第3話 魔女(?)は願う ※悠斗視点

 俺が引き取った子たちは青春真っただ中。

 つい先日「お付き合い始めました」な報告があって、甥の彬人の長い片思いを知っている身としては“おめでとう案件”だった。


「あの夜は実に酒が美味かった」

「はいはい、おめでとう」


 そう言って野間が俺の前にエナジードリンクを置く。

 「さあ、飲め」というその表情から、厄介な問題が浮かび上がったことが分かる。


「今日もテッペンを越えるのか」

「お、あの二人を心配しているのか?二人が付き合うようになって初めてか、帰宅が深夜になるのは。まあ、花さんもいてくれるから大丈夫じゃないか?」

「んー、その点についてはあまり心配していないよ。花さんがいなくても、芽衣が怖がっている限り、彬人がそれを自分に許さない。そして芽衣はこれに関してはとても慎重だ」


 『同居人』という曖昧な状況に怯えていた芽衣は彬人と『恋人』になることに長い間躊躇していた。

 これについては『養子』にしなかった俺にも責があるが、中学生で結婚を視野にいれていた初恋をしている甥の味方をしてしまったのだが、万が一にでも芽衣が彬人の想いを受けいれないと選択したときは俺の養子にすると彬人にも言っておいた。


 うん、彬人、頑張ったな。


「二人が心配かないなら、何がイヤなんだ?」

「もちろん厄介な仕事と長時間労働……億劫でしかない、帰りたい」

「頑張れ、保護者!」

「最近の彬人はめちゃくちゃ食うから頑張るかー」

「この前の手伝いのお礼にラーメンを奢ったんだけど、うちの玲央と一緒に、あいつら二人で六杯食ったよ。空のどんぶりが重なった写真がコレ」


 どんぶりを三つ重ね、同じようにどんぶりを三つ重ねた玲央と笑って写真に写る彬人。

 

 母親からネグレクトを受けていた彬人。

 ネグレクトを受けた子どもは愛情や世話を受ける経験が少ないため、他人との関係をうまく構築できない傾向がある。


 彬人にその傾向が見られないのは、芽衣の存在があるからだと思っている。

 そういう意味では、芽衣のお母さんが亡くなったときに彼女を引き取る選択には俺の思惑が少なからずあったのだ。


 弟の子である彬人を引き取ったときも朝比奈の親族は騒いだが、芽衣を引き取ったときの奴らの騒ぎは彬人のときの比ではなかった。

 俺がいかがわしい目的で引き取るのでは、と邪推するものもいた。


 芽衣を初めて見たときキレイな目をした子だと思った。

 彬人を連れた俺を引き止めたとき、最初は友だちを連れて行くことを責められると思ったが、あの子が気にしたのは彬人が転校するかどうかだけだった。


 なぜそんなことを聞いたのか。

 あとから聞けば、彬人は転校したくなさそうだから、と。


 あのとき彬人は芽衣に依存していた。

 依存……という言葉が正確かどうかはいまでも分からないが、芽衣と芽衣のお母さんが彬人が知る「よい人」だった。


 転校したくない理由が自分だとは微塵も思っていなかったようだが、あのときは誰もがただあの最低な母親と離すための手段だけを模索していた。

 運よく俺の家が同じ学区内にあったが、そうでなければ俺は「仕方がない」と彬人に押しつけた可能性があった。


 命を守るために必要な措置だったことは間違いないが、命を守ってもその先に幸福がなければ仕方がないのだと、俺は彬人と芽衣に教えられた。



「余計なお世話かもしれないが、彬人と芽衣ちゃんが落ち着いたところでお前も自分の事情を言っておいたほうがいいと思うぞ」

「俺が無性愛者だということ?」


 俺の性的嗜好は男性でも女性でもない。

 「男性・女性のどちらでもいい」というと両性愛者だと思われがちだが、無性愛者のそれは何となく違う。

 性的嗜好は違う者同士は決して分かり合えないから「何となく」でしかないのだが。


「そう。性に関わる発言は問題になりやすいし、結婚とか子どもとか社会の中に性の問題がある以上は話しておいたほうが今後のトラブルを防げると思う。これはあくまでも俺の意見だがな。それに、それを聞いて態度を変える二人じゃないと思うぞ」


 野間の言っていることは正しいが、難しい。

 恋愛はできるけれど性欲はわかないとか、性行為はできるけれど進んでしたいとは思わないとか、何をどう説明しても言葉が上滑りしている気がする。


「二人とも俺が同性愛者で、それを隠すために女性とも付き合っていると思っているようなんだよな」

「そのあたりの線引きは難しいし、二人の年齢や経験からみてそこが妥当な着地点だろうな」


「そういうわけで、芽衣か彬人が俺に恋愛感情を持ったら説明しようと思ってる」

「どっちもなさそうだけどな」

「言えてる」


 

 

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王子様になった幼馴染、私も魔女(?)に拾われます 酔夫人 @suifujin

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