かなもんです。噂と違って防壁がありますが明かりもついてません。」
「防壁? 少しきな臭いな。……しかし所詮は辺境の老人共だ。30人いる俺たちの敵じゃない。……お前ら!!皆殺しで構わない!!全てを奪い尽くすぞ!!」
「「うおおおおぉ!!」」
雪崩の様に村の門に盗賊達が近寄るとドカンという爆音と共に1人の盗賊が吹き飛び、地面を数回ゴム玉の様に跳ねてそのまま後ろの森に消えていった。
事態を理解出来ていない盗賊達が次々と爆音を響かせながら森に消えていく。頭目も撤退の指示すら出せないほど混乱していた。
(ありえない!!ここは辺境の老人の村のはずだ!!なのに、何故だ!? それに……あれは人間か!?)
砂煙をあげる防壁の近くに2mはある大男とそれに匹敵する大女を頭目だけは捉えていた。素早い最小限の動きで丸太をフルスイングしている2つの影は明らかに人間の動きを超越していた。
(ちっ……撤退するにしてもあの化け物だ。かなり隙がいるな。こうなったらアレしかない!!)
頭目はそばにいる幹部数名に声を掛け、虎の子の魔術士による無差別魔法爆撃の決行を指示した。防壁で戦闘している味方も道ずれにするが、魔術士もこの判断を誰も否定はしなかった。それほど皆が謎の化け物に恐怖を抱いていた。
魔術の使用によって術士の周辺が白く光始める。すると、戦闘していた盗賊達もそれに気が付いたのか慌て始めた。一方2匹の化け物は微動だにしない。いや、それは誤りであった。僅かに肩の辺りで金色の光が漏れている。
「トントントン! トントントン!」
可愛らしい声が戦場に響くと地鳴りのような力の波動が全ての人間の行動を阻害した。
「トントントン! トントントン!」
地鳴りは声がする度に大きく、そして心臓を抉りとる様な殺意をもって周囲に拡散する。
「トントントン! トントントン!」
そして、次の声を聞いた時、盗賊達の意識は無造作に刈り取られた。
暫くすると、2つの影が盗賊を1人、また1人と回収していく。小脇に収穫した野菜のように頭目だった男を抱えて大きな女の影が会話を始めた。
「おじいさん、もしかして最後の技は……。」
「そうじゃ、マリーと開発した新技の肩たたきで得た生命エネルギーを波動にして放つ、その名も"マリーの本気のトントントン、コレがおじいちゃんデストロイだ!"じゃ。わしとマリーの負担が大きいのが今後の課題じゃな。マリーは疲れて寝てしまった。」
「それはそれは、私もそろそろ新技を編み出さないとねぇ。あとマリーには一度技名について教えないといけないかもねぇ」
常人には理解不能の会話をしながらふたつの影は村へと消えていった。
――こんな噂がある。辺境にとある小さな村がある。そこには巨人と少女が住んでいて、悪人は誰も近寄ることが出来ないらしい。悪人は口々にいう。そこに行くと死の歌が聞こえると。
「トントントン! トントントン!」
耳に焼き付いた可愛らしい声が牢に繋がれた彼らを今も蝕み、眠れる夜を過ごしていると。
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