もう少しだけ待っていて /芽衣 15歳
「男子って本当に最低!」
怒れる
「男子ってバカしかいないの? 集団でチラチラ見てきてヒソヒソと『おっぱいデケー』って!」
この時期の男子と女子は分かり合えないという悠斗さんの言葉を痛感する。
「話しているとき目線が合わないんだよね」
「それっ! 話をするときは目を見て話しましょう!」
茉莉が指をピッと立てる。
「いいよねー、芽衣は
「彬のこと?」
「うわっ、ナチュラルに騎士って認めた」
「悠斗さんや彬に守られている自覚はあるもん」
ふうっと茉莉が溜め息を吐く。
「流石、朝比奈君。他の馬鹿共とは違うよね」
「夢を壊すけど、彬も普通に興味はある感じだよ。目は見て話さないみたいな露骨さはないから分からないけれど。ね、彬?」
茉莉が驚いたように後ろを見る。階段を下りてきた彬は「勿論」と笑う。凄いな、イケメン補正なのかお胸の話が爽やかに聞こえる。
「普通にあるよ。別に特殊じゃないし、僕」
「ほらね」
「……オープンだね」
茉莉は驚きと呆れの混じった顔。
確かにオープンかもしれないけれどこういうのって変に隠すと余計に興味を煽っておかしな雰囲気にならない?
彬がそういうことに興味を持つのと一緒で私だってそういうことに興味はある。思春期はお互い様。私たちは子どもだけれど純粋に子どもとは言えない年頃。好奇心で大人の真似もできてしまう。
でも大人じゃないから受け入れられないなら事前におかしな雰囲気にならないように対策をする。
悠斗さんみたいに異性(同性)に誘い掛けられて「ご冗談を」と笑って往なして
彬も対策をしている。いや、彬のほうが対策をしている感じかな。
彬は線を私に見せる。自分は男の子で私は女の子だよって。線の位置をしっかり私に理解させて、うっかりでもなんでも絶対に踏み込むことのないように私のほうも気を付けてという。
その線に気づかない人間にはなりたくない、年相応になるためには必要なことだと思うから。そして出来ることならその線に気づかない狡さも持ちたくない。
「どこに行くの?」
「玲央たちとコートでバスケするんだ。芽衣は?」
「これから中庭で女子トーク」
実のある会話かと聞かれると悩むけれど、女の子たちとテーマなく話すのは楽しい。だらだら話して最後に「何でこんな話をしていたんだっけ?」って顔を見合わせることもあるのが楽しい。
「ふーん、日焼けに気をつけてね」
「ん。あ、ちょっと待って」
はえ?
なんで近づいてくるの……何で顎に触っ!?
「日焼け止めが残ってる。塗り方がザツ、まだらになっても知らないぞ」
「え? あ、ああ……日焼け止め」
……ビックリした。
「ふーん」
ん?
「日焼け止め、彬も使う?」
「……期待した僕が馬鹿だった」
「期待? あ、ごめん、これウォータープルーフじゃない」
「はいはい。それでいいから使わせて」
差し出された手の甲にニュッと出す。
「雑っ、多くないか?」
「余ったら野間君の顔に塗ってあげて」
「それ、腐女子が喜ぶやつ」
「そういう需要に応えるのもイケメンの使命だって悠斗さんが言っていたじゃない」
「ごめん、先に中庭に行くわ」
「茉莉?」
「……こりゃ分かってないわ。朝比奈君、説明宜しく」
?
「どうしたんだろう、茉莉」
「僕たちが許容できる距離と佐柄の許容できる距離の違いだろう」
「成程……私たちって近過ぎる?」
「僕は別に過ぎるとは思わないけれど、芽衣が気になるなら言ってね。言わなくても分かるは無しだ」
「分かった。因みに嫌じゃないよ、ちょっと驚いたけれど」
そう言って顎を指さす。
「驚くのはしょうがないかな。嫌じゃないなら頑張って慣れて」
いつからだろう……彬はこういって私を試すようになった。
そして何のために試しているかは……分かる。
「さっきのは試したのね」
「そういうこと。言われて気づくってことはまだまだってことか」
もちろんここで私のことが好きか聞くことはできる。でもそれは彬の線を飛び越えることで、「飛び越えたら、その先は分かっているよな」という彬を受け入れる自信はまだまだない。
怖い……もしお母さんが生きていたら、こういうことを相談できたのかな?
――― 付き合って駄目ならそれまで。先のことは誰にも分からないわよ、レッツ☆トライ。
イメージの中でお母さんがウインクする……分からないことを悩むタイプじゃなかったからなあ。
「芽衣、いろいろ難しく考えているでしょ」
「よく分かったね」
「そりゃあその原因の半分は僕だから」
半分、そうだよね。
「芽衣が嫌だということは絶対にしないつもりだけれど、お互いに気を付けよう」
「うん」
大事にされていると思う。みんな「朝比奈君もさっさと告白すればいいのに」と言うけれどいま告白されても自分の答えに自信がない。
彬が好きと言う気持ちは純然たる好意か、それとも生活の安定を失うことへの恐怖心か。彬の好意に応えて安定を得たいという狡さが「好き」と思い込ませているのではないか。
いまの私の生活の安定は朝比奈家にいるから得られている。
「駄目なら」になったらどうしようという恐怖心が拭えない。
「芽衣、また難しい顔しているよ。まあ、仕方がないか。それが芽衣だもんね」
「ご迷惑おかけします」
「いえいえ、ゆっくり考えてください。僕は好きに適当にやっているから」
適当レベルで『あれ』かあ。
「もう少し手加減してほしいな」
「それは無理だな」
「無理かあ」
「芽衣はモテるから僕も気が気じゃないんだよね」
「またそう言う。メンタル的に壁ドンされている気分だよお」
「そうなの? 追い詰めないのって難しいねー」
頑張る気ないでしょう、それ。
「まあまあ、慣れればこれが日常になるよ。大丈夫、大丈夫」
「軽っ」
そういう私に笑う彬の顔はいつもより大人っぽくて、ちょっと怖い。
「ごめん」
その謝罪は怖らせたことへだろう。
その証拠に彬の笑顔は今までのものと変わらないものになっていた。
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