第4話 初陣

 押された俺は慌てて体勢を立て直してネコ、いや、猫型バグルスに向き合う。コネクトした時に腰に装備されたあるものを鞘から抜いた。改めて自分の武器に目を通すが,予想通り剣だった。剣と言っても一概に種類が多いが片手剣、そして見た目は刀に近く、峰の部分は切れそうにない。簡単に言うとブレードタイプだ。武器の形がほぼ同じなのはリンカーが変わらないからか、電霊が変わっていないかのどちらかが理由だろう。


 とは言え相手の数は昨日より多い4体だ。移動を数時間練習しただけで上手くいくかは不安だが、後ろの押し付け人はやる気が無さそうなので俺がやるしかなかった。

「はああっ!」

今日は昨日とは違って俺の方から先制攻撃を仕掛けた。そのまま勢いよく1体目に切りを入れるとそのまま倒し切った。あれ?俺が思ってるより強化されてるのか?そのまま流れるように2体目にいく。当たり前と言われればそうだが、剣術に対してなんの知識もないので、ゲームとかで見たことがあるものや自分でありがちだと思うものを想像して使っているだけだが、それなりに何とかなって欲しいのが現状だ。俺が剣を上から振るうと見事に猫の手に止められた。え?白刃取り⁉そのまま3体目が俺に向かってひっかいた。

「痛っ!ってあれ?」

言ってから言うのもおかしなことだが昨日より痛くない。

(コネクトすると私と分割されるようだ。しかも、そもそもの防御力も上がっているようだ)

なるほどね。どうりで昨日より戦いやすいわけだ。正直なところ、猫型は犬型より力は強くなかったので反撃するのにそこまで力は使わなかった。すぐに剣を背後に向け、襲ってきたやつを切る。流石に1発とはいかなかったが、それなりに効いているように見えた。

「もっと早くできないの~!そんなんじゃ2ヵ所で同時にゲートが出た時に対処しきれないよ!」

そこまで口を挟むのなら戦って欲しいが気にしてる暇はなかった。昨日より戦いやすくなったと言っても気を抜くと敵の攻撃をいなすのに気が裂けずに普通に負けそうだ。

(そうだ!なんか魔法みたいなのってある?昨日の間時まどきさんの火炎弾みたいなやつ!)

(そうだな、どうやって出すかと言われると我々は普通に出来るので教えるのが難しいが、イメージすればできると私は信じているぞ)

昨日最初にスミャホルの見た時のイメージが水だったので水をイメージしてみる。すると左手に水の球が現れた。

「はっ!」

取り敢えずぶつけようとしたが、敵に当たる前に形が崩れ、地面に落ちてしまった。形が維持できない。くそっ、なかなか上手くいかない。そんなことを気にしていると左右から飛び掛かってくる。さっき切った方は...

「右!」

かわしながら切ったので上手く当たっているか不安だったが、幸いしっかり命中していたようだ。残り2体。

「やっぱり筋はいいよね~。昨日も思ったけど」

褒められた。にしてもやっぱり戦闘慣れしていないとキツイな...


 相手も本気になったのか常に襲い掛かってくる。猫2体の攻撃を交互にいなしたり、かわしたりしながら隙を伺うくらいしか今の俺ができることはなかった。相手の目が光り凄い勢いでこちらに向かってくる。

「つっ!」

ガードの姿勢が崩された。

(今こそ魔法だ夜斗よると!)

そうか、確かにこれくらい近距離なら!さっきと同じ要領で水球を作り、襲ってきた猫にぶつける。意外と威力が高かったらしく、一撃で倒すことができた。そのまま回って最後の1体も一刀両断した。どうやら無事に勝てたようだ。俺は後ろの押し付け人に顔を合わせ、口を開く。

「先輩~!自分の、残り体力とかって、分からないんですか~」

「先輩⁉なんでそうなるの⁉」

目を丸くして驚かれる。

「ごめん、半分くらい冗談だから...だって、さっき新人君って」

「確かに言ったけど、まさか揶揄いに冗談で返されるなんて...」

どうやら呆れてるっぽい。困ったのはこっちの方なんだけど。丸投げされたし。少し疲れて息も少し切れてるし。

「でも、これで大体のポテンシャルは把握できたから大丈夫。あと、今日はもうイジらないから安心して」

「そうしてくれるとありがたい限りです...」

正直いってイジられ慣れてるがバカと、真面目な人だとされた側の心労が違うので少しは考えて欲しい。

「あと、残りは私が片付けるから」

へ?残り?そう思った直後、俺の後ろに火炎弾が飛んで行った。どうやら援軍がきていたらしい。間時さんはあっという間に俺を通り越すと5体ほど残っていた猫の軍勢をものの数秒で片付けた。やっぱり中級って強くないのか?

「中級ってやっぱり弱いの?」

「種類によるかな。蝙蝠とか猫とかだとそこまで強くないし、犬とか蛇だと現実にも危険なやついるから少し強め。牛とか熊はもろ強いってところかな。多分今の上空うえそら君だと1体に5分はかかりそう」

色々あるんだなぁ。そう思っていると、奇妙な音とともに空間の切れ目が消失した。

「ゲートも無事に消えたね。説明してなかったと思うけど、あのバグルスが出てくる空間の裂け目が。今みたいにバグルスが出るだけ出てきて、あっちの世界にいるやつが全部出てきてそれを倒せば自然消滅するの。今みたいに増援が出てくる連戦式みたいになる事もあれば、最初から全員でてきてそいつらを倒すだけの時もある。一応そのゲートがリンカーの力関係と比べて下なら、エネルギーをぶつけて強制的に閉じることもできる。魔力消費がデカいからあまりおすすめしないけど。あっち側に残ってたらもっかい開けられちゃう可能性もあるし。どのみち全員倒せば勝手に閉じてくれるし」

「なるほど。分かったと思う」

「OKOK、これで基本は全部教えられたかな?時間もちょうど良いし」

スマホを見ると16時だった。


 解散にはちょうど良い時間になった事もあり、2人で間時さんの家に戻った。

「ふう、お疲れ~」

「いや、間時さん大して何もしてないでしょ」

「教えるのも割と大変だったんだよ?」

ツッコミを入れるとそれっぽい理屈で返されてしまった。

「そうだ。最後に1つお願いがあるんだけど」

「何?明日も教えるから来いとか?」

「いや、上空君が午前中に来てくれたお陰でそれはなくなったよ。ただ、別に電霊云々は関係なくて、純粋に、私の友達になってくれないかなって...まだ始まって1ヶ月だし...」

意外だった。俺の事をイジってくると思ってたけどそこまで心を開いてたなんて。友達がいないのは俺にも言えてる事だった。確かに友達と呼べるやつはあのバカくらいだ。

「良いよ。同じクラスだから会う機会も多いだろうし。あ、でも俺で大丈夫なの?言うのもなんだけど、間時さん凄い美少女扱いされてるから気安く俺に話しかけてるとあらぬ噂が...」

「別に上空君が良いなら問題ないよ。噂がたったらその時考えるから。じゃ、決定って事で」

俺と間時さんは連絡先を交換した。まあ、相談したい事ができる可能性もあったから、全然悪いと思わなかった。

「じゃ、俺はこれで」

「待って、リンカーネームは決めておいた方がいいわ」

返ろうとした瞬間、コミュンさんがそんなことを言った。

「リンカーネームって何?」

「文字通りリンカーで活動するときのニックネーム。本名使うわけにもいかないでしょ?」

間時さんが説明してくれた。

「小金ったら、自分で考えておきながら言わないんだから」

「ちょっと⁉何言ってるの⁉」

間時さんが焦ってコミュンさんを抑え込もうとしているが、コミュンさんはのらりくらりとそれをかわしながら笑っている。間時さんが立場が下なのは初めて見た。

「じゃあ聞くけど間時さんのあの姿はなんていうの?」

「ジ・イヴニング」

「それってどっちが考えたの?」

「私」

「なんで夕方?」

英語じゃない可能性もあるけど夕方って意味の英語じゃなかったっけ。

「それは親がつけた小金って名前からきてるの。親が私を見た時に、昔見た黄金の夕陽を思い浮かべたとかいうので小金になってるのよ」

「親が付けてくれた名前大切にしてるんだね。俺なんか自分の名前の由来聞いたことないや」

正直30秒前に聞いたあの名前にそこまでの意味があったとは。

「ま、まあ、さっき言われてしまった通り、私が候補考えたからさ、パパッと決めよ?」

「う~ん、カッコつけないとダメ?」

ジ・イヴニングなんて大層な名前、すぐには浮かばない。

「いや、別に伝わりやすければ基本なんでもいいわ。まあ、言われてしまった以上アレだし、私の候補聞く?」

少しぎこちない笑みを浮かべながらそう提案される。

「参考にお願いします」

「ナイト」

めっちゃシンプルだった。一瞬手抜きかと思ったけど意外と考えられてる。

「俺の名前の夜斗とコネクトした時の見た目が騎士っぽかったから、騎士の英語と俺の名前からもじってナイトって事?」

「合ってる。けど、わざわざ解説しないで...流石に恥ずかしいから」

「ごめん。折角考えてくれたのに意味を取り違えたりしたら良くないと思って、確認の為に言ったんだ」

俺から恥ずかしそうに目を逸らす間時さんを見ると、今日イジられたことの仕返しが少しできたような気がした。

「なら、許す」

そうやってゆっくりと目線が戻る。

「許してくれたところで使わせてもらおうかな。その名前。呼びやすいし」

「ならナイトってことで。これからはコネクトしてるときはそう呼ぶから」

「OK。じゃあ、今日は本当にありがとう!また学校でよろしく!」

俺は間時さんの家を出て、自転車に乗って家まで帰った。帰り道はかなり久々に見た清々しいまでの綺麗な橙色の夕陽だった。


 その日は疲れたからか、家に帰って夜ご飯も食べずに風呂に入って寝てしまった。


 さっきまで高校生が2人いて活気に溢れていたマンションの一室は、ただ女の子1人いるだけの静かな部屋に戻ってしまった。

「さあ、小金。本部に報告にいきましょ。きっとランキングも上がるわよ」

「うん。報告はしない」

相方の提案を飲み込むかのように否定する。

「あら?報告しなくていいの?」

これはただの私の個人的な思い込みかもしれない。でも、そうだったとしても。

「今日の上空君。今日まで見た1ヶ月のなかで一番生き生きしてた」

毎朝彼とは会ってる。もっとも、彼はその自覚がないと思うけど。

「そんな理由で?」

あくまでとぼけるパートナーに理由を話す。

「いや、だって上空君とスミャホルは会って1日しか経ってないんだよ?今日の2人をみて2人を引き剝がす権利は今の私にはないって思った。私が特別何かしなくても、いずれ2人の仲を試される時は来ると思う。だから取り敢えず何かあっても大丈夫なようにリンカーネームは決めさせた。そういう事じゃないの?コミュン」

「まさかそこまでバレてるなんて。というか、途中から分かってたから提案したのよ。あなたは見てるだけなんだからリンカーネームぐらい決めてあげたら?って」

「やっぱり」

ズルい。素直にそう思う。

「ただ、小金。あなたの意志は尊重するけど、私はあなたの選択で上にどう言われるかは責任取らないわよ」

分かってる。もしその時が来たら...

「さて、私たちは夕飯の準備を始めよう。お腹すいたし」

コミュンには言わなかったけどもう一つ思ったことがある。上空君のポテンシャルが異常だ。単に運動部だからとか、ゲーマーだからとか、そんな簡単なことで説明できる戦闘の上手さじゃない。昨日の戦闘で鍛えられたわけでもないような気がする。でも、どれだけ考えてもあまり知らない人の事である以上、確信が持てる答えは出なかった。いつか...彼が私を超す時がきたら私の過去を打ち明けてもいいかもしれない。

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