歴代最強と謳われる勇者パーティーが噂の即死する魔王城に着いたら魔王の娘ちゃんが案内してくれた!


 荒れ果てた荒野に異様な雰囲気を放つ古城が姿を現した。


「ここが即死する魔王城か……」

 白い鎧を身にまとった金髪碧眼の端正な顔の青年 勇者がそう呟いた。


「これでついに決着が着きますね。これもまた神の導き。」

 純白の聖衣をまとった銀髪で細い目の美少女 聖女が祈りながら口をつく。


「はあ、本当に長い道のりだったわね。さっさと終わらせましょ?」

 黒いローブを羽織った長い黒髪に切れ長の目をした美女 魔女が張り付いた髪を払いながらそう吐き捨てる。


「ヒャッハー!!やっと暴れられるぜぇ!!」

 逞しい肉体に袖のない赤い鎧をまとった鋭い眼光の赤髪モヒカンの大男 戦士が腕を回しながら声を張り上げる。


 彼らは勇者一行。この大陸の最果てにある入れば即死すると噂の魔王城に王様からの密命を受けて馳せ参じた魔王討伐の精鋭パーティーだ。数ヶ月の旅の末、遂に目的地にたどり着き独特の異彩を放つ古城をそれぞれが道中を思いながら見つめている。


勇者「みんな準備はいいか? ……よし、いざ魔王じょ――」

??「あっ来た! おーい!!」


 勇者がそんな皆の戦意を確認すると、猛々しく聖剣を城の方角に突き立て進軍の激を飛ばそうとしたがそれはある者の邪魔によって遮られた。

 頭に黒いヤギの角を生やした10歳くらいの魔人の少女が大声を出し手を振りながらこちらに駆けてきたからだった。全員が警戒のため武器に手を伸ばす。


魔娘「ワタシは魔王の娘だ! 気軽に娘ちゃんとよべ!!」


 娘ちゃんは勇者達の警戒など気にする事もなく、目の前に来ると小さな胸を張って偉そうにそう話し、何か催促する様に顎を小さく動かす。


勇者「え? あっぼくは勇者。後ろがパーティーの聖女と魔女と戦士だよ」

魔娘「やっぱりな!! よし、早速城を案内してやる! 着いてこい!!」

勇者「……えっと、君が――」

魔娘「君じゃなくて娘ちゃんだ!!」

勇者「……娘ちゃんが案内してくれるの?」

魔娘「はあ?他にいないだろ? お前大丈夫か??」


 勇者達が戸惑っていると娘ちゃんは強引に勇者の手を引いて歩き始めた。勇者は根が真面目で心優しい青年だったため、断れず娘ちゃんを追従する。パーティーメンバーも旅の最中何度も経験した勇者の悪癖に呆れながら敵意を感じない娘ちゃんを訝しげに見ながら仕方なく着いていった。


 ✱✱✱✱✱✱


 巨大な門の前に来ると娘ちゃんが胸を張って自慢げに話す。


魔娘「ここが正門だ!!踏んだらなんだかんだ即死する罠が1000個仕掛けられてるけど黒い石の場所を踏めば平気なんだ!!気をつけろよ!!」


聖女「1000個の罠とは恐ろしい!皆さん聖女である私の防御の祈りが届く範囲に!!」

戦士「ウヒャヒャヒャ!! 馬鹿馬鹿しいぜぇ! 俺は信じねえぞ! こんなの――」


 ――ドカーン


勇者「戦士ぃー!! 聖女、復活の祈りを頼む!!」

魔娘「なに即死してんだよ? もしかして黒色ってわかんないのか? これだよこれ! お前ら学校行ってないの??」


 黒焦げの戦士が復活するのを待って再び移動する。戦士が騒いでいたが実際罠が作動し、攻略法も正しかったため尚も娘ちゃんに勇者達はついて行く。


 ✱✱✱✱✱✱


魔娘「ここがエントランスだ!! 幻覚魔法で奥にだけ通路がある様に見えるけど、そっちは即死する爆発落とし穴なんだ! ここに隠し通路があるからこっちから行くぞ!!」


聖女「落とし穴とは恐ろしい! 皆さん私の気持ち落ちにくくなる祈りが届く範囲に!!」

戦士「ウヒャー!俺は絶対に信じねぇ!! こんなの――」


 ――ヒュー……ドカーン


勇者「戦士ぃー!! 聖女、復活の祈りを頼む!!」

魔娘「うわ、もしかしなくても戦士ってアレな人なのか?」


 ✱✱✱✱✱✱


魔娘「ここがクロークだ!! 荷物やコートは預けておけ!! 札と交換だから無くすなよ!! あと貴重品は自分で管理しろよ!! 無くなったら帰る時ショックで即死するぞ!!」

聖女「お金すら奪うとは恐ろしい! 皆さん私の一日金運アップの祈りが届く範囲に!!」

戦士「ヒャッハー!!くだらねぇ貴重品なんか預ける訳……俺の財布がねぇ!!」

魔娘「あーあ、落とし穴に落ちた時落としたんだろ。本当にアレだな。」

魔女「たしかにアレね。」

聖女「神は仰いました、戦士はアレです。」


 ✱✱✱✱✱✱


魔娘「ここがおトイレだ!! じゃあ、おトイレ休憩は10分だから行きたい奴は今のうちに行けよ!! 出る時は手を洗わないと罠が作動して即死するぞ!!」

聖女「手を洗わないとはなんと恐ろしい! 皆さん私の綺麗好きが好きになる祈りが届く範囲に!!」

魔女「いらないでしょそれ。ほら聖女行くよ」


 勇者と戦士もトイレに入り、用を足しながら会話する。話す戦士はいつになく真剣だった。


戦士「……なあ、勇者どう思うよ?」

勇者「なんだか分からないけど歓迎してくれてるみたいだね。罠にしても娘ちゃんの隙があり過ぎる。……何もかも王国の情報と全然違うよ。」

戦士「いや、俺は財布の事聞いたんだけど……まあいいや、なんかやる気なくなったし。んじゃ俺は先に出るわ。こんなの――」


 ――チュドドカーン


勇者「戦士ぃー!! 聖女、トイレ終わったら復活の祈りを頼む!!」

魔娘「またかよ。本当に即死するの好きだなコイツ。」


 ✱✱✱✱✱✱


魔娘「ここが食堂だ!! 注文したら番号札貰えよ? それがないと食べられないし、結果飢えて即死するぞ!!」

聖女「餓死とは恐ろしい! 皆さん私の小腹が膨れた気になる祈りの届く範囲に!!」

魔女「なにそれ、初めて聞いたんだけど。それより聖女、違うの頼んで半分こしよーよ。」

聖女「……では私はこの魔王城カレーにしますから、魔女はハンバーグにして合体させたハンバーグカレーを半分こにしましょう。」

魔女「なんか私のイメージした半分こと違う!!」

勇者「ほら、戦士の好きなフライドチキンもあるぞ!!」

戦士「……あっうん。」


 ✱✱✱✱✱✱


魔娘「ここが私の部屋だ!! って何勝手に入ろうとしてんだ変態!! 即死させるぞ!!」

戦士「あっ悪ぃ悪ぃ。財布あるかと思ってな。……でもこんなの――」


 ボコボコボコボコボカーン、シャラーン、ボフーン


聖女「はあはあ、女の子の部屋に無断で入ろうとするとは恐ろしい! 皆さん私の脳筋拒絶の祈りが届く範囲に!!」

魔女「はあはあ、さすが魔王城の罠ね。恐ろしい所だわ」

魔娘「はあはあ、聖女、魔女……そのありがとう。」

聖女&魔女「「いいのよ娘ちゃん」」

勇者「戦士は……あとにしよう。どうせ即死するし酷く落ち込んでたしな。明日復活させればいいや。」


 ✱✱✱✱✱✱


魔娘「ここが大浴場だ!! これは来客用の着替えだ! 掛け湯してから入らないと即死するって噂だぞ!!」


 勇者と戦士の死体は男風呂に、聖女と魔女と娘ちゃんは女風呂に向かった。勇者は戦士の死体にシャワーをかけながら、ふと女風呂から聞こえてくる声に耳を傾けた。


魔女「すごいお風呂ね!こんなの王国でも見た事ないわ。……えっ!? 娘ちゃん、体のそれなに??」

魔娘「うん? 人間には着いてないのか??魔族は女はコレで男はコレをこんな感じにした……あーお前らのそれを半分にして真っ青にしたアレが4つあるぞ!」

魔女「すごい、初めて見たわ!」

聖女「神の奇跡です。……触ってもいいですか??」

勇者「……僕は何も聞かなかった。もう上がろう。」


 ✱✱✱✱✱✱


魔娘「ここが来客用の部屋だ!! 勇者と即死してる変態脳筋野郎はあっちで、聖女と魔女とワタシはこっちな! 男子はこっちの部屋に入ったら社会的に即死だぞ!!」


 部屋に向かおうとすると娘ちゃんは動こうとしない。


魔娘「でもやっぱり即死してても変態脳筋野郎は怖いから自分の部屋に――」

聖女「娘ちゃん大丈夫です。私が編み出した最強の神聖級守護精霊の祈り、神域流転無限結界を使います。月に1回しか使えませんが神ですらこの結界は絶対に破壊出来ません。」

魔女「娘ちゃん私も禁じられた最強の術式、零式神羅万象阿修羅を使うわ。発動したら最後、精神生命体だろうと未来永劫即死し続けるわ。」

魔娘「いいのかそんな技使って?」

魔女「娘ちゃんにはお風呂で良い物を見せてもらったからね。出来ればお部屋でもっと見てみたいわ。」

聖女「はい、是非お部屋でじっくり奇跡を拝ませて下さい。」

魔娘「2人ともありがとう!!」

勇者「……もう疲れた休もう。」


 ✱✱✱✱✱✱


 部屋で暫く休んでいると娘ちゃんが迎えにきた。そして、荘厳な造りの大きな扉の前に案内される。勇者は戦士の死体を引き摺りながら魔王との戦いを予想し武器に手をかけた。


魔娘「ここが宴会場だ!! お前らは上座側だろ!? こっちだこっち!!下座なんかに座らせたらワタシが即死するぞ!! あと死体は臭いから廊下に置いといてくれ!!」


 死体を廊下に立て掛け、席に案内されるとそこには娘ちゃんより立派なヤギの角を生やした筋骨隆々の大男が小さな椅子に窮屈そうに座っていた。


??「勇者達、娘が世話になったな。昨晩から今回は自分が案内すると言ってきかないのだ。」

魔娘「それは言うなアホ親父!!」

勇者「親父……ということはあなたが魔王。私は王様からあなたが邪悪な存在だと言われて来ました。しかしこれは一体? それに今回とは?」

魔王「なるほどな、我々は人に対して特に何もしていないのだが、何故か定期的に勇者が来て困っているのだ。それに来客だからと案内すると皆が居着いて帰らないしな。」


 魔王の言葉に勇者が何やら考えていると娘ちゃんが袖を引っ張る。振り返ると屈託のない笑顔で娘ちゃんが話しかける。


魔娘「なあ勇者、これが私のお家だ!! 即死するほど凄かっただろ?」

勇者「うん……僕のパーティーは間違いなく今日跡形もなく即死したよ。逆にありがとう、何だかスッキリしたよ。」

魔娘「へへ、今日は泊まってけ!! 仕方なく明日は街を案内してやる!! 勝手に出歩いてお前らに即死されると困るからな!!」


 ✱✱✱✱✱✱


 ――王国の城にて


??「王様、また市街で全裸の男達による暴動が――」

王様「ええい、うるさい!! そんな事より宰相、歴代最強パーティーといわれる彼らがなぜ戻ってこない!? ……一体魔王とはどれほど強大な化け物なのだ。」

宰相「……その事ですが王様、実は魔王の娘を名乗る者から戦士の死体と手紙が送られてきました。また戦士は復活させた所、家に引きこもってしまいました。」

王様「なんだと!? とにかく、その手紙をはやく読み上げろ!!」

宰相「えーっと……これは……しかし――」

王様「なんだ!! はやくしろ!!」

宰相「……では、「戦士はアレなので即死した。こうなりたくないならアレな奴は二度と送ってくるな。あと学校を造って戦士みたいな奴を通わせてやれ。さもなければアレな奴が増えて国が即死するぞ。PS.戦士に財布を補償してやれ。勝手に即死するぞ。」です。」

王様「国が即死……だと……。なんと恐ろしい。……今すぐ学校を建てろ!!」


 こうして王国に平民が通える学校が出来た。結果、娘ちゃんのおかげで王国からアレな奴は減り理性なき暴動は沈静化した。あと戦士は王様から財布を貰い、出来たばかりの学校に通って紳士的な男に生まれ変わった。

 また学校で知り合った女性と8年のお付き合いと2年の同棲を経て結婚し今は女性の実家のお肉屋さんを継いでいる。なんでも即死する程美味いと評判の通称"即死コロッケ"が看板メニューらしい。そんな"即死コロッケ"を複雑な顔で戦士だった店主は日夜作り続けているそうだ。

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