第16話:親友と行く氷の洞窟地獄変
「また来週、かぁ」
日々木さんが去り際に残した言葉を噛み締めていた。ちゃんと約束したわけではないが、来週も10時にここに来れば彼女に会えるだろう。
*
僕は上機嫌で家に帰った。サンドイッチを3切れほど食べた後だったが、昼食は普通に平らげてしまった。最近、食欲が強くなった気がする。いよいよ成長期が来たのだろうか。
「午後からお前んち行っていい?」
午後は何しようかと思っていたところでソウタからメッセージが来た。一応、母に聞いて許可をとった上でOKのスタンプを送る。
*
「お邪魔しまーっす!」
「おう、ソウタ君か。また大きくなったか?」
「へへっ」
確か父とソウタが前に会ったのは小学校の卒業式の日だったと思う。あれから1ヶ月ほど経過し、身長は3センチ伸びたと言っていた。そういえば僕もしばらくソウタの家には行っていない。今度は僕が「大きくなったね」と言われる番かな。
*
「お、これがファミコンってやつか。俺が知ってるやつとちょっと違うかも」
「ニューファミコンって言うらしいよ」
「へえ」
そう言いながらソファに転がって、カバンからニンテンドーSwitchを取り出した。
「そういやSwitchでもファミコンソフトって遊べたっけ?」
「ああ、遊べるけどサブスクが必要だからな。前は兄貴が入れてたんだけど……お、いきなり起動するのか!」
僕がテレビを付けてファミコンの電源を入れると、あっという間にタイトルが出てきてゲーム本編が始まるのに少し驚いた様子。
「今日はこの洞窟クリアするぞ」
朝のうちに少しプレイした。マリリスを倒し、クレセントレイクで情報を集めると北の洞窟に何かがあるという。大したダンジョンでもないだろうと、宿屋に泊まったら補充もそこそこに探索に出て、この洞窟を見つけたところでセーブして中断したのだ。
*
「おい! いきなり俺が石になってるじゃん!」
立て続けにコカトリスに遭遇し、とうとう逃げ切れずにモンクの"そうた"が石化を食らってしまった。
「治せんのかよ」
「治せるけど、リセットしたほうが早いかも」
リセットボタンに手を伸ばし、仕切り直しだ。
「今度はマヒったぞ、これはどうなんだ?」
「戦闘が終われば治るよ……よし、逃げられた」
スペクターという幽霊系モンスターに麻痺させられたが、普通に逃げられるようだ。
*
「ピスコ……ディーモン? デーモンじゃねえのか?」
「なんだろな。ちなみにこいつからは逃げられない」
*
「こいつもディーモンの色違いだけど、逃げられないやつ?」
「マインドフレイア、初めて見るなあ。念のため戦うか。サンダラ、っと」
幸い、雷は通るようだ。打撃と組み合わせてあっさり倒す。
*
「ダークウィザード、前に出てきたアストスってボスの色違いだ」
「量産型ってやつ?」
「なにそれ。デス使ってきたらやだなぁ……って、いきなりか!」
「ハルキが死んだ! 生き返るのか?」
「今は無理だなぁ、とにかく全滅覚悟で進めるだけ進んでみるしかない」
なお、ダークウィザードは宝箱の前に出てきた。一か八かでなんとか逃げて箱を開けてみたら、中身はただの「服」というオチ。反対側のフレームソードは強力な武器だが、アイスブランドよりは弱いようだ。赤魔"そら"に持たせる。
「行き止まりってことは、穴に落ちるしか無いのか」
「落ちたらいきなりゾンビ軍団かぁ。ここも固定っぽいなぁ」
ここは、今後のことを考えて逃げられるかどうかを試してみる。どうやら普通に逃げられるようだ。
*
「ホワイトドラゴン! さすがに逃げられないんじゃね?」
「どうだろ。……よし、逃げられた! 宝箱はアイスアーマーだな」
炎の盾と一緒に装備させる。これで火にも氷にも強くなったかな?
*
「なるほど、ここの落とし穴でさっきのところに戻るわけか」
小部屋の穴に落ちると、穴に囲まれて開けられなかった宝箱の目の前に出てきた。
「これ、ボスいるよな絶対」
「そりゃね」
焦らずにポーションで回復させる。ろくに補充してなかったので、ここで使い果たしてしまう。
「ビホルダーだって。こいつ絶対即死とか使うやつだろ。なんか対策ないのか?」
「ないね。先手必勝で倒すしか無い」
さすがに、色違いでもない初見のボスっぽい相手から逃げようとは思わない。ヘイストかサンダラか迷ったが、強化したキャラが死ぬと無駄になるので、1ダメージでも与えられるほうを優先した。
「ソラがやられた! くそ、仇討ちだ、喰らえ!」
キルを食らって"そら"が即死すると、ソウタが自らの分身である"そうた"の攻撃に合わせて、力のこもった実況をする。果たして、その4回ヒットクリティカルでビホルダーは倒れた。
「浮遊石、か。なんだろな、ラピュタみたいなの出てくる?」
宝箱から出てきたアイテムを見てソウタが言う。
「さあ。まだ使い道まではわかんないからなぁ」
「そういやワープとかはねえの?」
「……みたいだなぁ」
ワープゾーンは見当たらない。再び穴に落ちて先ほどの道を辿って歩いて帰らなければならない。例の固定敵を含めて、厄介なマヒ軍団に何度も襲われたが、奇跡的に"たける"は一度も麻痺することなく、"そうた"とともにダンジョンを脱出した。
「よっしゃぁ!!」
なぜか僕よりも喜ぶソウタとハイタッチを交わす。
「町にもワープできねえの?」
「まあね。セーブはできるから、ここまで来れば安全だけど」
僕はすかさず寝袋を使ってセーブする。野宿系のアイテムはまだ10個以上あるので、なんとか帰れるだろう。死人が出て経験値に差がついてしまったが、"たける"と"そうた"はレベルは17、"はるき"と"そら"はレベル16になった。
***
注:
氷の洞窟のエンカウントについて
今回もエンカウントテーブルを忠実に再現してあるので、実際にプレイして比べてみると面白いかも知れない。パターンは電源OFF→ONで初期化されるが、リセットではそのままというのがポイントである。
なお、今回も(最初のリセットを除けば)一発クリアに成功した。逃走不可のアイスギガースには一度も出会わなかった。逃げられないことに気づきにくいので、初心者になりきったプレイで出会ってしまった場合は対処に迷うところであった。
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『ビホルダー』
ファミコン版「1・2」では、グラフィックが差し替えられたが名前はビホルダーのまま。各種リメイクやVC版では「イビルアイ」に変更。
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モンスターの行動パターンについて
ダークウィザードやビホルダー(イビルアイ)の行動ローテーションはリメイク版とは異なっている点に注意。
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「奇跡的に"たける"は一度も麻痺することなく」
戦士"たける"がアイスアーマーを装備して炎耐性を得たことで、ファミコン版特有のバグにより「炎属性を弱点とするモンスター(アンデッド等)の物理攻撃による追加効果」を受けにくくなっている(モンスターの攻撃属性が弱点属性で上書きされてしまう)。結果として擬似的な麻痺耐性を獲得しているので、実際は奇跡ではない。
なお、この状況は実際に筆者自身がテストプレイした状況そのままである。作中のタケルは耐性の挙動など知るよしもないのだが、必死で手に入れた強力な防具を装備しない手はないだろう。結果的にバグのおかげで「危機的状況からの奇跡的な脱出」という、開発者の手を離れた演出が生まれているわけであり、これは個人的にファミコン版FF1の大きな魅力の一つだと思っている。
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