第33話:始まりの物語が秘めた深淵

 ハルキから受け取ったレベル17のパスワードを入力して竜王に挑みに行ったが、2回連続でダースドラゴンの前に散る。こんなに強いくせにラリホーで眠りハメは反則である。


 だいたいラリホー使いといえば、メイジキメラにしても悪魔の騎士にしてもマホトーンによる呪文封じに弱いという特徴があったのだが、ダースドラゴンは高確率で無効化してくるから本当にたちが悪い。


 友達と一緒に遊んでいると、死んでやり直しになっても再挑戦する気力がわいてくるのだが、一人で遊んでいるときに理不尽な負け方をすると感情の行き所がない。どちらにせよ、全ての呪文を覚えていないということは最終決戦にはまだ早いということなのだろうから、レベルを上げることにする。


 *


「やっとレベル18か……」


 経験値稼ぎはメルキド周辺でやろうと思ったのだが、ドムドーラでも同じ敵が出てくることに気づく。さらに悪魔の騎士も復活して何度でも戦えることに気づいたので、稼ぎの効率がいくらか上昇した。レベルが18になって、力とHPが10ポイント以上増えたのも心強く、もしかしたら竜王に勝てるかも知れない。しかし時間がもう遅いので今日はここまで。ハルキにもパスワードの写真を送っておく。


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4月30日(日)


 今日はハルキの家で遊んだ。ソラとソウタも来て、4人で話しながらプレイするのは楽しかった。


 みかがみの盾を買い、ロトの鎧と印を手に入れて、ローラ姫を助け出した。


 太陽の石と雨雲の杖を使って、虹のしずくを作り、竜王の城へ。ロトの剣を手に入れた。たぶんこれで最強装備かな? ロトの盾は存在しない?


 竜王にはまだ勝てない、というか途中の敵が強くてなかなかたどり着けない。レベル18で、まだベギラマを覚えていないから、もうちょっとレベルを上げたほうがいいかな。


ろきそへだ ずよすもらりろ

するもぢそ りはあ


メモ:竜王の城の宝物庫には薬草が2個、来るたびに取れる

メモ:ドムドーラの悪魔の騎士は何度でも戦える


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「これでよし、と」


 今日の分の日記を書き上げる。雨雲の杖と太陽の石についての考察も書こうと思ったが、恥ずかしかったのでやめておいた。


 ところで、虹のしずくで作った橋はパスワードに記録されないようで、ゲームを始めるたびにアイテムを使って橋をかける必要がある。海が虹色になるという派手な演出を何度でも見られるというのはちょっと面白い。竜王の城の隠し階段も同じく、「パスワードには残らないが電源を切るまでは維持される」という要素である。


 つまり、全てのイベントを終えた状態のパスワードからスタートしても、ちょっとした謎解きは楽しめるようになっているというわけだ。これは自分で最初から最後まで遊ぶだけでなく、友達同士で「つまみ食い」的にプレイすることも想定しているのかなと思うのであった。


 ***


「おはよう」

「あ、おはよ」


 月曜日、学校の教室で日々木さんと2日ぶりに再会する。ちょうど来週の月曜、連休明けの8日から中間テストが始まる。そのため今日からはテスト勉強期間となって部活は休みになるが、いつも通りの時間に家を出たのだ。教室にはまだ、他に誰もいない。


 僕が交換日記のページ(この土日は彼女が日記本体を持っていたので、ルーズリーフのページに書いていた)を手渡すと、さっそく読み始めた。


「結構、進んだね」

「うん、そろそろクリアできるかも。そういえば日々木さんもやってたの?」

「ううん、里帰りしてたからファミコンはやらなかったの。それに、タケルさんが進めているなら無駄になっちゃうし」


 里帰り。うちも連休中に行くことになっている。特に、母の実家には1年以上帰っていない。友達にも、連休を使って久々に帰省や旅行に行くという人が多いようだ。


「そっか、今日はどうする?」

「私もドラクエやってみようかな。目標は今日中にクリアすること!」

「つまり、このパスワードから始めるってことか」


 FF1の時のように僕の家で一緒に遊びたかったのだが、一応テスト期間なので誘うのは自重しておこう。


「うん。イベントとか飛ばしちゃうのは残念だけど、ストーリー自体は知ってるから」


 聞けば、以前に友達の家でスーパーファミコンのリメイク版を一緒に遊んでいたという話だ。リメイクでは敵から得られる経験値の量が大幅に増えているようで、ファミコン版はなかなかレベルが上がらずに苦戦したという。


 *


「それにしても、王女の愛を取る前にロトのしるしを見つけたの?」

「うん、縦の位置さえわかれば、あとは横方向に調べていけばいいわけだから。友達と一緒に数えたから間違えなかったし」

「そんなやり方があるんだ……」


 彼女は感心したような、それでいて呆れたような顔をする。


「むしろ、王女の愛であんなにはっきり位置を教えてくれるなんて思わなかった。数えようと思えば簡単に数えられるんだから」

「でもそういう自由度も面白いよね。王女を助けなくてもクリアできるってことだから」


 ここで僕は気づいた。竜王の城に行くためには3つのアイテムを揃える必要があるが、王女は助ける必要はない。ロトのしるしの位置を調べるために王女の愛があると便利なので、イベントとしては連動している形になるが、必須というわけではないのだ。


「すごいな、ドラクエ。単純なようでいて、いろんな遊び方ができるようになっているんだ」


 ドラゴンクエスト。ファミコンで発売された純粋な(アクション要素のない)RPGとしては初のタイトルだったとハルキが教えてくれた。なぜこのタイトルが40年近く経った現在でも生き残っているのか、その理由がうっすらと見えてきた気がする。


 今日はせめてエンディングまでたどり着いて、物語の結末だけでも見てみたい。

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